第1話
突然の事に驚き、何も考えることが出来なかった。
「ここ、どこだよ、ってか何が起きたんだ?」
彼は自宅のパソコンでネットゲームをしていただけなのに、いきなり大草原の真ん中で目を覚ましたことに驚きを感じそして混乱していた。
それもそのはずである。彼は令和時代の初期を生きる普通のサラリーマンであったのだから、いや、古い作品のMMORPGというネットゲームをこよなく愛していたということを普通ととらえるならではあるが・・・・
「とりあえず、深呼吸だな。」
混乱した頭が少しでも冷静になり、落ち着くことが出来るようにと深呼吸をし、自分の状態を確かめる。すると、さらなる情報に混乱してしまう。
「げ!!なんでこんな恰好なんだよ!!」
自らの恰好を見た彼は、先ほどまで着ていたと記憶していた部屋着ではなく、貫頭着のような、ペラペラのワンピースタイプの服一枚に足は裸足にサンダルのようなものをはいているだけの状態であった。
自宅でゲームをしていた時は冬だったので、どう考えてもおかしい恰好なのだが、現在の草原は春か秋かは解らないが、そこそこ過ごしやすい気候のようで、そんな格好でも特に問題はなかった。
そして、そんな格好の服の内側に一つだけポケットのようになっており、何かが入っていることに彼は気付いた。
「ん?これは??」
そこには、彼の良く知っているゲームの説明が書かれており、そのゲームで使っていたキーボードのショートカットコマンドのいくつかを発生により発現できるというようなことが書かれていた。
「いや、何のことだよ?てか、これ意味が解らないんだけど、ステータス?」
訳もわからないままステータスと発した彼の目の前に、ステータスボードと名前の付いた半透明のウィンドウが表れた。そしてそれはゲームをしていたころの彼にとって、見覚えのあるものであり、しかし全く別のもの能力であった。
名前:
LV:1
スキル:突き
能力値:筋力・俊敏性・器用・知力・運
「びっくりした!!って、あれ?なんで名前が入ってないんだ??しかも、HPとMPのゲージが無いじゃないか。どうなってんだよ。これじゃあ・・・まるで・・・」
そうして、定番のほほをつねるというありきたりな行動をとってしまった。
「まぁ、痛いわけだけど、痛いからって夢じゃないとは限らないし、何も得られるものが無いこともわかってはいたんだけどさ・・・」
そう、彼は悲しそうに独り言を言いながら、少しずつ心が落ち着いていくのを感じていた。彼は会社から帰って、夕食を帰りにコンビニで買ってきたお弁当を食べながらパソコンの電源を入れたはずである。そしていつものように軽くネットサーフィンをしながら、新しい情報は無いなと感じながら、自分の好きなネットゲームをしようとしていた。
そしてそこで、最近あまりプレイしていなかったが昔はまっていたネットゲームをなんとなくクリックし、立ち上げると20分ほど久しぶりのゲームを楽しんでいたはずである。
そして、気が付いたら今の状況である。本人としては何もわからない状態でいきなり大平原に置き去りにされたという不可解な状況に混乱していたのだが、同時に、何故かこの短時間で冷静になることが出来ている自分がいた。
「よし、ひとまず、色々と確認していこう。」
声に出すことで落ち着くことが出来るのか。それとも一人暮らしの長さゆえの習慣なのか、今から行うことを声にだし、彼は少しずつできることを探し始めた。
まず、ステータス以外の音声コマンドを確認し、ステータス・インベントリ・スキルの三つのコマンドを使えることを確認した。そしてインベントリと唱えたことにより、自分が布の服・植物のサンダルを装備しており、木の棒というアイテムがインベントリの中にあることを知った。
「このインベントリの中のアイテムを出すのは・・・っと出したいと思って出すって言うだけで出てくるのか。これは便利なようで慣れないと怖いな。入れたいときは?あ、やっぱり簡単に出し入れできるんだ。便利だな。」
と木の棒を出し入れできることを確認すると大草原に無手なのも心配なため、木の棒をインベントリから出して構える。そして、
「突き!!」
発声と同時に、木の棒を突き出すと普段彼が木の棒を突き出すよりも力強く木の棒を突き出すことが出来た。これがおそらくスキルの効果なのだろう。
「2Dのゲーム世界に来ちゃったってことで良いんだよな・・・でもこういうのって本来女神様とかが案内してくれたり、そういうお助けアイテム的なのがあっても良いんじゃないの?」
と言いながら、先ほどのステータスコマンドなどが書かれた紙をもう一度見る。すると、裏面になにやらひらがなだけの文字で、先ほどまで書かれていなかった文章があった。
『たいへんもうわけありませんが、おきゃくさまのじょうほうをはいけんさせていただきました。そしておきゃくさまがわたしのせかいにとってとてもよい てんせいしゃさまになってくださるとかくしんしました。つきましては、このせかいにてたのしいじんせいをおおくりいただけますようこころからおいのりいたしましてあいさつとさせていただきます。』
「いや、あいさつとかどうでも良いから何か情報をくれよ。」
一応王道のパターンをそこまで外していないようで、この世界に転生させた何者かがおり、その目的もあるようではあるのだが、ひらがなだらけの文章では何が言いたいのかさっぱりな上に重要な情報がほとんどない。
このひらがなの羅列でわかったことは、私の世界と言っている存在がいる事、自分は転生したこと、私の世界と言っている者(人であるかどうかは不明)は彼の情報を見ることが出来それを見て彼は選ばれた事であった。
「俺に何をどうしろっていうんだよ。」
場所も時間も目的も何もかもが解らない状況にどうして良いのか困ってしまうのであった。