孵化 ―伝説あるいは、物語の覚醒―
胸の奥がざわざわとする。
以前にも感じたことだ。
こころが何かを生み出そうとしているのだ。
新たな世界の閃きか。
心を割いて生み出す愛し子か。
それとも、
憤怒や激情で吐き出された、黒い欠片である忌むべきものか…。
心には創作の種と共に、
種を育てるための栄養となる、さまざまな感情が渦巻いている。
黄昏に近い、真っ黒なものや、
暁色の柔らかな色にも似た、明るく照らす光。
憤怒の血色や、冷酷さの暗き青。
感情の色を得て、物語の種は覚醒し、成長をしてゆく。
色が孵る。
或いは、光が覚醒する。
種が孵る。
物語が生まれてゆく。
心の色を少しだけ操作して、明るい物語を目指す。
暗い現実の中で、
せめてお話の中だけは、伝説の勇者を書くような文章を書いてみよう。
書き出しはこうだ、
「あるところに少年がおりました…」