【スクランブル交差点をキーワードに書いたお話】
【スクランブル交差点をキーワードに書いたお話】
信号が青になると、人が一斉にスクランブル交差点の横断歩道を渡り出す。目の前の人にぶつからないように避けながら、歩く。
ふと、良い匂いを感じた。
(あっ……!)
一瞬立ち止まり、後ろを振り返る。だが、人が多すぎて、誰だか区別できない。それに、歩いている人に迷惑そうな視線を送られ、仕方なくアタシは歩き出す。
(はぁ……。また、会えたら良いなぁ……)
アタシは期待して、自分が住むマンションに向かう。その足取りは軽く。いつもより気分が良かった。
先程のスクランブル交差点で、視界の端に写った女性の顔。それはオレにとってのドストライクだった。だから、本当は、その女性に声をかけたかった。話をしたかった。でも、恥ずかしがり屋なオレは何事もなかったように、スクランブル交差点を渡りきる。
これからオレは、夜まで仕事だ。何時もなら、憂鬱でやりたくないと感じているが、今日は違う。だって、一瞬だったけど、オレ好みの顔を見られた。
(今日は頑張れそうだ)
仕事に向かう足取りは軽く、自然と頬が上がるのを感じた。
様が済んで、マンションについた頃には、日がドップリと暮れていた。だから、アタシはテキパキと動く。ダラダラ動いていたら、自分の時間がなくなってしまう。それを阻止するように動いていたが、お風呂から出た頃には夜中の12時をまわっていた。
(はぁ……)
ふと、窓から見える景色は、車のライトがキレイな夜景を作っていた。適当に上着を羽織り、湯冷めしないようにしてから窓を開けて、ベランダに出る。そこから見える景色を見ていると、ふと、昼間の事を思い出した。
(あの匂い……)
「良い匂いだった……」
独り言を呟いていた。誰からも返事は返ってこない。だけど、口にしていた言葉。
「香水……、かな……?」
そう言って感じる気持ちはまるで、恋でもしているかのように感じる。まだ、声も、顔も知らない。名前だって知らない。それなのに、恋をしているなんて。でも、自然と、笑みがこぼれ、両手で頬に触れていた。
夜風に当り、くしゃみが出た。だから、部屋に入る。今日はいつもより気分が良い。だって、恋心を久しぶりに感じることが出来たから。
(良い夢見られそう……)
ベッドに入り、電気を消す。
(おやすみなさい)
その日は、あっという間に、眠っていた。
朝になり、ようやく、自分が住んでいるマンションにたどり着く。もう眠くてしょうがない。だけど、ベッドに付くまでは我慢だ。そう言い聞かせながら、眠いのを我慢して、マンションの鍵を探す。何時もなら、さっと見つかるのに、今日はなかなか見つからない。手間取っていると、隣のドアが開いた。挨拶をしようと顔をあげると、オレの眠気は吹っ飛び、こんなことを口にしていた。
「貴女の顔が好きです」
「へ?」
間抜けな返事にオレだって納得する。だけど、次の言葉に驚く。
「私は貴方の匂いが好きです」
「はぁ……」
お互いに好きな部分を述べ、お互いに間抜けな返事をする。その事がおかしく、どちらかともなくクスクスと笑い出す。
「あの……貴女の事をもっと知りたいから付き合いませんか?」
「はい」
その返事に、嬉しくなり、彼女に抱きつく。すると、心地よさそうなため息が聞こえてきた。
「香水……ですか?」
「いや……、香水が苦手で……」
すると、彼女はより、オレの胸に顔をうずめる。それが、いとおしく感じ、より強く抱き締めていた。
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