ダテメガネ
『ままとぱぱがね まっかなんだ』
三階の地図には棒人間が追加されており、女性の棒人間と、男性の棒人間が横になっているように描かれていて、赤いクレヨンで2人の周りは真っ赤に塗り潰されている。
「ねぇこれ…もしかして…」
「…殺人が起きた、当日に描かれたもの…でしょうね…」
さぁっと血の気が引いていくような感覚がする。
体の奥底が凍りついたような、全身が冷えて指先が悴むような、そんな感覚だ。
「…当日、この地図を書いた子供は殺されずに済んだ…のか…?」
「でしたら、警察が彼を保護しているはずです」
「それもそうか…」
三階の地図をまじまじと見つめながら、ペラ…と乾いた音を立てて、裏面を見てみる。
裏面には何も書いていない。
「でも、これ3階さぁ…屋根裏部屋っぽくない?」
地図を見る限り他に部屋や区切りはなく、一室のずっと奥の方に星のマークが印されていた。
「確かにね。でも、3階に上がるための手段がなぁ…階段みたいなのは見つからなかったし…」
そう。一番の問題はそれだ。
たからのちずは見つけたものの、今度は三階に上がる手段がないのだ。
俺が唸りながら考え込んでいると、凛斗がごほん、と咳払いをした。
「僕、見つけましたよ」
「ほんとに?」
「はい。見間違いでなければ廊下の奥にありました」
「……奥…?」
▽▽▽▽▽
「なるほどね…そりゃ見つからないわけだ」
ゆらゆらと俺たちの目の前で踊るように揺れる縄ばしごは、汚れのせいで黄ばんでいる。
廊下の奥の隙間から入れる小さな部屋に、この縄ばしごがかけてあったのだ。
「よく見つけたねぇ凛斗くん…」
「まぁ、僕目はいいので」
へぇ〜…と頷きかけて、ん?と後ろを振り返る。
目がいいのに黒縁メガネ…?
「あ〜、凛斗のこれね、ダテ」
「そうなの?」
「そーなの!凛斗って顔いいでしょ?だから、女子からのアプローチが酷くて困ってたんだよ。そん時僕がお硬そうに見えるようにメガネしてみたらーって言ったら、ほんとにしちゃって」
「単純だよね」と笑う瑠宇の横腹を小さくつつくと、彼は恥ずかしそうに俯いた。
「逆効果でしたけどね」
「顔良プラスメガネとかそりゃ逆効果でしょ。でもメガネは取らないんだ?」
「気に入りましたので」
「なるほどね」
カチャ、とメガネの位置を直すその様は完璧だ。インテリ男子って言うんだっけ、こういうの。
まぁそれは置いとくとして、風も吹いていないのに揺らりと踊り続ける縄ばしごを手に取り、一番下の縄に足を引っかける。
「俺が先に行くね」
「えっ、ちょ」
縄ばしごの強度を確かめるように、1回体重を預けてみる。
…特に縄が切れることも無く、ぶらんとぶら下がれたのでそのまま上に登ることにした。
1番上まで登りきって、彼らに視線を投げると、心配そうな顔をした瑠宇が声をかけてきた。
「どーお?」
「大丈夫。みんなも早く上がってき……て…」
言いながら正面を向くと、目の前に広がる光景を見て目を見開いた。
三階の部屋…屋根裏部屋の中心には、たくさんのネズミの死骸と何かの骨、乾いた血の跡がくろぐろと床に染み付いていた。
ギシ、と瑠宇が縄ばしごに足をかけてそちらに向き直る。
「来るな!!」
見せてはダメだ。
彼らにこの光景を見せたらダメだ。
俺が出した怒鳴り声に、え…?と3人は困惑した様子でこちらを見上げてくる。
「どうした翠さん」
「何かあったんですか…?」
2人の問いにもう一度正面を向きながら、ゆっくりと、時間をかけて答えた。
「……固まった血と…ネズミの死骸…あと、よく分からない骨がある。だから君たちは来ちゃダメだ」
そうして立ち上がると、彼らに微笑みかけて、
「この階は俺だけで探索するよ」
と呟いた。
今回はサブタイ忘れませんでしたよっ。
さて、次回は翠のソロ回でございます。
追記:なんでサブタイぃぃぃぃアァァァァァァ