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記憶に咲いた一輪  作者: たわとと
2/11

夕日に照らされた廃屋敷

瑠宇たちと出会って自己紹介を交えた雑談をして、さて本題。知りたいことがある。


「ねぇ、そういえばさっき瑠宇くんさ、ホラー探検って言ってたよね。それなに?」


この季節外れな時期に心スポに来ている、そしてホラー探検という単語…おそらく彼らもオカルト好きな子たち…なのだろう。


「僕たちは大学でオカルト研究会に入ってるんですよ。まぁ、会員はほぼ幽霊会員というか、主に活動してるのは僕たち3人だけですけどね」


凛斗の言う幽霊会員というのは、オカルト研究会には入会しているものの、姿を現すのはごく稀の会員…アクティブじゃない人のことをそう呼ぶのだ。ちなみに俺も昔オカ研には入会していたが、途中からめんどくさくなってゴースト化していたな。にしても今の時代のオカ研はホラー探検なんてこともするのか…。


まぁそんな事は置いておこう。この会話で彼らが大学生なのだということを知った。そんな時、ひょこっとこちらの顔を覗き込んだ瑠宇がニヤリと笑う。


「翠さんっていくつ?」


可愛らしい顔で結構ストレートに質問をしてくる。まぁいいんだけど。


「いくつに見える?」


だがそう簡単には教えないぞ。

こちらも意地悪く笑うと、ぶー…と瑠宇は面白くなさそうに頬を膨らませる。可愛いな。


「まぁ、まずは僕たちの年齢からですかね。この2人より真面目で年上の21歳です」


目を細めて笑う凛斗に続いて、柘榴も年齢を言うために口を開く。若いっていいな、年齢を教えたり聞いたりするのに躊躇わないんだもん。


「真面目…あ、俺は20歳っす」

「ぼっくも〜!」


ぴょんぴょんと飛び跳ねる瑠宇は、年齢よりも幼く見える。ほんとに成人男性なのか…?


「じゃあ、次は翠さんねっ!いくつ?」


やはり来たか。これは流れ的に言わないとダメだよな…。

聞こえるか聞こえないかの声量でぼそりと「25歳…」と言った俺に、えっ?と同時に声を上げた3人。


「まだ若いじゃないですか。ですが、25歳には見えませんね」

「俺は同い年か、ちょっと先輩くらいかと思った」

「ね!!翠さん童顔〜!!」


君が言うのか、というツッコミは飲み込もう。まじまじと顔を見られるので妙にいたたまれない気持ちになってしまう。


そうこうしているうちに、カァ、カァ、とカラスの鳴き声が聞こえてきた。

こんな山奥の森の中から聞こえるカラスたちの鳴き声はかなり雰囲気を出す。


見上げた空は、夕焼けの暖かな陽の色に染っていて、とても綺麗だった。誰から先に何をするも、会話もすることなく、俺たちはただ無言で数分、キラキラと光る空を眺めていた。


「……日が沈むね」


空から目を離して、3人に声をかけた。

こちらを見つめた彼らの髪色が、緋色に染ってサラサラと風に撫でられる。ざぁ…と風が木々を揺らし、葉をさらう。どこからともなく舞い降りてきたひとひらの葉を拾い上げ、そっとまたそれを飛ばした。


「そろそろ中に入ろっか〜」


心休まる時間を過ごしたあとは、恐怖を楽しむ時間だ。

こんな明らかにヤバイ雰囲気の建物に入るのだから、楽しんでいられるかどうかだが、彼らは思い思いに口を開いた。


「楽しみだなぁ。何が待ってるのかな〜??」

「お前怖さメーターカンストすると泣き出すからな…へらへらしていられるのも今のうちだぞ」

「うっ。…な、泣かないし…もう泣かないし…」


「なにより翠さんいるから泣けないし…」と言葉を付け足した彼に、ピクリと肩が反応した。


「あ…俺も一緒なんだね」


内心を悟られないように笑うと、瑠宇は「あったりまえじゃん!これも何かの縁、運命!一緒に探索しよっ!」と語尾を可愛く言われてしまえば、断れるはずはなく。


一緒に廃屋敷を探索する仲間と出会ってしまった、秋の夕暮れ。こんなことになるとは思わず、俺は隠れて苦笑いをこぼしたのだった。



△▽△▽△



「まずはお屋敷に入るための入口探しだよね〜ここ裏っ側だ」


ぴょんっと小さく跳ねた瑠宇は、粉々に割れている窓ガラスの向こうを覗き見る。


「見えたか?」

「まったくっ」

「でしょうね」


むむ…と悩む素振りを見せた瑠宇と目が合った俺は、背伸びをするようにして窓ガラスの向こうを見てみる。


ここから見える中の様子はあまり確かではないが、なにか家具が横に倒れていて、部屋と思われる窓ガラスの向こうは荒らされていると予想ができた。


「窓からの侵入はできなさそう。チクチクガラスが刺さって心スポ探検どころじゃなくなっちゃう」


中の様子を確認し終わって、次は表側の方に向かって足を進める。

俺の後ろにいる3人を一瞥して、ちゃんと付いてきてるな、と確認。


「翠さん心スポ慣れてる感じ?」


外壁に手を置きながら、質感を楽しんで歩いていた俺に向けられた小さな尋ね声。いつの間にか横に並んでいた瑠宇に目を向けて、うーんと首を捻る。


「特に慣れては…友人が大のオカルト好きで、たまに強制的に連れてこられるくらいかな」


何十回も、と最後に足して、友人の事を思い出して胸が痛んだ。俺のオカルト好きは彼に影響されたもので、最初は怖いものなんて死ぬほど嫌いだった俺も、彼と一緒に心霊スポットを巡ったりして慣れていって…いつの間にか好きになっていた。


だが、彼はとある心霊スポットに行ってから性格ががらりと変わった。優しく明るい性格から一変、ちょっとしたことでイラついて、すぐに暴力に走る最悪な変わり様を見て、初めて絶望の色が見えた。


俺の世界を彩ってくれた彼は、俺の視界から、世界から、色を奪っていって、いつしか俺には絶望と、赤の色しか残されていなかった。

抵抗されながら引きずるようにお祓いに行っても霊媒師に渋い顔をされるだけで、状況はまったく変わらず。


俺は大好きだった友人から、離れることを決意した。


……そんな苦い思い出を振り返っているとちょいちょい、とフリースジャケットの袖を引っ張られる。


「翠さんはそのお友達が大好きなんだね」と笑顔で言われて、どう反応したらいいのか分からなくなった。だが、それでも「…そうだね」と言葉が出てきたのは、また昔のように彼と遊べたらいいな、という思いからなのだろうか。


しばらくの間沈黙が流れて、ザクザクと草を踏みしめる音だけが周りに木霊する。拓けた場所に出ると、後ろから「あっ」と声が上がった。


出てきた犬小屋らしきものを見つけて、一同足の進みを緩める。


「大きいね」


人1人入れそうなほど大きな犬小屋は、屋根は崩れ落ちて、蔦が這い巡らされていて、ちょっとグロテスクだなと感じた。


でも、お目当てはこれじゃない。


「入口探し再開だよ」


パン、と軽く手を叩いて前を向いた。


このままでは完全に日が沈んで辺りが真っ暗になってしまうので、二組に分かれて入口を探すことになった俺たちは、凛斗と柘榴、瑠宇と俺という謎な振り分けに落ち着いた。


少しして「おーい」と低い声が聞こえてきて、顔を上げる。


「見つけたぞ」


瑠宇と顔を見合わせると、柘榴たちの元へ一直線に走り出した。


「うっわぁ…」と思わず声を漏らして、柘榴たちが見つけた入口を見上げる。


それは屋敷の玄関扉で、かなり大きなその扉は紫色に染められていた。イタズラだろうか、それとも元からか。どちらにせよこんな山奥に佇んでいるのだから紫のドアは趣味が悪いのではないか?


「かっこいいね〜!」


俺の考えていることとは真逆な感想が隣から上がったので、感じ方次第か、とまた考えさせられた。


「やっと入口を見つけたことですし、入りましょうか」


そう言ってドアノブに触れようとした彼の手を掴んだ。


あれ、なんで…


体が勝手に動いてしまって焦っていると「あの…?」と怪訝そうな顔をした凛斗。


「あ…ごめんね。でも危ないから、ここはお兄さんに任せなさい」


冗談っぽくそう言って、反論されたりする前に自分の手をドアノブに置くと、さっと下にノブを下げた。


「行くよ」


そうしてゆっくりドアを前に押すと、ビリッと静電気のような感覚が頬を刺激した。


「っ…?」


びっくりして声にならない声を上げているうちに、彼らはドアをさらに押し開ける。ギィ…と軋むような音がしたが、3人はそれを気に留めることなく中に入っていった。どうやら彼らは何も感じなかったようだ。


ホコリが溜まっていたからかな、と思いながら、自分も彼らに続いて奥を目指す。


たしかにヒリヒリとする頬に指を当てながら、なんだったのか考える。

だがそれよりも興味を引くものが目の前に転がりに転がっていて、しだいにそのことは自分の頭の中からすっぽりと抜け落ちたのであった。




次回は屋敷の1階探索です。

お楽しみにっ

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