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第一話「ざまぁみろ」

 

 それは神からの恩賜と言われた。

 または、人類の進化とも言われた。


 授けられたか、たどり着いたかは今は不明。だがそれは確かに存在した。


 《能力(スキル)


 遥か古代に人々に発現した力であり、当時から現在までの人類を支えてきたものである。古代に人々を滅ぼそうとした邪悪な魔物達と戦う術として発現した数々の能力は、今でも人類と魔物の戦いでは必須となっていた。

 能力の種類は幅広く、戦闘向けから生活向けまで様々であり、生まれた時から最低一つは宿しているものである。ただし、能力では向いていない魔法や技を習得することは不可能とは言えず、能力は才能の延長であるというのが現在の見解である。


そして生物には魔力(マナ)が宿っており、魔力こそが能力の原動力となっていた。


 その中でも希少価値のある能力を宿したものは、魔物との戦いで多くが多大な戦果を残す英雄、勇者と呼ばれた。

 子供や大人まで皆勇者や英雄になることを夢みる世界こそが、このレグナム。


 そして、レグナムにある5台大陸の一つ。イスラガルドのある王国の闘技場こそが物語の始まりであった。


ーーーーーーーーーーー

闘技場では、国中の観客が集まり大歓声が起こっていた。

今日の闘技場内では、数ヵ月前から予定されていた決戦が行われ、既に佳境へと差し掛かっていた。


闘技場の歓声を受けながら戦うは、白い肌に金色の髪と目を持つ優しげな顔の少年。体型はみる限りでは、頼りなく黒い軽鎧で身を守りつつも心配を誘う。

その手には、黒き刀身を持つ装飾豊かな剣を握りしめ、目の前の敵へと向き合っていた。


対する相手は、少年と同じく金色の髪と夜鷹の如し鋭い眼光を持つ青年。その顔付きは強気であり、体も筋肉隆々で鍛えられていた。白銀の鎧を身に纏い、鍛え抜かれた豪腕には、赤と黄色の大剣を握りしめ、その背後に金と銀の大剣を浮遊させていた。


そして、大柄の青年が巨大な剣を振り回しながら、空中に展開した大剣にて少年を追い込んでいく。少年は、相手の攻撃をしっかりと回避しながら闘技場を駆け回る。

4刀流とも言える剣技を披露する青年の攻撃は、激しさを増す一方であり、少年が回避した場所には次々と斬撃の痕が残されていく。


青年が派手な技を繰り出し、それを紙一重で回避する少年によって会場は大きく盛り上がっていた。



「これが噂の剣帝の能力者と全能の能力者の対決か」

「馬鹿違うよお前さん。剣帝と無能の対決だよ」

「そうか、いやでも無能の能力者って噂だと思ってたし、実際みる限りじゃ、どう考えても押してるのは無能だ」


観客の何人かはそういう話をしている。今日の試合が盛り上がっていたのはそれなのだ。

大変希少な剣技系最強の能力《剣帝》を持つ青年と同じく希少ではあるが役立たずの烙印を押される能力《無能》を持つ少年の戦いが行われていたのだ。

剣帝は、数々の勇者を生み出した偉大なる能力であり、無能は他のどの能力にも劣ると言われた差別の対象。その両者がぶつかりあい、国を挙げてのイベントとして扱われていたのだ。


「剣帝もすごいっちゃすごいけど、無能はどうなってんだありゃ」


本来であれば勝負にならない対決。しかし、剣帝の攻勢は一変。

突然少年が動きを止める。剣帝はその隙に両腕の巨大な剣を振り回し、小さな体を切断しようとする。

だが、少年の皮膚へ大剣が食い込んだとき、まるで巨大な金属の柱を剣で殴ったかのような衝撃が剣帝の腕を痺れさせた。必殺の一撃が少年の皮膚に防がれた剣帝だったが、何度も何度も剣を振るい、硬質でびくともしない少年の体に徐々に動きを止めていく。

一方で、無能と呼ばれた少年は、剣帝以上の速度と精度で黒い剣を振るう。巨大な剣と鍔競り合いになった際、何故か筋肉隆々の青年だけが吹き飛ばされ、体制を立て直そうとした所に炎、氷、水、雷、風といった攻撃魔法が同時に青年を襲う。

空中に浮遊させた剣を回転させ盾のようにして防御する剣帝であった。少年は地面に手を着くと闘技場の足場である石を3mはあるゴーレムへと変化させ、巨大な岩の拳を振るわせた。


突然現れたゴーレムの攻撃を回避した時、目に見えない速度で駆け抜けた少年の一太刀が、青年の右腕を切り裂いた。


「ぎゃあああああああ。ぐうううう」


腕を切り裂かれ痛みにのたうち回る青年。その姿を少年は余裕の笑みを浮かべながら見下ろしていた。筋肉と骨が頑強でありギリギリ腕は繋がっているが、暫く剣は右腕で握れなくなった剣帝の青年。

彼は自分を見下す少年に憎悪と怒りを向けて吠えた。


「薄気味悪い面をしてんじゃねぇよ。無能が!」


対して少年は、青年に向かって冷静に告げた。


「だったらお前は無能にも勝てないクズだ。お前にパーティーから追放された恨み、僕は決して忘れてないぞ」


青年の空中浮遊させた大剣二本が同時に少年に降りかかるも、少年は空中に結界を張り防御する。結界に囚われた大剣を諦め、その隙に距離をとるべく後ろに大きく飛んだ青年。

青年は、全身から魔力を迸らせ、次の一撃への準備に入った。

迎え撃つべく少年も魔力を全身に巡らせ、上段へと剣を構える。


この二人の関係は、簡潔に言えば過去に同じパーティーに属していた仲間である。剣帝のパーティーに入っていた無能の少年は、剣帝の悪意の対象となり、蔑まれてきた。

そして彼らのパーティーがドラゴンの討伐を終えた後、剣帝の独断によって2年間一緒に戦ったパーティーを追放された。


路頭に迷うはずだった少年だが、無能の能力の真意に気がつき、一気に覚醒。目覚ましい成果を残し続け、ついに剣帝のパーティーを越えるほどのパーティーを結成。

少年が抜けたことでパーティーの不和や連携の不具合などが起こった剣帝のパーティーは壊滅。


どうにか体制を建て直そうと剣帝が婚約者である王女との結婚を王に打診。御忍びで少年のパーティーに入っていた王女を悪逆で有名な剣帝へ渡せないと決闘を申し込こんだ少年。

公共の場で少年を殺し力を誇示しようと剣帝が受諾。それがこの大勝負の概要であった。






試合もクライマックスと言ったところで観客席とは離れたVIP中のVIP席に腰かけた王冠を被りし、国王は顎を撫でながら言った。

「一方的ではないか。此度の剣帝は、見込み違いだったか。お前の言葉に耳を貸して正解だったなアリシア」


王様の少し後ろの席に座る銀髪の美しい王女は、頷きながら語る。


「剣帝は、正直言って性格にも問題が多かったので。素行不良や暴力行為、ギルドの規律違反、あげればきりがありません」

「最初はお前の婚約者にと思っておったのだがな……」

「ご冗談を。私は既に心に決めた方がいらっしゃいます。彼の心はわかりませんが……ですが、剣帝を倒し必ずや国の役に立つ人材だと証明してくれるはずです」


王女が頬を朱に染めながら見つめるのは、青年と向き合う少年だった。恋する娘を見て王様は、少し呆れながらも試合を見直した。


試合も終盤。観客席ヒートアップの頂点。だがしかし、少年と青年の間には、観客の対応の差が明白に現れていた。


「何が剣帝だ! 俺達のパーティーを虐めて来やがって。お前のせいで解散するはめになったんだ」

「僕のお兄ちゃんは剣帝のせいで、剣を握れなくなっちゃったんだ」

「絶対に許さない。お前のせいで店が潰れたんだぞ。やっちまえ」


次々に飛ぶ剣帝に向けての罵倒。一方で無能へは、声援が次々に飛び交い、どっちがアウェーかは丸わかりであった。特に声援が熱いのは、闘技場から一番見えやすい観客席で声援を送る赤髪の犬系獣人の女性と金髪エルフの少女、そして魔女風の少女の3人であった。

全員が美少女であり、一際華やかとなっていた。少年も少女達を目で見て笑い、次に王女へとアイコンタクトを送る。王女や少女達は、それに嬉しそうに頷いた。

彼女達と少年は同じパーティーだった。


「いよいよ決着だね。剣帝を倒せば、お姫様の婚約も正式に取り消し……ライバルが増えるのは癪だけどね」

「負けたら承知しないんだからね!」

「絶対負けない。信じてるから」




「黙れ。ここでこいつを殺せば全部元通りだろ【流星斬】」



剣帝は、観客へと殺気を向けながら少年へと残った左腕で黄色い剣を振り下ろした。自分が負けるはずがないと。自分が授かった剣帝の能力こそが最強であるという傲慢さを象徴するように剣から魔力の奔流が放たれた。

剣帝の能力により強化された魔力の奔流。その技は、青年の一族……剣帝を多く排出した一家に伝わる剣術の奥義。そして青年の使うは数々の剣帝が使った魔剣や聖剣の4本。現在は一本しか使えないが、選ばれし使い手にしか扱えない特級の剣が剣帝の力を強める。


その一撃が眼前に迫った少年は、剣帝と全く同じ魔力の奔流を黒い剣を振り下ろす剣戟に乗せて放った。


「【流星斬】」

「くたばれ」


同じ技がぶつかりあい、闘技場を衝撃が襲う。だが勝負は一瞬で決まった。拮抗した魔力の奔流同士であったが、突如剣帝の攻撃が消失。

突然、少年から放たれた攻撃は剣帝の体を飲み込み、闘技場の壁へと剣帝を吹き飛ばした。


「かっ」


何が起きたかわからない剣帝。全身ズタボロになりながら自分の左腕を確認する。


「お、れの、剣は?」


握っていたはずの剣が何処にも見当たらなかった。もちろん手放したわけではない。気絶しても剣だけは放さない訓練は積んでいる。左腕は動くのであれば、すっぽぬけた訳ではない。

剣帝は、丸腰になっていた。


「……驚いたな」


突如少年の声が聞こえ、事態を理解できない剣帝は少年をみる。そして信じられない光景に驚愕する。


「ば、か……な」


少年は、青年の持っていた剣を黒い剣を持つ右腕ではなく反対の左腕に持っていたのだ。身の丈ほどもある大剣を軽々と振るう少年。自分の剣が奪われた事が信じられない青年。

何故なら剣帝の剣は、強大な力を宿すため、剣帝の能力者以外が扱えば、魔力の逆流によって身を焼かれるのだ。


なのに少年は剣帝の剣を持つだけでなく、コントロールを離れた残りの3本の剣を剣帝と同じく魔力で浮遊させ操り始めた。

そして一通り操作し終えると、呆然とする剣帝まで歩みより剣を首に向ける。


「どうやら、仲間や権力だけじゃなくて、剣帝の剣や能力までもあんたを離れたみたいだね……兄さん。僕の勝ちだ」


いつも剣帝の青年が少年に向けるような目で、少年は告げた。全てを失い、無能へと転落したのは お前なのだと。


「ざまぁみろ」

少年は、青年を見下しながらそう告げた。

青年が絶望と疲労で気を失う直前、闘技場の審判の声が響き渡った。


「勝者。シャクランド・プローマン! そして敗者は、アスランド・プローマン」





この物語りは、元剣帝アスランドの復讐の物語りである。



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[良い点] 面白そうな予感がしますね。応援しています。
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