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第23話 初めてのイベント戦その4 ゲームの中だけでも、性別を偽りたい人って、けっこういたりする。

 ケイオスさんは宣言すると同時、町の外壁上から飛び降りた。


 高く舞い上がり、ついでに空中で爆転を三回鮮やかに決め、そのまま雪が積もる地面に――――激突した。それも顔面から。


 頭部分が雪深くもぐり、直立不動のケイオスさん。ヒザ神ならぬカオ神である。走り刺さりという競技がオリンピックにあれば、あらゆる猛者を退けて金メダルが取れそうだ。顔が地面に埋まるため、金メダルをとっても、なにも言えねぇことだろう。


 ……っていうか、大丈夫かな? ケイオスさん。一見、自爆したように見えるケイオスさんだけど、現在、変則ルールが適応されているため、HPの減りはゼロである。こんなひどい目に遭っても体力が一切減らないので、プレイヤーさんは今まで以上に無茶な行動が行えるわけだけど……。


 これって、僕たちアバターにしてみれば、とんでもなく鬼畜使用なんじゃないだろうか? 致死量のダメージを受けても死なないのは、ある意味地獄と変わらない。64マ○オはとんでもなく高い場所から飛び下りても、ヒップドロップをすることで回避できるけど、配管工にしてみればまったく解決になっていないことだろう。足首痛めるとか、そんな次元じゃないよ、うん。もう少し、僕たちゲームのキャラをいたわってね? 縛りプレイとか新記録に挑戦しようとしているんだろうけど、そんなことをするときは、決まって僕たちは人外の動きを要求されるのだから。プレイし終わった後のゲームキャラの身体はボロボロだよ? 「もうやめて! ○○○(ゲームのキャラ名)のライフはもうゼロよ!」状態だよ。


 勝手に雪に突き刺さっていたケイオスさんは、やがて身体を動かし、雪の中から顔を引っこ抜く。ピク○ンほどの可愛さはケイオスさんには悪いけど、正直なかった。ケイオース♪(引っこ抜かれるときのSE)



ケイオス>……ふ、ふふふ……。やるではないか。我を貴様らの罠にはめるとは……。



 いやいやいやいや! ケイオスさんが勝手に自爆したんじゃないか! その自己責任転嫁はどうかと思うよ!



ケイオス>しかし、残念だったな。我の肉体は鋼のごとく! ギリシャ神話におけるヘラクレスが成し遂げた試練を我も潜り抜け、血潮は鉄、身体は剣のごときになったのだ!



 色々と混ざってない? その言葉。



コブタロウ>それでもって、心はガラスなんですね? わかります。



ケイオス>だ、誰が心はガラスだ! 我が心は度重なる苦境により、十三回殺されないと死なないほどに強くなっているのだ!



 ……なんだろう。聞いてはいけないことを聞いた気がする。



ケイオス>ふふふ……。我の(こと)()にぐぅの根も出ないのだな。



 いや、……まあ確かに、そうと言えばそうかもしれないけど……。

 だけど……、ぐぅの音って……。



コブタロウ>ぐぅの音って、なんだか可愛らしい言葉を使うんですね。



ケイオス>か、可愛らしいだと!? 我にそのような侮辱的な暴言を吐くとは……許さん!

 なんだなんだ! みんなそろって私のことを可愛いだなんて……。

 私はカッコイイ女を目指しているというのに、皆私のことを可愛いだのと言って、フリフリのフリルのついたメイド服やチャイナ服を着させるんだ!

 私はコスプレをするならマーキュリーがいいって言ってるのに、いつもタキシード仮面をやらされるんだから……!

 度重なる侮辱に私の心はサンドバック状態だよ! ホント!



 なんだかケイオスさん、頭に血が上っているせいか、余計なことをベラベラとしゃべってるなぁ。……っていうかケイオスさんのプレイヤーさん、中の人女性だったんだ。知らなかった……。



コブタロウ>さあ、『ああああ』さん、行きましょう。こんなダーク☆フレイム☆マスター(爆)の戯言なんて放っておきましょう。



ケイオス>誰がダークフレイムマスターだ! しかもその発言の仕方、悪意を感じるぞ! ネチケットを守れ! ネチケットを! もう少し穏便なやり取りをしてもいいではないか!



 そう言い、気を沈ませるケイオスさん。……言っておくけど、先に手を出してきたのはケイオスさんのほうなんだけど……。


 あとコブタロウさん。君はケイオスさんに喧嘩を売り過ぎだよ。もう少し温厚にいこうよ、温厚に。なんだかコブタロウさん、ケイオスさんにはやたら目ったら強く当たるなぁ……。


 ……いや、そうでもないか。僕に突っかかってくる人たち全員に、やたらと強気な態度をとっているような気がする。……原因が十中八九こちらにあるというのに……。


 ……とと、話が逸れてしまった。


 ケイオスさんはぶつくさとその後も文句を呟いていたが、やがて雪玉をぎゅっぎゅとつくると、



ケイオス>と、とにかく! 我は許さんぞ! 勇者でありながら、数々の悪事を働く貴様を、我が断罪してくれる!



 裂帛の気合とともに放たれる、高速の雪玉。


 速い……っ! 攻撃力の高さがダイレクトに雪玉の速さに影響することを考えると、ケイオスさんは相当強いことがうかがえる。確信した。


 僕のプレイヤーさんは、これまでに培ってきた回避能力を存分に生かし、ケイオスさんから放たれる雪玉をことごとく避けていく。



ケイオス>ほう……。我の滅びの爆裂疾風弾を避けるとは、なかなかやるな。



 爆裂疾風弾。疾風のごとき超加速の雪玉を相手に放ち、雪玉を爆裂させる技か……。



ケイオス>ふふふ……。驚いて声も出ないようだな。まあ、無理もない。攻撃力3000は伊達ではないというわけだ。



 だけど、結局のところ通常モンスターだから、除外耐性がまったくついていないんだけどね。社長のエースカードなのに……。最近は社長の嫁をモチーフにした、眼が銀河の光子龍が現れてるけどね。



コブタロウ>ふふふ、それがどうしたんですか? 攻撃力が3000なんて、今の時代じゃそんなに珍しくないですよ。最近は攻撃力が10000越えすることも、やろうと思えば結構な確率でできるんですからね。



 何の話してるのさ、コブタロウさん! ゲームが違うって!


 ……まあ、僕もぼんやりとながら同じこと考えてたけどさ……。


 ケイオスさんはどれだけ雪玉を投げても、一切ダメージに繋がらないことにいら立ちを覚えているようだ。ぐぬぬ……、と歯噛みした顔が、アバター越しに見えるような気がする。


 やがて、雪玉のストックが切れたのか、雨霰と続いていた攻撃が止んだ。



コブタロウ>今です!



 君は某中国の策士か!


 だが、確かにコブタロウさんの言うとおりだ。なんだっていい! 攻撃が止んだ今こそ、形勢を逆転させるチャンスだ!


 僕のプレイヤーさんは、ここぞとばかりにストックしていた雪玉を次々と放つ。


 それはまさに弾丸のごとく。序盤のそれとは思えない超火力の攻撃力補正をもって、ケイオスさんの息の根をとめにかかる。



ケイオス>ち、ちょっと待ちたまえ! 少しポーズをとっていてくれないか!



 雪玉が僕の手から放たれるたびに、爆弾が着弾したかのような轟音を辺りに響かせる。それに恐れを抱いたのか、ケイオスさんはそのようなことを言ってきた。


 しかし、残念なことに、オンラインゲームにポーズ機能は基本実装されていない。当然、このゲームも例外ではない。



コブタロウ>君がガメるまで、投げるのをやめない!



 ガメるってなに!? ひょっとしてGAME OVERの動詞なのか!?


 僕のプレイヤーさんと一緒に、ケイオスさんを攻撃しにかかるコブタロウさん。


 コブタロウさん! 駄目だって! 僕のプレイヤーさんみたいに外道な道に走っちゃ!


 相手はひとり。フェアプレイ精神を雀の涙ほどでも感じているのなら、ここは一緒に攻撃しないで!


 しかし、そんな僕の切実な言葉など届くはずもない。コブタロウさんは攻撃が途切れないように、僕のプレイヤーさんの雪玉が切れたのを見計らって、攻撃をケイオスさんに仕掛けていた。火縄銃の兵法を彷彿とさせるその動きには、一片の無駄も感じさせなかった。



ケイオス>ま、待ちたまえ! 我たちは互いに勇者同士、正々堂々と戦ってこその勇者だとは思わないか?



 僕の心の声を代弁してくれたケイオスさん。


 だが、



コブタロウ>勝てばよかろうなのだ!



 コブタロウさんは相手にしなかった。


 ああ……。コブタロウさんがどんどん僕のプレイヤーさんに毒されていく……。純粋だったあの頃に戻ってほしい……。


 ……いや、純粋ゆえの行いなのか、これは?


 僕たちの攻撃を避けるために、逃げ回っていたケイオスさん。だが、やがてそれも限界がきた。僕のプレイヤーさんの放った一撃が、ケイオスさんを直撃したのだ。


 ドッゴオオオオォォォォン、と隕石が墜落したかのような轟音。雪煙が天高く舞い、地面を軽く振動させる。


 辺りが静寂に包まれる。その静けさが、実に不気味だった。


 やがて雪煙が晴れていく。晴れた先。そこには半径三メートル程のクレーターができあがっており、そのクレーターの中心には、人の形をしためり込みが存在していた。


 ケイオスさんの姿は、どこにもない。



コブタロウ>やりましたね! これぞ正義の勝利、といったところなんでしょうか?



 ……いや。僕たちに正義なんて高尚なものは、存在していないように思える。


 あるのは、どのようなあくどい魔王すらも恐れる、私利私欲の意思のみだ。


 僕のプレイヤーさんは、あとかたもなく消えてなくなったケイオスさんを確認すると、次なる獲物を求めて、新たな場所へと移動した。






 弱っている獲物を見つけては横取りし、ポイントを獲得していく僕のプレイヤーさん。


 このネチケットなどどこ吹く風な僕のプレイヤーさんには、やがて『ハイエナ勇者』の二つ名を獲得することになったのだった。

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