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第22話 初めてのイベント戦その3 RPGにひとりは欲しい設定ってあるよね?

???>待て!



 矢のごとく鋭く放たれたメッセージ。どことなくその言葉には、凛々しさが滲み出ているようだった。

 コブタロウさんのときのように、僕のプレイヤーさんはカメラを動かし、メッセージを放った主を探し出そうとする。

 あたり一面に広がった銀世界。雪が降り積もった木の陰も調べるが、どこにもその姿を捉える事ができない。



コブタロウ>ぼくも探します!



 どうやら先ほどのメッセージは、コブタロウさんのプレイヤーさんのところにも届いていたらしい。僕がそわそわと落ち着きのない行動をし始めたところを見て、コブタロウさんが手伝ってくれることになった。

 ……が、結果は同じ。地上のどこを探しても、メッセージの主を見つけることができない。

 探すこと五分。メイド○ンワ○オならプチゲームが十個ほどできる時間をもって、僕のプレイヤーさんは――――


 探すのをあきらめた。


 ……。

 うん。そういう人だよね、僕のプレイヤーさんは。用意されているフラグを平気でへし折る人なんだよ、この人は。恋愛シミュレーションゲームの主人公ならバッドエンド確定だね。ヒロインも誰とも結ばれずにひとりエンドを迎えるよ、絶対。



コブタロウ>『ああああ』さん! 探さなくていいんですか?



 突然、探すのを放棄した僕のプレイヤーさんに、そう訊いてくるコブタロウさん。当然、僕のプレイヤーさんは、なにも語ろうとはせず、完全無視。チャットウインドウも、コブタロウさんのメッセージを最後に、静まり返っている。オンラインゲームは、チャットでの見知らぬ人とのコミュニケーションも楽しみのひとつだというのに、僕のプレイヤーさんはそれを行う気配はまるでない。ただひとり、我が道を突き進んでいる。スパイラルドライバー。

 僕のプレイヤーさんが向かおうとする先は、雪合戦がヒートアップしている渦中。物言わず戦場へと僕を向かわせる僕のプレイヤーさんに、コブタロウさんは、



コブタロウ>なるほど……。わかりましたよ、『ああああ』さん。些事にはかまわず、あくまで大義を為そうというのですね。



 ……うん。コブタロウさん。全然、わかってないね。

 大義? とんでもない。単に僕のプレイヤーさんは虐殺を行おうとしているのですよ。弱った獲物をひたすらに横取りする、まるでハイエナやハゲワシのように……。

 その後もコブタロウさんは、「すごい!」や「やっぱり『ああああ』さんは素晴らしいお方だ」的な賛辞を僕に――厳密には僕のプレイヤーさんに――送り続ける。太鼓持ちも、ここまでくれば大したものだよ、本当。



???>こらそこ! 勝手に帰ろうとするな!



 そんな僕のプレイヤーさんの行動を、メッセージの主が黙っているはずがない。再度そうメッセージを投げかけてくる。

 しかし、僕のプレイヤーさんはもう声の主を断定するのが面倒くさく感じているせいで、メッセージに耳を貸すような殊勝な心がけをしようとしない。コブタロウさんも、僕のプレイヤーさんに倣って、これ以上メッセージを送ろうとする気配を見せていなかった。

 そんな僕たちに、ついに耐えかねたのか、



???>ここだ、ここ! 壁の上だ!



 声の主は堪りかねて、とうとう自分の居場所を白状した。

 それでようやく、僕のプレイヤーさんは街の周囲を囲っている外壁の上へとカメラアングルを移動させる。

 するとそこには、



???>……ふっ。ようやく我の姿を見るに至ったか……。まあ無理もない。我こそは闇を統べる者――ダークネス・マスターだからな。闇に溶け込み、相手に悟られぬようにすることなど、造作もないことだ。



 漆黒の髪、漆黒の切れ長の瞳、漆黒の鎧に漆黒のマントを風ではためかせた、全身黒ずくめのアバターがそこにいた。口元には不敵さがにじみ出る微笑をつくっている。

 ……っていうか、何だろう、ダークネス・マスターって。言っておくけどこのオンラインゲームに、『ダークネス・マスター』なる職業は存在しない。あと、「闇に溶け込む」って言ってたけど、現在空は雪雲こそあれど、それほど薄暗くはない。むしろ、暗い雰囲気にならないように雲と雲の合間からは太陽の日が差し込んでいるほどだ。

 漆黒のアバターの頭上には、彼の名前が表示されており、そこには『ケイオス』と表示されていた。



ケイオス>ふふふ……、驚いて声も出ぬようだな。我の放つ闇の波動を無意識のうちに感じ取ったのだろうな。



 ……。

 もしかして……これはあれなのか? 中学生――特に二年――になったときに多くの人が抱くという……中二病というやつなのか。こういう人は高確率で「闇」というワードに魅かれるみたいだからなぁ。かくいうこの小説の作者も…………いや、なんでもない。言ったが最後、消されるかもしれないからね。文字通りの意味で。今日まで僕が主人公だったはずなのに、次回からは「太鼓持ち勇者『コブタロウ』」とか「中二病勇者『ケイオス』」とかになりかねないよ、うん。



コブタロウ>うわぁ~。これってあれですか? 闇とかダークとかエターナル・ブリザードとか好きな中二病患者というやつですか? 実物見るの、初めてですよ、僕。



 言わなくていいものを、コブタロウさんが言ってしまった。



ケイオス>中二病か……。くだらないな。我をその程度の枠に入れようとすること自体が愚かな考えというものよ。我はそのような薄っぺらな存在などではない。選ばれし者、勇者in勇者。それが我だ。



 いや。それが中二病って言ってるのですよ、コブタロウさんは。どうやらケイオスさん、自分があれなことにまるで気づいていないらしい。……まあ、だから中二病って呼ばれるんだろうけど。

 そんな僕の心の中を察することができないケイオスさんは、話を進め始める。



ケイオス>そんなことはどうでもいい。我が用があるのは…………貴様だ、『ああああ』!



 ビシッとケイオスさんから指をさされる僕。指をさされること自体、あまりいい気分がしないのだが、ここは不快感を表に出すことなく、彼の話を聞くことにする。



ケイオス>貴様の話は聞いているぞ。人の獲物を横取りしたり、アイテムをかすめ取ったり、人に向かって中二病だなどと思ったり……えらく好き勝手にやっているではないか。



 言い返したかったが、僕のプレイヤーさんからは、文字を打とうという気配が全く感じられない。よって僕はただ棒立ちで彼の話を聞いている状態だ。……っていうか中二病って……。もしかして気にしているのだろうか。口では強がったことを言ってるけど。



ケイオス>そこで我は考えた。勇者として、選ばれし者として、貴様に決闘を申し込むと!



 どこからともなく雪玉を取り出し、それを見せつけるケイオスさん。



ケイオス>言っておくが、我の雪玉はただの雪玉ではないぞ。渾身の力を雪を固め、さらに水で硬化させた、特注の雪玉だ。



 おおおおぉぉぉぉいっ! 勇者にあるまじき行為だぞ、それは! 当たったらえらいことになるって! しかし、僕のプレイヤーさんは、何のアクションも起こさない。そりゃ貴方はいいかもしれないけど、あの石同然の雪玉を受けるのは僕なんだぞ。もう少し他人の気持ちになってよ!



ケイオス>この雪玉を使って、貴様を倒してみせるから、覚悟しろよ。



 ケイオスさんはやる気満々だ。ちなみにこの場合の「やる気」とは「殺る気」とも置き換えることができる。

 どうする? どうするの? 僕のプレイヤーさん。ここは一旦引いたほうがいいんじゃないの?

 すると僕のプレイヤーさんは、その場に僕をしゃがませ、雪玉を僕につくらせ始める。攻撃力が序盤のそれとは思えないほどに強化された僕の腕力で、雪玉は見る見るうちに強固なものに変わった。

 ………………まさか………………。

 嫌な予感しかしない……。……ねぇ、やらないよね? ねぇ?

 そんな僕の不安などまるで感じていない僕のプレイヤーさんは、手に持った雪玉をおもむろに――――――投げた。もちろん、ケイオスさんに向かって。

 ドッゴオオオオォォォォン!! と、盛大に大気が振動する。街の外壁は清々しいほどまで吹き飛び、ケイオスさんの姿が雪煙の中に消えていった。



コブタロウ>さすがです、『ああああ』さん! 礼儀を知らない中学生野郎に天誅ですね!



 コブタロウさんの純粋な眼差しが実に辛い。穴があったら入りたい気分だ。



ケイオス>……なるほど。これが貴様の答えか。



 雪煙が晴れていくと同時、ケイオスさんの姿が、その中から現れてきた。

 たぶん……というか、絶対に怒ってる……。間違いない。どのくらい間違いないかというと、RPGの序盤の敵がスライムということくらい間違いない。

 やがて、煙の中から登場したケイオスさんは、宣言した。



ケイオス>いいだろう。力の違いというものを教えてやる!



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