第21話 初めてのイベントその2 そういえば、昔やったゲームを久しぶりに引っ張り出して遊んでみたら、仲間キャラの存在をすっかり忘れていたことって……あるよね?
僕のプレイヤーさんは、カメラのアングルをぐりぐりと動かし、やがて、きゃっきゃうふふと盛り上がっているほうへとカメラを固定し、まるで1UPアイテムに引き寄せられるかのように僕を動かし始める。これからまた弱った獲物を狙って自分のポイントに加算するつもりなのだろうと思うと、げんなりとする。
――と、そのときだった。
???>『ああああ』さん! 見つけましたよ!
チャットウインドウが開き、そのようなメッセージが表示されたのだった。
あたりを見渡し、見つけた人影とは――――
…………あれ? この語り、前回でもやんなかったっけ?
……さてはあれか。少しでも文字数を稼ぐための作者の荒技か!? まるで「人気バトル漫画をアニメ化したら原作のッストックが切れそうになって、色々とカメラワークや台詞回しで時間を稼ぐ」かのように……。
まったく、作者ときたら、同じことを何度もやらせないでほしいね。……え? 段取りにツッコミを入れるなって?
……ふ~ん……、苦しい言い訳だね。この際だから言わせてもらうけど、作者ってここ最近ゲームをやってないから、「いかん! ゲームネタが尽きそうだ……」って内心冷や汗をかいてるんだよ。ぶっちゃけこの作品、下敷きがオンラインゲームだから、終わらせようにも終わらせられないんだよね。ほら、オンラインゲームってオフラインゲームと違って、旅の目的とかがないからさ。オンラインゲームを題材にした理由もそこにあるんだよ。「オンラインゲームならエンディングがないし、サ○エさんやドラ○もんやクレ○ンしん○ゃんみたいに、エンドレスで話が続けられるから、長寿作品にできるよね」ってことでね。それが今ではこのざまだよ。連載を一時休止したのも、スランプになったからっていう理由のほかに、ネタが切れたからなんだよね。ホントこの作者って、後先何もかんがえ(うるさいby作者)……うわっ! なんだよこの作者! 人の語りに勝手に割り込みして……。しかも作者自ら作品に出演するなんて、そんなことしたらたいていの場合読者の人がしらけてしまうってこと、わかってないんだろうか(強制終了
……。
…………。
………………。
…………はい、すいません。少々ノイズが入ってしまいました。放送事故だよ、ホント。ここからは気分を切り替えていこうか、うん。
え~っと、どこから話せばいいんだっけ? ……ああ、そうそう。僕に――厳密に言えば僕のプレイヤーさんに――声をかけてきたもの好きな人が現れたんだっけね。
誰だろうか、と僕のプレイヤーさんはカメラを動かして、その相手を視界内に入れる。するとそこにいたのは――――、
???>いや~。本当にお久しぶりですね。今までどこ行ってたんですか?
人懐っこい、柔和な顔のそのアバターの頭上に表示されている名前を見ると、そこには「コブタロウ」と表示されていた。
コブタロウ……さん?
あまりにも懐かしいそのアバターは、約二年前、僕によく懐いて一緒に行動を共にしていた唯一の仲間だった。
……まあ、仲間になった途端、僕のプレイヤーさんはこのゲームにログインするのをやめたんだけどね……。
懐かしい友とのの再会に、僕は喜んでいいやら悲しんでいいやら、何とも言えない気持ちが心にやってきた。
というのもこのコブタロウさん。僕のプレイヤーさんの傍若無人天上天下唯我独尊的な行動を、すべて正当化させてしまうという、とんでもない勘違いを起こしてしまう猛者なのである。その上本人にその自覚がなく、人を疑うことを知らない澄みきった心の持ち主なのだ。穢れに穢れ切った僕のプレイヤーさんとは太陽と月のような、真逆の存在なのだ。
コブタロウ>ぼく、今まで貴方のことをずっと探してたんですよ。
そんな太陽なコブタロウさんは、こんな薄汚れた僕にかまわず、チャットで話しかけてくる。
しかし僕のプレイヤーさんは案の定、なにも返答しようとしない。昔からそうだ、この人は。どれだけ人から何かを言われても、まったく言葉を返そうとしないのだ。まるでポ○モンやドラ○エの主人公のような人である。言葉の代わりに行動で語る、そんな存在なのだ。
かっこいいと思う? 確かに、人によってはそんな感想を抱くことだろう。不言実行の人物は、掛け値なしにかっこいいと思える存在だ。
…………本来ならば。
しかし、僕のプレイヤーさんは違う。ひとたび行動を起こせば、光の速さで問題を発生しまくる、人間災害なのである。
コブタロウさん。なんで僕のような存在にかかわろうとするんだ? 君のその勇者を目指すピュアハートがヘドロやタールにまみれないうちに、早く離れるんだ!
僕の心の叫び。しかしそれは、コブタロウさんには届かない。僕のプレイヤーさんのノーリアクションぶりにかまうことなく、身の内話をし始める。
コブタロウ>この二年間。ぼくは貴方を探すことだけに終始しました。この街を拠点として、周囲の街やダンジョンに赴きました。そうしたのも、貴方はレベルがそれほど高くなかったから、それほど遠い場所にいったとは考えられなかったらです。
モンスターとの戦いに、他プレイヤーさんとの決闘……。毎日毎日、そんな日常を繰り返しているうちに、ぼくは――――パワーアップしました。
…………うん。今まで触れなかったけど、たしかにコブタロウさんはパワーアップしていた。
身につけている装備品が、どう考えても序盤のそれじゃない。全身を白銀に輝く鎧で固めており、剣は身の丈ほどのあるバスターソード――それもかなりレアと思われるものを背負っている。
コブタロウと表示されている隣には、彼のレベルが表示されているのだが、そのレベルが50ジャスト。オンラインゲームというものは大抵、ある一定のレベルに達すると非常にレベルが上がりにくくなる仕様をとっているものが多く、このゲームも例外ではない。だいたい20を過ぎたあたりから、レベルが極端に上がりにくくなるのだ。
その枝葉のもとで、このレベルである。いったいどれだけこのゲームをやり込んでいるんだろうか、この人は。
しかもコブタロウさんは、より強大なモンスターが蔓延っている新エリアに行くことなく、この序盤にしか立ち寄らない街の周りだけで、これだけのレベルに達しているのだ。ドラ○エでいうなら、序盤に登場するスライムのみを狩り続けてレベルを上げようとしているようなものである。まるでファンタジー北島だ。
コブタロウ>このままただレベルを上げるだけの日々が続くのか……と思ってた矢先に、貴方と出会えた!
これはもう運命です! ディスティニーです! 貴方のもとで修業をしろという、神のお告げなんです! 間違いありません!
…………。
正直、ここまで持ちあげられると怖いものがある。まるで怪しい宗教勧誘のようなので、僕が内心、コブタロウさんには悪いけど引いていると――――
コブタロウ>ぼくのパワーアップも、無駄じゃありませんでした! だって、これで貴方様をお守りすることができるからです!
騎士です! ナイトです! 騎士は真の勇者に仕えることで、魔王を倒す宿命を共に果たせるものなのです!
……どうしよう。コブタロウさんが何を言いたいのか、僕にはさっぱりわからない。僕との再会に感動して、彼の頭の中で言葉がうまくまとまっていないせいかもしれない。
コブタロウ>僕は誓います! 貴方とともに魔王勢を木っ端微塵にして、平和な世界にしてみせると!
――――って、あれ? どこ行くんですか?
僕のプレイヤーさんは、コブタロウさんの話に付き合うのが面倒くさくなったのか、途中でスタスタと僕を動かし始めた。その後を慌ててついてくるコブタロウさん。
コブタロウ>ふふ、なるほど。ぼくにはわかりますよ。こうすることで、ぼくの貴方への忠誠心を試そうとしているのですね。
まったくわかっていないコブタロウさん。その口調はどこか誇らしげだ。勘違いしていることに、本人は気づいていない。早く気づいて……。
この人は今、狩りを始めようとしているんだ。弱った獲物を虎視耽々と狙い、自らの糧にしようと目論んでいることに。コブタロウさん。君が仕えようとしている人は、勇者の中の魔王なんだ。
???>待て!
そんなときだ。僕を止めようとする声がしたのは。
僕のプレイヤーさんは、あたりをきょろきょろと見渡す。
真っ白な雪で覆われているフィールドを見渡し、やがて視界内に捉えた人影とは――――
…………あれ? これって……またアオリを入れて続くの?
続くのじゃよ。