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第20話 初めてのイベントその1 新春雪合戦イベント開始

 視界いっぱいに広がるは、ただただ白だった。

 真っ白な銀世界。冷気が肌を刺さんばかりに猛威をふるっているものの、初めて見る新雪に、僕の心は躍っていた。

 そう。始まったのだ。新春イベントのバトルロワイアル雪合戦が。

 ……ただしくは昨日から、だけど。

 イベントが始まった当日、僕のプレイヤーさんはこのゲームにログインしてこなかった。……まあたぶん、初詣とか色々あって、ログイン出来る時間がなかったのだろう。決して、新春だから丸一日寝潰したわけではない。……たぶん。僕は、僕のプレイヤーさんを信じる。信じたいけど……信じられるなにかを僕のプレイヤーさんが持っていないところが悲しすぎる。



 ガンッ!



 って、痛っ! なんだよ今の「ガンッ!」って音! どう考えても雪玉が当たって音じゃないよ! ……ったく、人が思いにふけっていたときに奇襲をかけるとは、卑怯な奴だ。

 ……ハッ。地面にさっきの雪玉が落ちてる。プレイヤーさんが僕をその場から退散する際にその雪玉踏んだけど……硬い! 硬すぎるよ、これ! さては雪を渾身の力でぎゅうぎゅうにかためた後、水でさらに強化したんだな! そうなんだな!?

 ふふふふ……。いい度胸だ。よもや魔王の中の勇者、勇者の中の魔王と呼ぶにふさわしい僕のプレイヤーさんに喧嘩を売るとはね。……いいよ。やってあげるよ。どこのだれかは知らないけど、そっちがそっちなら、僕もそれ相応の流儀で相手をしてあげようじゃないか! さあ! 僕のプレイヤーさん! 今こそ貴方の鬼畜外道、悪の中の悪、ス○オーシリーズのイセ○あ・クィーン並の最強ぶりを見せてあげましょうよ!

 プレイヤーさんは僕を操作して、先ほど雪玉を投げた相手から距離を取る。すると案の定というべきか、相手は僕を追いかけてきた。

 ふふ、いいぞ。相手はちゃんと釣られている。尻尾を巻いて逃げていると誤解している。その油断しきっている相手の顔を驚愕の色に染めさせることを想像すると……ふふふふ、よだれが出るというもんよ。なんだか最近、僕の性格が歪んできているような気がするけど、その通りな上にまったくノープログレムだから気にしない! …………今だけは。

 そう。今だけは捨てるんだ。勇者の心を。善の心をあえて捨て悪に染まることで、悪を油断させて悪を退治するんだ。なんだか勇者の心のほかにも大切な何かを失っているような気がするけど……ここはあれさ。涙なり鼻水なりを飲み込んで諦めるんだ!

 僕のプレイヤーさんは、投げかけてくる雪玉を次々と回避していく。手慣れたものだ。なにせ普段の僕はモンスターの攻撃を一発受けただけで即死するほどに防御面のパラメーターが低いから、自然と相手の攻撃を避ける技量がプレイヤーさんについてしまっているのだ。

 ……まあ、避けるのはモンスターの攻撃のほかにも、僕のプレイヤーさんが盗んだアイテムを取り戻そうと追いかけてくる他のプレイヤーさんのアバターとかもあるんだけどね……。それを八割の大台で回避する僕のプレイヤーさんには、まったく……頭が上がるよね! 頭下げている場合じゃないよ! 頭上げてそのままヘッドバットを僕のプレイヤーさんに叩きこみたいよ! ノーマル物理技威力70(三割で相手をひるませる追加効果あり)をなめるんじゃないよ! 木だって揺らせるほどの破壊力だよ! 攻撃力460の僕がやったら木が根っこごと空のお星様になっちゃうよ! 生き物相手にしたら18禁、グロ描写ありのとんでもないことになっちゃうよ?

 ……ハッ、いかんいかん! 今は勇者の心を捨てるんだった! 心を魔王にして、今僕を突け狙っているやつを打ちのめしてやるんだった。

 後ろから僕の脇をいくつもの雪玉が通過していく。そろそろこっちも何らかの手立てを打ちたいところだ。

 そんなとき、僕のプレイヤーさんはとあるひとりのアバターに僕を接近させた。……あれ? なんだかあのアバター、見たことあるよ。あのゴリラのように図体がでかくてムキムキマッチョメンなアバターは……、



邪威暗>ふへへへへ。のび太郎。オレのポイントを稼ぐために、わざとオレの雪玉に当たれよ。

のび太郎>そんな~。ボクだってポイント稼ぎたいのに……。

脛尾>邪威暗の言うことは絶対なんだぞ! ボクだって正月早々邪威暗にお年玉で買ったラジコンを借りパクされたんだからな!

邪威暗>なんだぁ脛尾。不服だっていうのかぁ?

脛尾>い、いやだなぁ。邪威暗様にラジコンを使ってもらってボクちゃんたいへん光栄でございますよ~。



 間違いない。僕が――厳密には僕のプレイヤーさんが――ロングソードを奪ったあの三人組だ。あれから二年も経っているのに、まだこんな序盤の街近くをうろちょろしていたのか……。

 ……っていうか邪威暗と脛尾、会話を聞く限り、現実世界でも知り合いみたいだな。んで、リアルでのポジションがヴァーチャルな世界でも変化してない、と。

……っていうか邪威暗たかり中なの!? 相変わらず勇者の風上にもおけない奴だ。少しは僕の勇者魂を見習ってほしいものだよ。行動と考えが不一致だけどさ。

 そんな三人組に僕を突進させていく僕のプレイヤーさん。さてはあの人たちに助けを請うつもりなのか? 

 いやいや、そんなのやめたほうがいいよ! あれから二年経っているとはいえ、あのときの屈辱を忘れているとは到底思えないし、敵をさらに増やすだけだって!

 そんな僕の不安など無視して、僕を三人組に急接近させるプレイヤーさん。ぎゃああああぁぁぁぁ! やめて! 許して! お願い! 今なら怒らないから! ギ○バート君みたいに油断させたところでポコポコと奇襲攻撃するつもりないから!

 僕と邪威暗の距離が迫っていく。後ろから雪玉が迫ってくる……そのときだ。目測約3メートルまで接近したとき、僕のプレイヤーさんは90度の急カーブをした。突然の急カーブに僕の腰がグギッと嫌な音が…………って痛っ! 足元が雪なのでいつも以上に足腰に力が入っていたから普段の三割増しに痛い! この若さでギックリ腰になっちゃうって!

 そんな僕が腰の痛みに嘆いていることなんて些細なこととばかりに、変化は起きていた。

 邪威暗が僕を執拗につけ狙っていたアバターを、逆に追いかけまわしていたのだ。当然、雪玉を投げつけながら。

 なぜこのようなことになったのか、説明しよう。ちなみにこの解説を飛ばせません。ゲーム序盤によくあるチュートリアルのように。説明が煩わしいと思う人は、Aボタンなり○ボタンなりを押して流しましょう。

 では本題。簡単に言うと、僕に向かって投げられていた雪玉が、僕が急カーブしたときに標的を外し、邪威暗の後頭部に命中したのだ。――ふふっ。説明を飛ばそうと思っていた読者諸君。飛ばしたところで二行ほどしか飛ばせなくて残念だったねぇ。ふふふふ……。やーいやーい。ザマーミロー!

 ……はっ、そこの君たち! なに画面を猛スピードでスクロールさせているのかね!? 「テメーの戯言に付き合うのはもううんざりだ」とばかりに! ごめん! 僕が悪かった! 悪かったから平常モードで読み進めてください!

 ……ふぅ。治まったか。なにはともあれ、話を進めよう。

 僕のプレイヤーさんは、逃げ惑うアバターと追いかける邪威暗をカメラの範囲内に収めながら、雪玉を二つほどつくった。

 邪威暗の雪玉が二発当たり、もう後がない状態のアバターめがけて――――発射!



 ドッコオオオオォォォォ…………ン!!



 あたりに轟くは爆発音。そして雪煙。空気と大地がビリビリと震え、周辺で雪合戦をしていたメンバーが一斉のその手を止めた。

 どうやら、アバターが本来持っている攻撃力によって、雪玉の投げる速度が変化するらしい。それにしても破壊力ありすぎだろ! っていうか直撃を受けたアバターは無事なんだろうか?

 あたりに雪の煙が舞い、突然のことに呆然と佇む邪威暗。そんな彼にめがけて、二つ目の雪玉を――――投げた。

 再度爆音。合戦とはいえ、こんな惨事が起きようとは誰が思っただろうか。

 雪玉を互いに投げ合って、きゃっきゃうふふと笑いながらの、微笑ましいイベントじゃなかったのか? これ……。

 邪威暗の姿も雪煙に消える。だけど、僕はわかっている。煙が晴れたあとでも、その姿を見ることはない、と。

 なにせ両者とも2ダメージを受けていたからね。三発目を受けた時点で近くの街まで死にワープをしていることだろう。その後のことを考えるのは…………正直嫌だ。

 ……っていうか、息をするように弱った獲物を横取りする僕のプレイヤーさん……。もう、なにも言うまい……。

 ……はっ。周囲のアバターたちの視線が僕に突き刺さってる! そのどれもがなにか言いたげな、でも怖くて言えないそんな表情だ。

 やめて! 僕を見ないで! ついさっきまで勇者の心を捨てるようなことを言ってたけど……ぼくにはとてもできない!

 グリンと、僕のプレイヤーさんはカメラを動かして次なるターゲットを探し始める。それに応じて僕の首も動く……が、僕と目が合ったアバターは次々と目を逸らしていく。あまりお近づきになりたくない、という雰囲気が存分に伝わってくる。気持ちはわかる。僕も逆の立場だったらそうしてるだろうからね。でも……やられる側としては、これほどトラウマになりかねない事態はない。レッド○リーマーに何度もリトライするアー○―並に鍛え上げられた強靭なメンタルがあったから、僕はこうして堪えることができているんだ。それが誇れることかどうかはさておいて……だけど。

 その後、僕の周囲から人が蜘蛛の子を散らすように消えていく。僕の獲物になることを嫌がってのことだろう。これは……軽くトラウマになるね。

 やがてひとり、ポツンと取り残される僕。吹きつける冷風が心までしみる。

 ……ふふふ、いいさ。ヒーローは常に孤独なものさ。そうやって人は強くなっていくものなのさ。初めはひとり。だけどヒーローの言動のひとつひとつに魅かれる何かがあったとき、仲間が一人二人と増えていくものなのさ。

 ……誰かな? お前の言動に魅かれるものはなにひとつない、て言った人は? そんなこと…………言われなくてもわかってるよ! そもそも言動とか言ってるけど、僕がチャットでしゃべったこと今まで一度もないからね! 無言だよ! 無言勇者だよ! 話しかけられたときは何らかのアクションをすることで翻訳される勇者だから!

 ああっ。この胸に張り裂けんばかりにある気持ち……誰かに話したい! 話せるものなら好き勝手にしゃべりたいよ! 無言だからってなにも思っていないというわけじゃないからね! そこんところ、誤解しないでよね!

 ……ふぅ、なんか色々と疲れた……。遠くではわいわいと雪合戦を楽しんでいるアバターたちの声が聞こえるし、孤独って辛いものがあるよね?

 僕のプレイヤーさんは、カメラアングルをぐりぐりと動かした後、きゃっきゃうふふな声が聞こえるほうへと、1UPアイテムに吸い寄せられるプレイヤー操作キャラクターのように僕を動かし始める。これからまた弱った獲物を横取りするんだろうな、ということを思うと気分がげんなりする。

 ――と、そのときだった。



???>『ああああ』さん! 見つけましたよ!



 チャットウインドウが開き、そのようなメッセージが表示されたのだった。

 あたりを見渡し、見つけた人影とは――――

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