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第11話 ジャイアニズムってひどいよね

 僕が訪れた街――『アルメダ』は、『ビギナー・ヴィレッジ』と比べるとかなり大きな街だった。

 堅牢な壁が街の外周を囲んでおり、出入り口たる門が東西南北にそれぞれひとつずつ用意されている。

 白亜のレンガで地面が舗装されており、家は上品な雰囲気を漂わせている木造のものが多い。

 街の中心には噴水がある広場があり、そこでは商業をやっているプレイヤーたちが、各々のマーケットを開催していた。

 広いだけあり、街中はプレイヤーで賑わっていた。いたるところでチャットで会話がなされており、時折、僕のプレイヤーさんのウインドウにも、断片的ながらその会話が表示されてくる。

 その多くが他愛ない井戸端会議で、スルーしていい内容がほとんどなんだけど、その中にはときたま有益な情報もあったりするので、なかなか馬鹿にすることができない。

 さて、新たな街にやってきたということで、『ビギナー・ヴィレッジ』にはなかった施設やシステムが少なからず存在していたりする。

 ひとつは、さっきも少しだけ言った商業人のことだ。

 この商業人は、NPCではなくプレイヤーがやっており、ギルドと呼ばれる場所で発行している証明書をもっていれば誰でも物を売ることができる。当然、売る事ができるのは、自分の手持ちのアイテムのみだ。

 物の値段は完全にプレイヤーに委ねられているので、道具屋で買うよりも安いこともあれば、中には人の足元を見ているような値段をつけるプレイヤーもいる。そういう人は大抵、何にどの比較的高いダンジョン前などでアイテムを売っているケースが多い。

 ……え? どうしてそんなこと知っているのかって?

 簡単さ。――ゲームキャラクターだからだよ!

 だけど、当然のことながらそんなやり方が長続きすることはまずなく、結局のところ、地道に顧客の信頼を得てじわじわと利益を上げる人がほとんどだ。そしてそういう人は概して、道具屋よりも値段が安い上、他の店では取り扱っていない珍しい物を仕入れている場合が多い。

 ちなみにこの商業人。どうして『ビギナー・ヴィレッジ』にはなかったのかというと、あそこには初心者が集っているため、物の物価がよくわかっていない初心者プレイヤーたちに、数割増の値段で物を買わせようとする輩がいるかもしれないと、運営者たちが懸念したためである。

 ……まあ、僕に言わせてみれば、初心者の所持金なんて知れているし、そこから巻き上げられるお金も雀の涙に等しいんだけど……。

 特に僕のふところ事情は、キングボンビーも裸足で逃げだすくらいに……いや、逆に同情して他プレイヤーからぶんどった金を恵んでくれるのではないかと思うくらいに貧しい。それもこれも、モンスターとの戦闘で負けまくって、その度に所持金を半分ずつ減らされていった結果だ。嗚呼、悲し過ぎる……。

 閑話休題。

 さて、もうひとつの新たな施設のことを話すことにしよう。

ギルドだ。

 ギルドはというと、様々な依頼を請け負っている施設で、誰でも依頼を受けたいときに受けることができる。

 依頼の中には期限が定められているものがあり、それが過ぎると依頼不達成ということになり、所持金マイナスや経験値マイナス、あまりに依頼が達成されていないようなら最悪、依頼受諾を、しばらくの期間禁止させられることもある。そのため、誰でも受けれるからといって、依頼を無下に扱うことはできない。

 依頼の内容は様々で、アイテム探しやダンジョン攻略、魔物討伐等がある。

 当然、依頼を達成すれば、それに見合う報酬が得られたりするので、利用するプレイヤーは初心者から上級者までいる。

 プレイヤーさんは今、そのギルドの中へと僕を入らせ、カウンターでどの依頼を受けようか、と色々模索している。

 別に依頼を引き受けるのはいいけど、僕のレベルと相談して決めてよね、プレイヤーさん。高報酬に目をくらませて、到底達成することが不可能な依頼を引き受けないでよ。

 考えることしばらく、膨大にある依頼の中で、プレイヤーさんはとある依頼に焦点をしぼりつつあった。



 依頼内容 ロングソードをひとつ、持って来ること。

 報酬   1500メタ



 ちなみに、『メタ』というのはアカシャ戦記の通貨単位だ。

 正直これは、かなりお得な依頼内容だった。

 なにせロングソードひとつ当たりの値段が1000メタほどのため、500メタ得することになる。初心者プレイヤーにとって、この500メタは大きい。なにせ初心者プレイヤーは、そのレベルの低さが相俟って、低級モンスター一匹当たり20〜30ほどしかお金を稼ぐことができないからだ。

 だけど……。

 ……うん、わかっているんだ。この依頼を引き受けちゃ駄目だって……。

 だって……僕の持っているロングソードは、他人のものだし。勝手に交渉の道具に使うことは赦されないことなんだって。借りパクは駄目だよね、当然のことながら。……っていうか、借りてすらいないわけだけど。強奪したわけだけど……。それはプレイヤーさんもわかっているはずだ。

 だから……だから……。



 ポチッ



 プレイヤーさんは、何の躊躇もなく、依頼受諾ボタンをクリックした。……あっはは〜。もう怒る気力も起きないねぇ〜。

 するとウインドウが開かれ、そこには『すでに持ち物の中に、依頼されたものがありますが、それを渡しますか? はい/いいえ』と書かれていた。

 プレイヤーさん、駄目だ! 欲に目が眩んで道徳感を捨てちゃ駄目だ! 勇者にあるまじき行動をすることになるよ! もうすでに勇者とは思えない暴挙の限りを尽くしてしまっているけど、心を入れ替えればそこから新たな人生のスタートを切ることができるんだから。だからプレイヤーさん、やめるんだ! やめてくれ! ……いや、やめてください!



 ポチッ(『はい』にクリック)



 ゴルアアアアアァァァァァ! なんばしよっとねプレイヤーさん!

 人がせっかく低頭を床に擦りつけるかのごとくお願いしたのにふいにしやがってえええええぇぇぇぇぇ!

 せっかく新しい街に来たんだから心機一転しようって気持ちはないの? プレイヤーさんには!

 そんな僕の魂の叫びも虚しく、ファンファーレとともに依頼達成という文字が飾られたウインドウが表われ、同時にその報酬内容も同時に表示された。

 僕のふところは豊かになったけど、心がどんどん空虚になってきている感があるのは僕の気のせいだろうか。……ちなみにこれは、疑問形じゃないので、そこのところよろしくお願いしてもらいたい。

 プレイヤーさんの手によって、早々とギルドを出る僕。

 その後、プレイヤーさんは道具屋に入っていった。どうやら依頼でせしめたお金で買い物をするつもりらしい。盗人猛々しいとは、こういうことを言うのだろうか。

 やがて、先ほど依頼の品として献上したロングソード(1000メタ)をひとつ購入した。

 ……あれ? 1500メタなら、ワンランク上の武器が手に入るのに。

 もしかしてプレイヤーさん。のび太郎さんに返すために買ったんじゃ……。

 そうだよね。人のものを盗んでおいてそれを売り払うなんてこと、いくらなんでも僕のプレイヤーでもしないよね?

 な〜んだ。それじゃ、早いところまだ『ビギナー・ヴィレッジ』にいるであろうのび太郎さんに武器を返しに行こうよ。そうすれば、僕とプレイヤーさんの中に蟠っているであろう罪の意識も、払拭できるはずだよ。そして、気分もすっきりさせたところで、魔王勢をこらしめる冒険を開始しようじゃないか!



 ――そんな僕の淡い期待は、ロングソードを僕に装備させたという形で木端微塵に粉砕された。



 …………前言撤回。やっぱりこの人は自分のことしか考えてねぇ。

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