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第1話 さあ、ゲームの時間だ

 アカシャ戦記。

 そこそこ人気のあるオンラインゲームで、過疎になったことは今のところゼロだ。

 ゲームはまず、魔王側か勇者側かを決定する。それから自分好みのアバターを作成し、魔王側を選んだものは勇者側を、勇者側は魔王側と戦い、互いに競り合うのだ。

 そして、負けると相手側に下るか、レベルを数段下げてコンティニュ―するかを選ぶ羽目になる。レベルを落としたくない者は身内からバッシングを受けようとも相手側に倉を移し替えるし、義理堅い者はレベルを落としてでもコンティニュ―を選ぶ。

 ただ、人によっては相手に鞍替えした後、かつての味方たちにわざと倒されることで、レベルを維持したままコンティニュ―するような輩もいたため、後に『一度相手に寝返った者は半年間、相手側に下ることができずにレベル数段下げてのコンティニューのみとなる』という制約が設けられた。なお、モンスターと戦って負けた場合は、前述したようなペナルティはなく、代わりに所持金が半分になる。

 勇者側も魔王側も、基本的にフィールド上にいるモンスターを倒すことでレベル上げをしていくのだが、プレイヤー同士で戦うこともできるものの、身内の者……つまり、勇者側は勇者側のプレイヤーを、魔王側は魔王側のプレイヤーと対戦できない。ただ、身内同士の戦いは闘技場で行うことができ、それは専ら互いに練磨するために用いられている。



 ……と、アカシャ戦記についての記述はこのくらいにして、細かいことは必要になったときに説明することにしよう。

 ……え? 僕がいったい何者か知りたいって?

 ふふふ……、いいよ。教えてあげるよ。



 僕は……勇者だ!



 ……と、かっこよく公言してみたけど、実のところ、僕はまだプレイヤーが決まっていないアバターだ。

 言ってしまえば、生まれる前の赤ん坊って感じかな。おかげで視界が黒一色、自分の身体さえないから意識のみが空間を浮遊している感覚が、僕を支配している。名前ももちろんない。

 ああ……誰か……。僕を使ってくれないかなぁ……。勇者となって必死にがんばってみせますから……って言っても、操作するのはプレイヤーの人なんだけどね。僕はプレイヤーの代わりに仮想世界を歩き回る人形のようなものだ。

 ああでも、それでもいい。早く冒険がしたいんだ、僕は。

 これが勇者の血ってやつかな? 魔王軍を懲らしめて、善の道へと導く。そして人々のために貢献させるんだ!

 誰か……そんな志を持っているプレイヤーの方!

 早く来て! 

 僕をセレクトして! 

 そして共に魔王軍をこてんぱんのけちょんけちょんにしてやろう!



 ――と、そのとき、視界が黒一色から一転、白一色となった。



 どうやら僕を選んでくれた人がいたようだ。

 おおッ! 同志よ! よく僕を選んだくれた! 感謝感激雨あられとはこのことだね!

 さあ、まずは身体のパーツを決めてくれ。できるだけ勇者っぽく仕上げてよね。……って、僕が言ったところで画面の向こう側にいるプレイヤーさんには聞こえないわけだけど。

 プレイヤーさんは、徐々に僕の身体を構築していってくれている。

 赤い帽子、団子鼻に立派に蓄えられた髭。小柄でかつ肥満気味の体形。赤いシャツに青いつなぎを着せて、両手に白の軍手を装着させる。

 ……あれ? なんだろう。ものすごくどこかで見たような姿……。僕のような新参者のゲームキャラクターにはもったいなさ過ぎの格好をしているように思えるのは気のせい?

 プレイヤーさんは満足したのか、キャラメイクはこれで終了になった。僕的にはもう少し別の格好にしてほしかったけど、文句なんて言えるわけがない。

 次は名前をつける工程だ。さあ、勇者っぽい名前を存分に付けてくれ!

 プレイヤーさんは悩んでいるようで、名前欄に一文字も打たない。

 そうそう。名前は慎重に選ばないとね。間違っても『TOILET PAPER』なんてネーミングは止めてよね。僕はあんなペラペラした紙みたいに魔王軍に流されたくないから。

 後、名前を決めるのが面倒くさいからって『勇者』なんて名前にもしないでほしいなぁ。……いや、まあ確かに勇者なんだけど……その……ストレートすぎる名前もどうかと思うからさ。

 ……それにしても、いくらなんでも名前を決定するの遅すぎじゃないかな?

 確かにある程度は慎重に決めるべきだと思うけどさ。そろそろ決めてもいいんじゃない?

 僕も早く冒険したいし。同志たちと対面したいのに……。

 瞬間、名前欄にものすごい勢いで文字がタイプされ、次へのボタンがクリックされた。あまりの早さに、僕は自分の名前が何になったのか確認できなかった。

 ……ははぁ、なるほどね。僕に見られるのが嫌で、プレイヤーさんは光速タイピングスキルを用いたんだな。可愛いところあるじゃない、僕のプレイヤーさんは。

 次に、各パラメーターの数値の割り付けの画面になった。

 パラメーターは、HP、MP、攻撃、防御、魔法攻撃、魔法防御があって、それらに最初に与えられた300ポイントを振っていくことで、自分のキャラクターの強さを決めることができる。さあ、プレイヤーさん。好きなように数値を振ってくださいな。

 そんな僕の思いがプレイヤーさんに届いたのか、僕の各パラメーターが決定されていく。



 HP 5

 MP 0

 攻撃 295

 防御 0

 魔法攻撃 0

 魔法防御 0



 …………え? なに? この神風アタック専門のパラメーターは。

 ……ちょっと、プレイヤーさん。なに『次へ』のクリックボタンを押してるの? それを押すと確認画面が現れてしま…………って、ぎゃあああぁぁぁぁ!

 僕はその確認画面を見て喫驚の声を上げた。

 自分の容姿、パラメーターは前述したとおり。

 それだけでも十分すぎるはずなのだが、ウインドウに表示されている名前が酷かった。



 名前を入力してください   ああああ



 なに? その「やる気ありません」って感じの名前は!

 あれだけ悩んでいるように文字を打つのをやめて、決めた名前がこれか!

 おのれ……。僕がプレイヤーの顔を見れないのをいいことに好き勝手してくれているな……!

 アカウント停止にするぞ! ショックのあまり僕のキャラが崩壊してしまってるじゃねーか! どうしてくれるんだ! この責任!

 ああ! こら! 『決定』ボタンをクリックするな! ポインターをそこまで運ぶな!

 雷落ちろ! 雷落ちて電源オフになってしまえ!

 ……ああ! でもノートパソコンだったらバッテリーがあるじゃねーか! だったらバッテリーから火を吹け! 加熱しすぎて動作不良起こせ!

 くそ! 僕が自由に動けたら、ポインターなんて295の攻撃力をもって木端微塵に粉砕して、ついでに画面も吹き飛ばしてやるっていうのに!

ああ! 駄目だ! それ以上は……らめえええぇぇぇぇ――――!



 ポチ。



 …………ああ。終わった。何もかも……。

 燃え尽きたよ……。真っ白にな……。

 ウインドウだけだった視界が晴れ、徐々に僕の周りに世界が構築されていく。

 視界いっぱいに広がる、これから自分の足で歩むことになるアカシャ戦記の世界観……。

 そしてそこですでに冒険を繰り広げている冒険者たちの姿……。



 かくして僕、勇者『ああああ』の冒険が始まった。

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