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森羅万象は孫にあり!  作者: もーりー
8/8

合掌




「孫おおおおおおおおお」

「のわぁっ!! ……え?」


 なにもない暗闇の場所に二つの椅子。

 俺とじじいはそこに向かい合って座っていた。


「孫おおおおおおおお死んでしまうなんてえええええええええええ」

 じじいは泣いていた。


「な! え? あ……」


 そうだ……俺はわけのわからない黒のローブの奴に足を……。


「じじい……ごめん……俺死んじまったみたいだ」


 そうか……死んだらこうなるのか……。

 でもまさか死んで一番に会うのがじじいなんて……。


 正直複雑な気持ちを抱いた。




「うん、まだ死んでないんだけどね?笑」

「……は?」

「孫が死ぬわけないジャーン?笑 すくなくともわしがそんなことさせるわけないじゃーん?笑」

「……は?」

「いやーしかし、なかなかピンチなことなってんね? あいつ、源治っていうの? いやぁー、ワシがいたら二秒で消し炭だね!笑」

「……は?」

「んであいつ! かわいぁぃぃまごの足を吹っ飛ばしたあいつ! まっっじでゆるさない! ……うん、本当に許さない」

「……へ?」

「ワシはな、言ってしまえば引退? したんじゃ……影ながら孫を見守る……あ、まじじゃよ?まじ! ……でも今回のは我慢ならんかった」


 スッゴい早口で喋り続けるじじい。身ぶり手振りがうるさい……。


「じゃからこんかいだけ! 今回だけ! ね! お願い!!」


 誰に何を願ってんだ。


「と、いうわけで孫よ……やっちゃえ!」


 くそ下手ウインクをしながら親指をたてた。


「……は? やるってどうやって——」

 

 段々意識が遠くなっていく。


「お、おいじじい…何をどーやったら——」


 そして完全に意識がなくなった。






「——渉、まかせたぞ」








「あっちゃー死んじゃった?」

「渉くんじゃなかったんですかね?」

 黒のローブの二人は何やら話している。


 目が覚めると、先程の足が破裂した場所。

 血は飛び散っているが足は元通りになっていた。


「や、やや、ややや!」

「うお! 生き返った! すげー!」

 二人は俺に気づいたようだ。

「足ももどってるじゃん! やっぱりこいつ渉くんだよ!」

「は、はえ~驚きました! たしかに完全に渉くんで間違い無さそうですね」


 二人が何かしゃべっている。



 不思議だ。


 こんなにも落ち着いている自分がいる。


 二人を目の前にして、みているはずなのにみてはいない。

 目に見えているものがすべてじゃない。

 目に見えていないものも見えている。

 空、地面、やつらの後ろ姿も見える。


 二人の話し声だけじゃない。

 雪が一つ一つ、落ちる音が聞こえる。

 心臓の音が聞こえる。

 血が流れる音が聞こえる。

 筋肉がきしむ音が聞こえる。

 地面を踏みしめる音が聞こえる。


 俺は……いったいどうしちまったんだ?


「な、なんだか様子が変ですよ?」

「うおーい、どーしたんだー?」

「そ、そろそろかえりますか……」

「んあーそーだなーやることやったし、渉くんってわかったしな!」




 帰る……?



「まあ、まてよ」

 俺は二人に声をかけた。


「「ッ?!」」


「な、おまえ?! なにをした?!」

「え?え?え? うごけません!!」


 どうやら二人は動けないらしい。

 そんなことはどうでもよかった。


「源治……っていうの? あいつ……いまどこにいるの?」

 源治……奴の名前は源治っていうんだよな。


「し、しらねぇーよ」

「わ、わかりません」


「——そうか」


「お、おーいそろそろこれ、といてくれよー」

「そ、そうですよね、これじゃかえれませんもんね?」


 不思議だ……。


 さっきまであんなにいろんな感情があったのに……。

 焦り、怒り、痛み、悲しみ……。

 今はそれが……ない……。

 何も……感じない……。



 二人をみる。

 俺にはひどく小さく見えた。

 すごく、すごく小さい。

 とても、ちっぽけだ……。



 俺は無意識に、両の手のひらを合わせる。

 その隙間に二人を見据えて。


「——阿権は我にあり、阿毘羅吽欠、作礼而去」

 ゆっくりと、合掌する。

 掌が合わさり隙間はなくなる。



 目の前にいた二人は肉の塊になっていた。


 


 







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