表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
森羅万象は孫にあり!  作者: もーりー
6/8

諦めの悪い男




「ついたけど……俺完全に部外者だよな……」

 俺はみなれない校門の前で少し冷静になった。

 ついでに乱れた息を整える。


 なんだかよくわからないまま、勢いで妹の学校に来てしまったが、いざ学校を目の前にすると怖じ気づいてしまった。妹が巻き込まれている可能性はあるのか?あったとして、でも俺は妹のこと覚えてるし……。


 どうしようかまごついていると、敷地内にいた少し猫背なおじさんがこちらに気付き、ゆっくりとこちらに向かってきた。


「君、ここで何しているのかな。うちの制服ではないようだが……」

 値踏みされるように全身を観察される。当たり前か。他校の生徒がいきなり現れたんだからな。

 俺は落ち着いて、冷静な態度をとる。


「妹に合わせてください!!」


 落ち着いて冷静に全力で、頭を下げた。



「はい?」


 明らかに動揺してるな。チャンス。


「実は妹がお弁当を忘れたみたいで……」

 ボッチスキル『表面上の苦笑い』を発動させる。苦しいが、なんとかなれ……。


「は、はぁ……。君の妹さんがね……。ええっと……名前は何て言うんだい?」


 勝った!


「えっと、千本木夏樹です。一年です。」

「そうか、私も全校生徒を把握している訳じゃなくてね……。少し確認して、呼んであげるよ」

 そういってゆっくりと校舎にむかっていった。

「あぁ、そうだ。君の名前は?」

「千本木渉です」

 了解、といって姿を消した。


 話のわかるおじさんで良かった……校長かな?


 気が緩んだせいか、汗が引いたせいか、急に寒さが身に染みる。息は白く、俺はその場で体を動かし寒さを紛らわす。一体、俺の学校で何が起こっているんだ……。


 ほどなくして、先程のおじさんが帰ってきた。表情は曇っており、様子がおかしい。

「やあどうも。千本木夏樹ちゃん、確認してもらったよ、いまちょうど授業がおわったところだね」


 あぁ! よかった!

 俺はほっとし、全身のちからが抜けた。


「——ただ少し気になることがあってね……彼女……君のことをしらないと言っているんだ」


 ——は?


「兄はいるけど、渉という名前ではない……と言っているんだけど、君は……一体彼女とどういう関係なのかな?」


 おじさんの目が鋭くなる。不審なものを見る目だ。


「いやいやいや、待ってください! 俺は千本木渉! 先程も言いましたが、ちゃんと血の繋がった兄ですよ!」

 俺は声をあらげる。

「いやしかしね、本人がしらないってんだから——」

「何かの間違いだ! 妹にあわせてくれ!」

 おじさんの首に掴みかかった。

「き、きみ! 警察を呼ぶよ!?」


 妹が俺をしらない? そんなわけあるか!!

 やり場のない感情を必死に押さえつける。


「お願いです! 妹にあわせて——ッ夏樹?!」


 後ろの校舎から女子生徒がこちらへやってくる。見間違える筈がない、夏樹だ。


「き、きみ! 危険だ! こっちへ来てはいけない!」

 おじさんが俺を押さえつけながら言う。

 くそッ意地でも近づけさせないつもりか!


 俺はおじさんを振りほどき、夏樹のもとへ走った。

 後ろでおじさんが警備員を呼ぶ声が聞こえるが、構うものか。


「夏樹!」

「——僕の妹に近づかないで貰えませんか?」

「ッ?!」

 俺と夏樹の間に、男が割って入った。眼鏡をかけており、白髪だ。

「ほら、夏樹、だから危ないといったろ?」

「う……うん」

 

 ……何だと……?!


 知らない男が夏樹に馴れ馴れしく心配の言葉をかける。

 夏樹が少し寂しそうな顔をしたのを、俺は見逃さなかった。



「おまえ……なにを言っているんだ?」


 俺は、あくまで、冷静に訪ねる。


「君かい? わざわざ兄と嘘をついてまで僕の妹に会いに来たというのは。やれやれ……夏樹、君は可愛いんだから、変な男と関わっちゃいけないといつもいっているだろう?」

 その男は馴れ馴れしく夏樹の顔を触る。

 夏樹はうつむいたままだ。


 こらえていたが、頭の血管がぶちギレた。


「てめえ……ぶっころしてやる……」


 そいつに殴りかかろうとしたとき、怯える夏樹の顔が目に入る。


「お兄ちゃん……怖い……」


 そういって、夏樹は知らない男の後ろに隠れる。


「——ッ?!」

 俺は、戦意を喪失した。


「あぁ、大丈夫だよ。お兄ちゃんがついてるからね。夏樹は、先に戻ってな」

 そういって、そいつは夏樹を戻らせた。


「き、きみ! 大丈夫なのかい? 今、警備員をよんだから!」

 さきほどのおじさんが走ってくる。


「ええ、大丈夫です! 僕の知り合いなので、あとは任せてください!」

 そういって、やつはおじさんを笑顔でなだめ、手をふり、やんわりと追い払った。

 窓から見ていたやじたちも、つまらなさそうに身を引くのを感じる。


「さて……と、やっと二人になれましたね」

 そういって、ニッコリと笑う。

 先程とはうってかわり、親しみやすい印象になる。


 なんだこいつ……雰囲気がかわった?


「何がなんだかわからない……と思いますが、僕は君を見るのは初めてじゃないんです。正確には……君たちを……かな?」


 眼鏡のレンズを拭きながら、話を続ける。


「この前、買い物? をしてたでしょ? 妹と二人で。それをね? 見ちゃってさ……ははは? 君の妹、かわいいよねぇ? ……ほしくなっちゃってさ? あはは! これってなにかな? 恋かな? あはは」


 言葉づかいが変わり、明らかな興奮と気持ち悪い笑顔をみせる。今にも大笑いしたいが我慢しているかのような笑いと共に。


「あはは……ふぅ……失礼。それでね、君、ちょっと邪魔でさ……いろいろあって、いま、消えてる筈だったんだけど……うーん。おかしいね!」


 だめだ、こいつ、まじで頭おかしいんじゃないか……。どうしようもなくヤバイやつってのがひしひしとわかる。


「でもね! でもね! きみの! その! 僕が! 君の妹の顔に触った瞬間! その時の顔! ぁぁあぁぁあ! いいね! すごいよかった!!」


 そいつは俺に顔を近づけ、興奮しながら捲し立てる。

 俺はあっけにとられ、身動きがとれなかった。


「ぁぁぁぁぁぁあ! あの顔! もう一回見たい! どうしようか? きみの! 妹! 本当は大事にしようと思ってたんだけど……しかたないよね!」

 なにかひらめいた様子を大袈裟に身振りであらわす。

「……まずは、あー爪? はがそうか? それから指! 切り落とそうか? ふふ? 足? ひきちぎる? あ! そうだ! 君にちぎった足片方分けてあげる笑」

 くふふふふと子供のように笑う。

 

  ————俺は初めて本物の殺意を抱いた。


「おまえ……それ以上いってみろ……」

 握りしめた手から血が滲み出す。


「あ! そうだ!! その前に!!」 


恍惚の笑みを浮かべて、こちらの顔をみる。


「……君の目の前で犯してあげるよ……」

 


 ——ころす。



 再び殴りかかろうとしたとき、うしろから何者かに羽交い締めにされた。


「君! 落ち着きなさい! そこの君は大丈夫かい?」


 おじさんが呼んだ警備員か?! くそ、こんなタイミングで……。


「は、はい……話をしていたら、突然殴りかかってきまして……」


 こ、こいつ! また雰囲気がかわった! くそッ


「は、はなせ! 俺はそいつを殴らないといけないんだ!!」


 必至に振り払おうとするが、おじさんとは比べ物にならないちからで押さえつけられ、そのまま門外へ連れ出されそうになる。


「ふふふ。君、おもしろいから、僕から魔法をプレゼントしてあげます。」

 パチンと、おもむろに手を挙げ指をならす。


「君には僕の魔法がかからないみたいだからさ、君の回りにかけておいたよ? ふふふ、君がどんな表情をするのか……たのしみだなぁ……おっととと、では、さようなら」

 やつは手を振りながら踵をかえした。



 あぁ、くそっ!


 警備員に捕まり門外へ摘まみ出されそうになるが、必死にこらえる。


「お前! 覚えとけよ! 後でぜってえぶっ飛ばしてやるからな!」


 後ろに引きずられながら、やつの背中に叫びを吐きつけ、遮二無二、拘束から逃れようとする。

 やつの顔は見えないが、後ろ姿から笑っている様が容易に想像でき、尚更殺意がわく。


「君! これ以上暴れるなら本当に警察を呼ぶよ!」

 俺を羽交い締めしている警備員が言う。

 

 くそッ! くそッ! くそッ! 


 どうしようもなく怒りがこみ上げる。


 そうこうしている間に校門の外に放り出された。

 俺は情けなく尻餅をつく。

 警備員が目を光らせており、この場にとどまることはできそうにない……が……。



 俺はその場を動けないでいた。


 

 ……どうする?

 何が起きている?

 あいつは何だ?

 妹の安全は?


 一気に頭のなかで考えが爆発する。

 とにかくわからないことが多すぎる。


 たしかに学校に迷惑がかかるかもしれない。

 たしかに親に迷惑がかかるかもしれない。 

 このままだと警察につき出されるかもな。


 苦渋の決断で俺は立ち上がり、学校に背を向け、歩き出す。

 手から滲み出した血がおち、地面に溶ける。




 ——でも、


 どうしたって


 なにがおきてたって


 あいつがなんだって


 誰に迷惑かかったって



          俺は踏み出した足を止める。



 妹がやばいんなら——




          思い出される笑顔。




   『困ったらなんでも私に言ってね!!』




 黙って——






「黙って帰れるわけねぇだろがぁぁぁあぁあ」



 

 そして俺は警備員を突飛ばし奴のいる校舎に走った。




 冷たい空気が肺を通じ喉が焼けるように熱かった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ