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森羅万象は孫にあり!  作者: もーりー
4/8

それは日常



「……ん……ここは……?」


 ……学校……?


 月明かりが辺りを照らし、そこは学校の教室だとわかった。しかし、何もなかった。机も、椅子も。


 ……夜……? 


 たしか、会社から帰る途中だったわよね……電車にのって……それから……。


「ッ! 手が……」


 縛られてる?!足も……。



「気づいたか……」

「ッ?!」

 静かな、太い声が響く。隣に男がいた。スーツを着ており、私と一緒で縛られている。


「ックソ……どういう状況なんだよ……誘拐か? にしては記憶がねぇ……回りのやつらもおきねえし、あんた……何かしらねえか?」

 動揺が見てとれる。当たり前か。こんな状況、冷静でいられるわけがない。

 私も……怖い……。


 よく見ると私たちの他にも何人かいる……子供……母親……?それから——


「ッおい……きいてんのか?」

「え……あぁ……何も知らないわ……会社帰りで……電車に乗って……そこからの記憶が……」

 私はできるだけ小さな声で話した。

「あぁくそっ一緒だ……何も覚えてねえ……だが、口が塞がれていないのはついてる……ほら、こっちに手…むけろ……」

 そういって彼は私の縛られてる縄を口でほどく。

「あ……ありがとう……」

「早くこっちもほどいてくれ」

「えぇ」

 ……?!なにこれ……簡単にほどけるじゃない……。

「気付いたか?結びが緩い……こんなの、ほどけと言っているようなもんだ……いったい何考えてやがる……」

 手足が自由になった彼は立ち上がり、腕を組んで何か考えているようだ。縛られている時は気付かなかったけど、かなり大きな体躯をしている。


「他のヒトも…………ッ?!」

 かけより、そして気づいた。

「……おい……どうした?」

「あ……あ……」


 皆、両腕がない。


 辺りは真っ赤で血が飛び散っており、皆死んでいた。今まで気づかなかったが、生臭い。

「うっ……」

「あぁくそ……なまぐせえとは思ったが……とにかく、今は逃げるぞ」

 窓はあかなかった。こんなところ、早く出たい……。

「だ、大丈夫なの……?」

「どうせここにいたって、命の保証はねえだろ……」

「違うわ……あんなのを見ても大丈夫なのって意味よ……」

 私はかなり動揺しており、自然と早口で話した。動悸、そして込み上げてくる吐き気を必死におさえる。

「ハッ……本当はわめき叫び散らしてえけど……とにかく今は逃げてえ……この場にいたくねえんだよ……」

「……そうね……」

「あ、あの!」

「「?!」」

それは教室の隅から聞こえた。

「僕もたすけてください!」

 そこには縛られている少年がいた。高校生? 制服をきているが全身が真っ赤だ。どうやら血しぶきを全身に浴びたらしい。かけている眼鏡のレンズがひどく汚れているのがわかった。

「お前、大丈夫か?この状況……何か知ってるか?」

 縄をほどきながら訪ねる。

「あぁ……最悪ですよ……あなたたちは意識がなかったようですけど、目の前で人が死んだんです。腕をもがれて……」


 腕をもがれてって……そんなことって……。


 少年はひどく怯えている様子だ。


「信じないかもしれないですけど……あれはヒトの仕業じゃない……黒い……塊——」

「人の仕業じゃないだと?! じゃあなんだってんだ!!」

 男は息を荒げ、少年につかみかかった。

「ちょ、ちょっと!落ち着いて……」

「ッ?! わ、わりぃ……」

 私はスーツの男をなだめる。

「ま、まあしかたないですよ……。僕も、自分で何をいっているか、よくわからない……」

 少年は目を伏せ俯いた。よほどショックだったのだろう。体が震えている。

「あぁくそっ……とにかく……こんなとこ早く出るぞ」

 男は恐怖と混乱からか、少し苛立っているようだ。

 反対に、少年は憔悴しきっていた。




 できるだけ、音を出さずに進む。

 静かだ……。

 生臭さは教室を出ても続いた。

 廊下の窓から月明かりが弱々しく道を照らす。通りすぎる教室はいくつかあったが、様子を伺う余裕も度胸もなかった。とにかく早くこの場を離れたかった。


「なぁ、おまえら……奇跡的に携帯持ってたりしないのか……」

「ないわ」

「僕も……ありません」

「だよな……」

 沈黙が流れる。


 その沈黙は大きな炸裂音でかきけされた。


「っ?! ちょ、ちょっと……なにあれ?!」

 音に驚き振り向くと、私たちが通ってきた道、その奥に廊下を埋め尽くすほどの大きな黒いもやがあった。中心に赤い目のような点が2つ光っている。


 じっとりと嫌な汗が全身を流れる。


「あ、あれです!僕が見たのは!」

 少年は指差し、声をあらげる。

「あぁくそったれ……走るぞ!!」

 私たち三人は走った。脇目もふらず、階段を下り、玄関へ。非常口のマークが、その道を印す。

「頼むからあいてくれ!」

 玄関は、あっけなく開いた。そのまま走り外へでた。

「はぁ……はぁ……おい、皆大丈夫か……?」

 校門まで走った私たちは立ち止まり、学校の様子を伺う。

「え……えぇ……なんとか……ね……」

 私は正直困惑していた。まさかここまでスムーズに外に出られるとは……。たしかに途中で黒いもやには出くわしたけど……。


「あー、とりあえず警察だな俺は警察に行く。お前らは、どうする」

 学校の方を警戒しながら私たちに訪ねた。あの生臭さも、冷たい夜風に流され、しなくなっていた。


 正直……怖い……一人になりたくない……。


「私も……一緒に行くわ……」

「そうか……わかった。坊主……おまえは?」


 大きく深呼吸している少年は学校の方を向きながらいった。


「ふぅ……。でも、まずは外に出れて……よかった……ですよね?」


 私たちに向けて微笑む。


「えぇ……そうね……」

 私はホッとし、緊張が解けたのか、少年に微笑み返した。


「……安堵……」


「……え?」


 少年が指をならした。





 ……………?!?!?





 そこは先程の教室。私はまた、縛られていた。


「ッ?! おい!なんだこれは!?」


 スーツの?!彼も?!どういうこと?!?


「お、おい! 夢にしちゃ悪ふざけが過ぎるぞ!」


 ……子供……母親……ダメ……さっきと同じ……。


「あぁくそっ訳わかんねえ! 坊主! いるか?」


 そう言えば……少年が……いない?!


 



「ふーんふんふーん♪」


        廊下から聞こえる。


「ふんふんふふーん♪」


        近づいてくる。


「ふんーふんふんー♪」


         響く鼻唄。


「ふふふふーんふん♪」


         響く足音。


「ん~♪」


      それは教室に入ってきた。

 


 

 

 

 ……少年!?



 少年は私の前に立ち止まり、話した。

「ふふふ、ねえ?いま、どんな気持ち?」

 それは私に顔を近づけ、話した。

「なんで……どうして?!」

「うーん、その表情はー……困惑? 恐怖?」

「坊主!てめぇ……何をしやがっ——」

「バンッ♪」


 隣の彼の頭がふっとんだ。血が飛び散る。生臭い臭いが広がり、私は赤に染まる。


「ヒッ——」

「それは恐怖だね?うーん、恐怖かー……それはもういいかな~」

 このヒト?! 何をいってるの?!

「とりあえず……次かな……あ!でも、最後のホッとした顔? 結構よかったよ? うん」

「た、助けて……」


 助けて…… 


「あーそれはー……懇願……結構見たけど、やっぱわっかんないなー笑 今日はこんなもんかなー……っとそろそろ朝だな」


 もうこちらに興味がなくなったのか、独り言を続けていた。


「な、なんでもするから……お願い……します」

「んぁ? 本当?! なんでも!? ほほーん……いいね! わかった! 殺すのやめる!」


 え? ほ、ほんと……? 助かっ——


「……バンッ♪」




「ふぁ~あ、これはまた、授業中に寝ちゃうかも……」







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