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森羅万象は孫にあり!  作者: もーりー
3/8

ハッピーエンド



「それじゃ、行ってきます!」

 妹の元気な声が響く。もう玄関にいるようだ。

「晩御飯までには帰るね!」

「はいはい、いってらっしゃい」

 遠くから母さんの声が聞こえる。


「お兄ちゃんも!早く行こ!」

「ちょ、今いきます!」

 そんな俺は部屋にいた。

 俺は急いで着替え、脱ぎ散らかした服はまとめてベッドに放り投げる。


 妹と約束の日、俺は万全のコンディションで臨む…………はずだったのだが、楽しみすぎて全然眠れなかった……。


 そして俺は、見事に寝坊を決めた。


 人生最大の失態!!


 ……目覚まし時計ってたまに仕事しないよな……。


「お兄ちゃん?まだー?」

「あぁ! オッケーオッケー………」


 階段をかけ下りて、俺は硬直した。


「? どうしたの?」

 トートバッグを両手で持っている妹がこちらを不思議そうにみている。


「………おいおいおい………」


 肩まで伸びた髪が少し跳ねており、黒のニーソックスが足の細さを際立たせている。昔の頃に比べると背も伸びたし、少しだけ大人びた体つきになっている。



 そう——つまり——


 女神だ……。


 玄関に女神がいる。


 あぁ女神って、案外近くにいたんだ……。


 あ、やばい……意識が……飛ぶ——


「……ハッ」

「お兄ちゃん大丈夫?」


 控えめにいって超可愛い妹が玄関にいるという興奮で一気に心拍数が跳ね上がり、俺の頭はブレーカーを落としそうになる。


 妹は心配そうに、俺をみている。


「あ、あぁ……大丈夫、大丈夫、大丈夫……」

 俺は自分に言い聞かせるように呟く。

 

 やれやれと言った様子で妹が玄関を開け、外からあふれでる光が妹を照らした。


 その光に照らされた妹の神々しさは、見るものを凌駕するだろう。


 ——主に俺を。


「ウッ……ウァァァァァア」

 目が……目がぁぁぁぁぁあ


 

「あんた……早くしなよ」

「……ハッ」

 両目を押さえる俺に母さんの冷静な目と言葉が刺さる。


「まったく……一体誰に似たんだか」

 そういって、母さんは俺の背中をバンと叩いた。

「っぁぁぁあぁぃ」

「ほら、シャキッとしな! 夏樹をまたすんじゃないよ」


 おれは玄関から蹴り出された。





「~♪」

 ご機嫌な妹が少し前を歩く。

 時間は正午。

 天気は晴れ。雲一つない青空が広がる。

 空の青に対し、町並みは赤に染まっている。紅葉。つまりは秋だ。

 自慢じゃないが、うちの近所の並木道ほど、紅葉が似合う場所はないだろう。時より起こる少し冷たい風に紅葉が舞い、俺たちを吹き抜ける。


 

 俺は風に靡く妹の髪とスカートに釘付けだった。



 ちがうよ? あんな短いスカートなんてはいて、強い風でも吹いたらどーすんだってことだよ?周りの目とかあるしね?

 

「……そろそろ冬だね!」

「あ、あぁ! そうだな!」

 急に話しかけられ、少しだけ動揺する。


 妹は俺の一歩前で、空を仰いでいる。

 その足取りは軽く、楽しそうだ。


「早く雪だるま作りたいな~」 

 あれ? 今秋だよね?

「今年はスノーボード! やりたいの!」

 キラキラ輝く目をこちらに向ける。

 運動音痴でスキーすら危ういのに……。


 てか、やんわりとした秋嫌いアピかな?


「スキーはうまくできないけど、スノーボードならいけるとおもうの! あと、かっこいい!!」

 無邪気にはしゃいでいる。

 その根拠はどこから来るんだ……。


「秋、始まったばっかりだぞ!」

「うーん……実は秋、あんまり好きじゃないんだ……」

 急にうつむき、肩が並ぶ。

 ……やっぱり?

「なんだか別れの季節って感じがしない?」

 甘えるような顔でこちらに意見を求める。

 しかし……するかな?

「でも秋刀魚はすき!秋刀魚は秋って感じ!」

 急に表情が明るくなる。

 ん~話がぴょんぴょんするね!


 妹は自由だ。会話の脈絡などない。

 ただ、それは苦ではない。

 少し理屈っぽい俺にすれば、頭を空っぽにできて話しやすい。



「……ところで、今日は何を買うんだ?」


 秋刀魚は焼いても美味しいし、味噌につけてもいいよね~などと呟いている妹へ、俺はあえてそれを遮るように訪ねる。


「そうですね~」

 そういった妹はなにか考えているような顔をし、

「……内緒!」

 パッと霧が晴れたような笑顔で俺に『ウインク』をかました。




 warning! warning!


「What is happening!」

「It seems that all of the Earth's satellites suddenly exploded!」

「Stupid! impossible!」

「The debris falls to the earth!」


「Oh my God……」



「……ハッ」

「お兄ちゃんと一緒に出掛けるの久しぶりだね!」

「あ、あぁ……」

 何事もなかったかのように続く会話。


 妹の楽しそうな顔は俺の心に癒しをあたえるのだが、どうやらウインクの破壊力に意識を失ったようだ。……一生記憶しとこ。



 そして何かとんでもないことが起きた気がするが、気のせいか……。




 電車に揺られ、ショッピングモールに着く。

 休日なのもあり、なかなかに賑わっていた。


「到着~!」

「結構人おおいなー」


 ……ハッ! ちょっと目を離した隙に、妹がチャラいやつらにナンパされたらどうしよう……。もう、そいつらの首をくびりとるしか……ない……。


 ……ハッ! ちょっと目を離した隙に、妹に隕石が落ちてきたらどうしよう……。もう、そのときは俺が爆発するしか……ない……。


「さぁーて、いくよ~お兄ちゃん!」

「うぇあ?!」


 そういって、妹は俺の手をつかんだ。





Achtung! Achtung!



「Was um alles in der Welt!」


「Den Satelliten haben wir gerade bestätigt, aber er wird auf den Boden gießen, ohne in der Atmosphäre auszubrennen! Diese Zahl, 10.000!」


「...das Ende dieser Welt ...」





「……ハッ!」

「あーあ……もうこんな時間かぁ」

 気がつけば日は沈みだし、モールの外灯がちらほら点灯し始めていた。




 なんか意識が飛びすぎて、あんまり記憶がないぞ!




「お兄ちゃん、今日、たのしかった?」

 帰り道、妹は突然俺に聞く。

「は? 楽しいに決まってんじゃん」


 俺は嘘偽りのないまったくの本心を言う。


「そっか……。ふふ、これ、プレゼント!」

「え?」

 そういって妹は紙袋からマフラーを取りだし、俺の首に巻く。妹の顔が近づき、俺は少しだけ恥ずかしくなる。

「……これでよし!」


 なっ……いつのまに買ったんだ?!

 でも……あったけぇ……。


「……ありがとう、夏樹」

「ふふふ、どういたしまして!」

 そういって、妹は後ろ手をくみ、一歩先を歩く。


「……お兄ちゃんって友達いないからさ、少し心配だったの……。……だから、私が少しでも元気を分けてあげられたらなって……おもったの」

 立ち止まり、振り向いた。

 その表情はすこし、自信なさげだ。 


 あぁそうか……今日のこれは、彼女なりの気づかいだったのか……知らず知らず、心配かけてたんだな……。


「大丈夫、十分に元気、もらったよ」

 俺はマフラーを手に、笑いかけた。


「ふふふ、よかった!!」


 妹は後ろ手を組んだまま、歩き、そして振り返って言った。


「困ったらなんでも私に言ってね!!」

 

 そのばつの悪そうな、しかし優しい笑顔は、夕焼けもあいまって、とてもきれいに見えた。


 


 友達いらないなと決意させるのに、十分だった。







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