ボッチってなに
あの時は辺り一面雪が積もっていて、追い討ちをかけるように空からしんしんと、雪が降っていた。
俺の吐く息は白く、呼吸にあわせてそこに現れては消えた。
寒かったけど、その静かな雰囲気に当てられて、じーさんちの縁側で、降っている雪をみていた。部屋の光が夜の雪を照らし、キラキラしてきれいだったのが今も記憶に新しい。
俺のじーさんの家はど田舎の山のなかにあって、コンビニなんてものはなかったけど、居心地はよかったのを覚えている。
そのときは、俺一人で訪ねていた。なんでも急な用事があるとかで……。俺は乗り気じゃなかったけど、妹がいってらっしゃいって言ったから、行ってきます! って感じだったな。
「孫ーなにしてんのー?」
「……」
「風邪ひくぜー?」
「……じじい、ようじってなんだ?」
「あー……孫に会いたくて……さ☆!」
「……」
どーにもようすがおかしかったな。いつもならソッコーでこっちに来て頭をわしゃわしゃして、なんかよくわからない奇声を発するハズなのに……。
「渉ーゲームしよー」
「……さむい……渉……閉めて……」
「……あ?! ちょっとそれ私のよ!?」
そしていつもいる三人……だめだ……詳しく思い出せない。なんとなく可愛かったような……。
じーさんのことははっきり覚えてるのに……くそっ!
「孫よ……用事というのは他でもない。ついにすっげぇちからあげるわ」
「やっとあげるの?」
「……おそ……」
「ふふーん! いよいよね!」
いらねーっつってんだろじじいとかおもったんだけど、そのときは雰囲気があって、なんも言えなかったな。
「じゃあいくぞー……ほいっと!」
じじいの手が俺の頭の上に乗せられ、わしゃわしゃとされた。
「これで終わり?」
「おわりー」
「えぇ……」
「……いいか?孫よ。きっとその力、お前には使えない笑」
「つかえねぇのかよ!!」
「まあ、お守りだと思っとけ笑」
そういったじーさんの横顔はまっすぐだったな。
「よっしゃ! 雪合戦しよぉぜ! いくぞ! 孫!」
「おー! 雪合戦! いいねー!」
「……寒い……パス……」
「えぇ?! 一緒にやろうよ~!」
おれの記憶はここで途切れている。別に特に何かあったわけではないが、曖昧だ。本当にこんなことがあったのか、今ではそれすらも不確かだ。
あのあと、すぐにじーさんはしんだ。あんなに元気だったのにポックリと逝った。
まだガキだった俺は、よくわからなくて、案外冷静だった。妹は泣いてたな。かわいい。親父はびっくりしてたけど、やっぱり寂しそうだった。
葬儀以来じーさんの家に行くことはなく、あの家がどーなったのかよくわからない。親父に聞いたらわかるかもしれないが興味もない。
ただ、あの三人。あの三人のことがどうしても気になる。全然思い出せない……なぜだ?
「おーい、千本木ぃきーてるかぁ?」
「…うぇあ?」
「うぇあ? じゃねーよ授業中だ……ちゃんときけよぉ」
「あ! すいません……。」
やば、ボーッとしてた!
あれから10年たった。俺ももう高校生だ。今では薔薇色の高校生活を送っている……。
「……」
うん、この本面白かったな。やっぱりこのシリーズはハズレないな。
俺はお袋が作ってくれたお弁当を食べながら一人、小説を読んでいた。
……あれ? 俺……友達いなくね?
ふと回りを見渡す。
「キャハハッ、でさー」
「この前のよ、あれなんだけど!」
「ぇえ? うそぉー!?」
あれ? なんかみんな楽しそうじゃね? あれ? あれ?
いや、まて、別に俺は楽しくない訳じゃない! この本めっちゃおもしろかったし! お弁当めっちゃおもしろいし! まちがった! うまかったし!
ドンッ
「ッア、ゴメ~んぶつかっちゃったっぴょ! 大丈夫ぅー?」
「あ、あぁ…大丈夫だ。そっちも……大丈夫なのか?」
頭がな?
「大丈夫大丈夫! チョー余裕~ごめんねーごゆっくりー」
ガングロギャルが去っていった。ガングロっていうかもはや真っ黒じゃね? やばくね? あ、やばみ~。
「ちょっと何やってんのはしゃぎすぎー笑」
「ぴょぴょぴょ笑 ちょけすぎたぴよ~笑」
「千本木君ってちょっと近寄りがたい雰囲気あるよね~」
「まじわかりみ~話すと普通なのにねっぴよー」
ギャル集団が話しているのがきこえる。え? ぴょぴょぴょーってなに? 流行ってんの?
そういうの、聞こえないようにしてくんねーかな。てか大丈夫なのか? 日本語あきらめたのかな?
「はぁ……」
そういえば友達……いなかったな!
「ただいま~」
「お帰り! お兄ちゃん!」
世界一可愛い妹が出迎えてくれる。
「お帰り。ご飯、できてるわよ。」
母さんの手料理はうまい。
「お兄ちゃん早く早く! ご飯さめちゃうよ!」
カバンを置き、手を洗い、席に着く。
「ワタル、今度父さんと一緒に釣り行こうぜ」
父さんは釣りが下手だった。
「また釣り? こりないわねぇ」
「お兄ちゃん! 今度の休み、買い物付き合ってよ!」
「お! いいね~! どこ行くどこ行く?」
親父の誘いは妹の誘いによって消滅。親父のちょっと寂しそうな顔は、見なかったことにする。
冷静に、妹いたら友達いらなくね? 妹さえいればよくね?
妹。この世のすべての幸福が妹という存在に収束すると偉い人が言ってたな……たしか……マリリンマンソン。
「……ねえお兄ちゃんきいてるの?!」
「うぇあ?! 聞いてるよ! 聞いてる! ガングロ卵ちゃんの話だよね?」
「もうー全然聞いてない! 今度の日曜に買い物! いこうよって話!」
「はははーそんなの、三世紀前から行くに決まってるじゃないか!」
当たり前だろ?という顔をしつつ、母さんにおかわりを要求する。
「もうー渉ったらまた訳のわからないこといって…」
そういいながら、ご飯をよそってくれる。
「ははは、渉は父さんの子供の頃とそっくりだよ」
「お父さんは渉に甘いのよ」
「ふふ、そんな母さんも素敵だよ」
「あら……」
それ、なんかちがくね?
家族で食卓を囲みご飯を食す。ふと、俺は気になっていたことを訪ねる。
「あ、そういえばさ? 昔じいさん家によく遊びに行ってたけど、三人の女の子、あの子たちっていまなにしてるのかな?」
「んー? 三人の女の子? 渉ったらいつの間に友達なんてつくっていたのー?」
「お兄ちゃんやるじゃん!」
「……え?」
じいさんの家に、いたよな?
「いやいやいや、よくじいさんの家にいたじゃん!」
「三人の女の子……そんなこ遊びに来てたこと、あったかな? 母さん。」
「うーんちょっと覚えてないわね」
……忘れてる? そんなこと……あるか?
「お兄ちゃん友達いたんだ?笑」
「おまっそりゃー、ぃいるにきまってんじゃん!」
「へぇー、本当かな~?」
したから覗き込む妹。アカン。
「本当、渉ったら全然友達、家につれてこないから、ちょっと心配だったのよねー」
「いっ?! ご、ごちそうさま!!」
俺は急いで食器を片付け、部屋に戻った。
「あ! お兄ちゃん約束わすれないでよー?!」
部屋に戻り、ベッドにたおれこんだ。
や、やべぇ友達いないのばれるとこだった。てか、それよりも誰も覚えていないのって、そんなことあるかな。それとも俺の妄想? 友達いないから? 寂しくて? いやいやいやだとしたら俺やばすぎるだろ……。
でも、絶対いたよな? ……いたハズなんだが……。
「……妹との買い物……またひとつ死ねない理由ができてしまったな……」
そうして色々考えているうちに、寝落ちした。