~渉、それ、俺の名前~
「なあ孫よ……力、ほしくない?」
「はぁ? いらねーよじじい」
「でもさでもさ? これ、ほんとすっげーよ? まじで。なんか……こう……宇宙ーーー! って感じ?」
「いらねーっつってんだろじじい。いいから金くれよじじい」
「えぇ……っわかった! じゃあもう百円! 百円やるからさ? もらって?」
「千円」
「くぁーっいつからこんなんなっちゃったのかなー孫は! でも、あげちゃう笑」
これは俺がまだかけ算もできないようなガキで、ジジイの家に家族で遊びにいった時の記憶だ。家の縁側で俺はスイカをしゃぶりながら隣にいたジジイの話を聞いていたんだ。蝉がくそうるさかったのをおぼえている。
「じゃああげるよ? あげちゃうよ?」
「はやくしろよじじい」
「ふふふーはい! あーげた!」
両手を上げている
「……チッ」
「嘘やん嘘やん冗談ですや~ん! もーまじ孫ぉまじで孫ぉ笑」
わしゃわしゃと頭を撫でられる。ほんとうにうぜぇ……。
「お兄ちゃん! お兄ちゃん! なにしてんの~!」
「おほぉーっ妹よ! きいてくれよこのボケじじいがさぁ~」
「んふぅー孫にボケじじいって言われちゃった~! くぅーいつからこんなんなっちゃったの?」
妹。それはこの世でいちばん尊い存在。そう、この世が生まれすべての万物が妹に収束するとあの偉い人が言ってた。たしかー………ウィリアム・テル。
「お兄ちゃんたのしそうでいいね!」
「おほぉ~ぜーんぜんたのしくなかったけどなつきのおかげでいまめっちゃたのしいよ~」
「わしも! わしも!」
「このボケじじいは無視して、探険いこうか!」
「いいね!」
「わしは!? わしは?!」
「こら! 渉あんまりおじいちゃんをないがしろにしたらダメじゃない!」
「ははは、まあ親父も楽しそうだし、いいんじゃない?」
「まったく……あなた渉に甘いのよ」
「ふふ、むくれてる母さんも素敵だよ……?」
「あら……」
まーた始まったよ。どこでもいちゃいちゃしちゃうんだよな。まあ喧嘩するよりはいいけどさ。
「渉ーーー! あそぼーー!?」
「……渉、あそぼ……」
「ふふん、あそんであげてもいいわ!」
そう、じじいの家に遊びにいくと、必ず一緒に遊んでいた三人。
……たしか、名前は……
ジリリリリリ!!
目覚ましの音で目が覚めた。
くそっいいところで!
「渉! ご飯食べて早く学校いきなさーい!」
やべ、今日学校だった!
「お兄ちゃんまたぎりぎりなのー? さきいくからねー?」
「あぁぁぁあまってくれぇえぁえ」
ギリギリにセットした目覚まし時計をぶん投げ急いで階段をおりる。
このときの俺はまだ知るよしもなかった。まさかあんなことがおこるなんて……。