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第四話 俺が代わりに……

マジかよ本当にアンドロイドなのか……?」


聡は軽くめまいを覚えながらうなだれていた。あまりの出来事に思考がついていけてない。そんな感じだった。


「どうしたのですか?」


いつの間にかアニマは地上に降りており、頭をぶつけてしまいそうなほど顔を近付けていた。思わず後ずさりしながら尋ねる。


「ああ、ええと……。他になにか出来たりします?」


「そうですね……。光学迷彩機能が搭載されておりまして不可視状態になることが可能です」


不可視というのはあれか。いわゆる透明人間になれるということか。いや、彼女はアンドロイドだからさしずめ透明アンドロイドといったところか。などとどうでもいいことを思案しているといきなりアニマの身体が消滅した。


「!?」


驚愕のあまり声にならない声が漏れた。手品のような類いではない。間違いなくアニマは突然居なくなったのだ。


「え? え?」


反射的にキョロキョロと周囲を見渡してみる。が、アニマの姿は確認出来なかった。本当になんの突拍子もなく彼女は聡の視界から消えた。


「こちらです」


背後からアニマの声がした。すぐさま振り返るが、そこには誰も居なかった……。と思いきや。


「はい、不可視状態を解除しました。これで視認出来るはずですが」


「うぇ!?」


唐突に出現したアニマのせいで素っ頓狂な声を上げてしまった。


「どうかされましたか?」


「どうかもなにもないですよ……。急に消えたり、現れたり……。今のが光学迷彩の力ですか?」


「そうです。特になんの制限もなくこの能力を使用することが可能です」


「思春期の男の子が喉から手が出るほど欲しがりそうですね……」


自分もその思春期の男だというのにそんな感想を口にした。


まあ、そんなことより……。今のでもう彼女の話を信じざるを得ないことになった。なにせ浮遊と透明化を続けて見せられたのだから。


「俺今、宇宙人……。いや、宇宙人作のアンドロイドと会話をしているのか……」


今自分が置かれている状況を言葉にしてみると、とんでもない体験をしているのだと実感する。そして幼少期から宇宙が大好きだった聡の感情はこの上なく高ぶっていた。


「あのさっきの話の続きを聞かせて下さい。大輔に特オールってゲームをやらせようと地球に来たんですよね。どうやって来たんですか? というより、それが目的なら俺関係なくないですか?」


興奮冷めあらぬまま、アニマに説明を促す。


「それは構わないのですが……。なにやら急に関心を持ち始めましたね」


アニマは不思議がりながらも聡にゆっくり語り始めた。


「いわゆる宇宙船と呼称される乗り物に乗って地球付近までやってきました。宇宙船も先ほど私が見せた不可視状態になることが可能ですので、なんの問題もなく地上に着陸させることが出来ました」


アニマはまばたき一つせずに聡を見つめている。


「地球に着いた後は、すぐさまあなたや田村大輔さんが通ってらっしゃる学び舎に移動を開始しました。無論、これも先刻見せた浮遊と不可視能力を使って文字通り飛んで参りました」


少し上手いこと言ったなと聡は思った。


「そして私が到着したときにはまだ授業中でした。ですので田村大輔さんが一人になるのを待っていたのです」


「なるほど。一人になったときに接触を図ろうとしていたというわけですか」


「いえ、少し違います」


「? じゃあ一体なにをするつもりだったんですか?」


聡の問いかけにアニマは突然手のひらから紫色の光に包まれた球体を出現させた。


「この異次元フィールドに強制的に移送させることが出来る光弾を当てるつもりでした」


「……。うわぁ、もうこのくらいのことじゃ驚かなくなっている自分がいるぞ……」


聡のつぶやきには反応せず、アニマはさらに白い銃のようなものを取り出した。銃と言っても形状がかなり特殊で、玩具コーナーに売ってそうな代物だった。


「そして一緒にこの銃も撃つつもりでした」


「なんですかそれ?」


「今から説明いたします。実は特オールのゲーム機は使用者一人を登録させて遊ぶものでして」


「登録?」


「そうです、登録方法はこの銃から発射される光線を浴びることです。そうしないとプレイすることが出来ません」


「登録された人しか遊べないってことですか?」


「はい……。というよりも一台にしか一人しか登録出来ないのです。しかも一度登録したら解除、変更等は不可能な仕様になっていまして。ですので、このゲーム機も田村大輔さん用に主人が新しく購入された物なのです」


「え、なんでそんな不便な仕様に?」


「盗難対策です。と言うのもこのゲーム機、発売してすぐにかなりの人気が出て、あっという間に品薄状態に陥ってしまったのです。そのせいで度々窃盗の被害が出る事態になってしまい……」


「ゲーム一台のために窃盗? それはちょっと異常じゃないですか」


アニマの話を腰を折る形で聡は尋ねた。


「そうですね。あなたの国基準で考えると、サツクト星はかなり治安が悪いと言えるかもしれません」


「ああ、なるほど……。自分の物差しで判断するもんじゃないですね。話を遮ってすみませんでした」


「いえ。まあともかくそんなわけで、私は光弾と光線の二つをいっぺんに当てる算段でした。そちらの方が手っ取り早いと思ったからです」


眉一つ動かさずアニマは説明を続ける。


「そして当てるチャンスは放課後、田村大輔さんが教室を出たときに訪れました。そのとき廊下には誰もいない状態でしたので、廊下の突き当たりの窓から彼の背後めがけて光弾と光線を同時に放ちました」


なるほど……。なんとなく話が読めてきた。


「もしかしてそのタイミングで光弾、光線と大輔の間に割って入る形で、俺が廊下に出てきてしまったってわけですか?」


「そうです。ちなみにこの光弾に当たると、少しばかりの衝撃が走る仕様になっていますので、あなたが気絶してしまったのはそのときのショックが要因です」


「うーん、はい」


手をあげて質問のジェスチャーを取る。


「なにか?」


「なぜそのような手段を取ったんですか。さっき俺が言ったように一人になったときに接触して事情を説明すれば……」


「そうすると脅えて逃走する恐れがあると、我が主人がおっしゃいまして。この星の生命体は宇宙人の存在をまだ認知していないですから。しかしここの空間は、どこへいこうと私の手からは逃れられない作りになっています」


「思いの外恐ろしい場所だった……。ん? でも待って下さい。さっきゲーム機に登録出来るのは一人だけで変更も解除も不能って言いましたよね」


聡の問いにアニマはすぐさまうなずく。


「それじゃあ……。もう大輔に登録させることが出来なくなったってことですか?」


アニマはまたしても素早くうなずいた。


「はい。主人が用意して下さったのは一台だけですので。端的に申しあげると私の任務は失敗ということになってしまいました」


「それは……。もしかして叱責を受けたりするんですか?」


少し心配になって尋ねる。彼女の主人が厳格な人間だったら、かなり厳しく怒られるのではないだろうか。


「かもしれませんね。でも仕方がないことですので……」


そうは言っているが心なしかアニマの表情は少し脅えているようにも見えた。聡にはその姿が少し可哀想に思えた。なんとかしてあげられないだろうか。聡は少し考えに耽った。


「今更かもしれませんが朝比奈聡さん、先ほどの非礼をお許し下さい」


そんな聡を尻目にアニマは脈絡もなく頭を下げてきた。角度は斜め四十五度ほどで模範的なお辞儀の仕方だった。


「え、なんの話です?」


「最初にあなたを起こそうと頭をはたいてしまったことです。それに酷い暴言も色々吐いてしまいました」


聡の頭の中でさっきの出来事が蘇ってきた。


「ああ、あれは確かにビックリしましたよ。急に関西弁になるんですもん」


「今思えば、あれは任務が失敗したことに対する八つ当たりだったと自己分析しています」


八つ当たり。機械であるはずのアンドロイドにはありえない行動だった。しかし、その考えも自身の物差しによるものなのかもしれない。サツクト星の技術等は発達しているのだからおそらくアンドロイドも高性能に出来ているのだろう。だったら感情的になることだってあるかもしれない。それこそ人間のように。


そう思うとなんだか彼女が普通の女の子のように見えてきた。普段の喋り方が“無”なだけで決して無感情ではないということがわかったからかもしれない。


そしてそれがわかった今、彼女を救ってあげたいという気持ちがますます強くなった。と、なると……。方法は一つしか思い付かなかった。


「俺が……」


「はい?」


アニマに目を真剣に見つめ、聡は高らかに宣言した。


「俺が大輔の代わりにそのゲームをクリアしてみせますよ」



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