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第三話 特撮オールスター

 アニマの正体の説明……。というより妄想は大体こんな感じだった。彼女は地球よりもはるかに技術が発達している、サツクト星という星の住人が作り出した小間使いアンドロイドだそうで、サツクト星では一般的に売られている代物だそうだ。


 で、彼女の持ち主はいわゆるゲーマーだそうで、色々なゲームをプレイしているとのこと。ゲームといっても地球のようなものとは根本的に違い、バーチャルダイビングマシーンと呼ばれるヘルメット型のゲーム機を用い、使用者の脳をゲーム世界にダイブさせてプレイするものが主流だと言う。


「うーんと……。昔読んだ小説に主人公がゲーム世界に紛れ込んじゃう話があったんだけど大体その主人公みたいな体験が出来るってことですか?」


「おおむねそのような解釈で間違いないです。そして私の主人は購入されたゲームほとんどすべてをクリアしてらっしゃるのですが、一つどうしてもクリア出来ないゲームがあるのです」


「ふーん、それって?」


「特撮作品に登場する怪人と実際に戦うゲームです」


「……特撮?」


 意外な単語が出てきて聡は聞き返した。


「特撮がその……。なんとか星とかにも文化としてあるんですか?」


「サツクト星です。そうです、といっても私どもの星で特撮作品を制作しているわけではありません。出典はすべて地球の特撮作品によるものです」


「? じゃあなんとか星の人は地球のTVとか見てるってことに……」


 なにげなく疑問をぶつけるとアニマの瞳がキラリと光り……。


「サツクト星や! 三回目やぞ! いい加減覚えろや! 自分脳みそ腐っとるんやないか!」


「いや、急に口悪くなったな!? 」


 しかもなぜか関西弁。そういえばさっき起こされたときも関西弁だったような。生まれは西の方なのだろうか。出身地を聞こうと思ったがどうせ、私はなんとか星の工場で生産されましたとか言ってきそうなので口を閉じていることにした。


「……。ハッ! 失礼しました。憤りを覚えるとつい言葉遣いが荒れてしまいまして……」


「あ、ああ。大丈夫、大丈夫。気にしてませんよ。覚えてない俺も悪いし」


 互いに謝罪を終えたところでアニマの説明が再開した。


「その特撮ゲーム……。名称は『特撮オールスター』略して特オールというのですが」


「うわぁ。ダサいネーミングにダサい略称……」


「私が名付けたわけでも、ましてや略したわけでもありませんので……」


 アニマが悪しからずといった返しをした。


「話の腰を折ってすみません。ええとなにを聞こうとしてたんだっけか」


「サツクト星の人は地球のTVを見ているのかと尋ねかけていました」


「ああ、そうでした」


「そしてその答えですが、YESです。サツクト星にある、地球の電波塔から発信してる電波をサツクト星の超高性能アンテナで受信して観賞しているのです」


 また、さりげなくとんでもないことを言い出したな……。聡は反応に戸惑った。その思いを察したのかアニマはこう付け加えた。


「先ほども申しあげましたが、サツクト星の技術は地球のそれとは比べものにならないレベルですので。私もただの喋るアンドロイドなどではなく色々な機能が搭載されています」


「はぁ……」


 聡はそんな生返事しか出来なかった。


「それで主人はその特オールのハードモードがクリア出来ないため、最終手段として他の誰かにクリアしてもらおうと決断したのです」


「他力本願せざるを得なくなったわけですか……」


「というわけでその人物として選ばれたのがあなたのご友人。地球人の田村大輔さんなのです」


 ここで意外な名前が出てきた。


「え?大輔?っていうかなにがというわけなのか、さっぱりわからないんですけど」


「わからないんですか」


 アニマは意外といった口振りだった。大輔は特撮は好きだがゲームはそれほどでもなく、別段上手くもなかったはずだ。


「わからないです」


 正直にそう返答した。


「バカ?」


「え?」


 アニマが小声でつぶやいたので思わず聞き直した。


「今、バカって……」


「言ってません」


 言下に真顔でそう断言された。あまりにも早い即答ぶりに自分の聞き間違いかと一瞬思ったがそんなはずはない。たった二文字のバカをなにと聞き間違うというのだ。


「いや、言った……」


「言ってません」


 先ほどと同じトーンで返してきた。これは下手をすると無限ループに突入するな……。聡が反論するのを諦めるとアニマの薄い唇がゆっくりと開いた。


「わからないのでしたら仕方がありません。教えて差しあげましょう。田村大輔さんは特撮に詳しい人でしたよね」


「まあそうですね。古い作品も配信やレンタルで見てたりするので広範な知識は持っているはずです」


「そして彼は柔道という格闘技を習っていてかなりの実力の持ち主だとか」


「ええ、確かに。この前の県大会でも個人で三位と好成績でしたし強さは相当なものがありますよ」


 深く考えず受け答えをしたが、不思議に思うことがあった。なぜこの自称小間使いアンドロイドは大輔の素性を知っているのだろう。それだけではない。聡は先刻の記憶を呼び起こした。あれは確かアニマに関西弁で起こされたすぐ後のこと。そうだ、彼女はこう言った『ようやく目覚めましたか。こんにちは、朝比奈聡さん』


 大輔だけでなく俺の名前も知っていた。一体なぜ?


「あなた方二人のことは色々と調べあげていますので」


 顔に出ていたのかアニマが謎を氷解させるように告げた。それだけ言われてもなぁ……。一体どうやって調べたというのか。


「話を戻します」


 アニマは今度は聡の内なる疑問に答えてはくれなかった。


「今申しあげた特撮の知識と身体能力を持ち合わせていれば、特オールをやる上で色々と有利なのです」


「……。知識はあれですか。敵の弱点とかが頭に入ってるから簡単に倒せるとかそういう」


 思い付きでなんとなく言ってみた。


「ええ、正解です。付け加えるなら弱点以外にも戦法や、能力。性格等も熟知している場合、これは大きなアドバンテージとなります」


 アニマの今の解説には聡はなんとなく納得がいった。というのも大輔が以前こう言っていたからだ。「柔道に限らずだけど対戦相手の癖や、得意技。苦手とする戦い方を知っているのといないのとでは雲泥の差があるんだぜ」だから柔道部員はみんな対戦相手の過去の映像を目を皿のようにして何度も見返すのだとか。


「そして身体能力はゲームの中でも反映されますからなるべく強い人物の方が楽に戦えるというわけです」


「なるほど……」


 納得の言葉を口にしたと同時に聡はふと我に返った。いつの間にか彼女の話を真剣に聞いてしまっていた。いつまでもこんな妄想話につき合ってはいられない。とはいえアニマの話を否定するとまた服を脱ぎ始めかねない。さてどうしたものか……。


「あのアニマさん」


「はい?」


「急に話題を変えますけどアニマさんはその……サツクト星からきたアンドロイドなんですよね?」


「ええそうです……。やはり胸を直接触らないといけ」


「いえ! 疑っているわけじゃないんですけど!」


「けど?」


「そのあなたはただのアンドロイドではなく、色んな機能が搭載されているとさっきおっしゃいましたよね?」


 アニマは聡の目を逸らさず大きく首をたてに振った。


「具体的にはどんなものがあるんですか? もしかしてそう例えば……。空を飛べたりとか……」


 聡は真っ先に浮かんだ、人には到底出来ない芸当を口にした。とりあえず彼女が言っていることをうそだと俺が証明して、それから穏便に話を付けようとの算段だった。


「出来ますよ」


 想定外の返しだった。おいおい、どうするつもりだ。聡が疑問に思っていると眼前に信じられない光景が起きた。


「このように特別な道具を使用することなく浮遊することが可能です」


 アニマが二階の家ほどの高さまで浮いているのだ。一瞬、ワイヤーかなにかで釣られているのかと推測したが空を飛ぶというのは今、聡が言ったことなので、それを予測してあらかじめワイヤーを用意しておくなんて出来るわけもない。と、いうことは……。


「あれ? もしかして今までの妄想じゃなくてガチ話?」


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