第十二話 鳥山部長
「おーい、朝比奈大丈夫かー」
誰かが自分の名前を呼んでいる。アニマではない。聞き馴染みのある女性の声。
「部長……?」
「よ、おはようさん」
軽い口調で挨拶をしてくる鳥山凛に、聡はまだ頭が覚めきっていないまま起きあがった。
「おはようございます」
「で?」
「で?とは」
「なんでこんなところで、寝てるのかって聞いとるんや。一瞬死んどるのかとおもたで」
「ああと……」
意識がはっきりしてきたとともに、辺りを見渡した。そこは聡が見慣れた光景、学校の廊下だった。
どうやら現実世界に戻ってきたらしい。しかし参った。あの球体にぶつかると、気絶することをすっかり失念していた。おかげで現在部長に不審がられてしまっている。
「あれです。昨日遅くまで勉強してて寝不足だったんですよ。それでつい……」
「ほーん……」
えらく高い声で相槌を打ってくる凛。これは完全に訝しんでいるな……。
「それにしたって自分の席とかで寝るならまだしも、廊下で寝るっておかしないか?」
「座ってる状態だと中々寝付けないでしょ?だからどうしても横になりたかったんですよ」
「それやったら保健室にでも行っとけば良かったんちゃう?」
「ああ!その手がありましたね。いやー全然思い付かなかったなー」
凛の尋問じみた問いかけに、聡はなんとか頭をフル回転させて答えていく。うう……。相変わらずこの人の質問攻めは苦手だ。
「……。それで?寝とったから今日部室にこんかったんか?」
「え?……。あ!そうです。授業終わってから今まで夢の中だったんですよ」
ラッキーだ。部活に顔出さなかった言いわけを考える手間が省けた。
「うーん、なんか怪しいけど、まあええわ。あんまり追及しても可哀想やしな。ほれ、立てるか?」
差し出してきた凛の手を握り、聡はヒョイっと立ちあがった。
「明日は部活くるんか?」
「あ、はい。一応」
「それじゃあ、また明日部活でな。ウチ、今からちょっと野暮用があるさかい。ほな!」
片手を軽くあげ、小走りで聡の前から去っていった。ふう、と一息ついた後、聡は一言つぶやいた。
「よりによってあの人に気絶してるところ見られるなんてな……」