第十一話 種明かし
「そういえば、教えていただきことがあるのですが」
スーノを倒し無事ゲームをクリアした後、聡はアニマの作り出した異次元空間に戻ってきていた。取りあえず一勝出来たというわけで一息ついていると、アニマが声をかけてきたのだ。
「どうしてスーノのバリアーが、小さい球体のような状態になったのでしょうか。アクアフォンの時間の流れを加速させる音波を当てたのが、原因というのは大体察しが付くのですが」
「ええ、そうですよ。実はですね。今地球が周囲を回っている太陽は、およそ五十億年後に赤色巨星といって、膨張をし始めるらしいんですよ。そしてそれから、外層をおおっているガスが拡散されていって、最終的に芯の部分しか残らなくなる……。みたいなんです」
「あの球体の正体は芯だったのですね。すみません、私の知識不足です。まったくそういったことを知りませんでした。朝比奈聡さん詳しいんですね」
アニマの称賛に対して、聡は「いやいや」と手を振った。
「全然そんなことないですよ。俺と同じ天文学部に属してる部長の方がよっぽど詳しいですし」
天文学部という名を自分で出したとき、ふと聡の中で一つの記憶が呼び起こされてきた。
「そういや俺、部活にいく途中で、ここに連れてこられたんだよな」
ポツリとつぶやいてから、アニマは言った。
「そうでしたね」
「まる一日ゲーム世界に居たから、ずいぶん前の出来事に思えてくるよ。実際はあれからどれぐらい時間が経ってるんだろ」
「日本時間では現在午後の四時三十二分二十六秒です」
なにかを見る素振りもせずアニマは、電話の時報みたいに秒単位で答えてきた。アンドロイドだから、もしかして時計でも内臓されているのかもしれない。
「あれ現実世界でも、もうそんなに経過していましたか。まずいなぁ。部長に今日部室にこなかった言いわけを考えないといけないや」
天文学部の部長は別に厳しい人というわけではない。が、色々と細かい点を追及してくる性格をしているので、まず間違いなく遅刻してきた理由を問うてくる。そのため適当にごまかす必要が出てくるのだ。
「すみません私のせいで」
「いやまあ大丈夫です。上手いことやりますよ。それよりその時間も時間ですし……」
「承知しています。今からあなたを現実の世界に帰したいと思います」
腕を前に出したアニマの手から、またしても紫の光を帯びた球体が出現した。
「またそれをぶつけるんですか」
「ええ。この光弾はここ、異次元フィールドと現実世界を繋ぐカギのようなものです。この光弾に命中した瞬間、元居た場所にワープ出来るという仕組みです」
「元居た場所……。つまりあの廊下に戻れるというわけですね」
アニマはうなずくと、目を細めながら告げた。
「朝比奈聡さん。本当にありがとうございました。正直挑戦一回目でクリアなさるとは思いませんでした」
「ぶっちゃっけ自分でも驚いてますよ。でもまあ多分今回勝てたのは運みたいなもので、次をこう上手くいくとは限らないですけどね」
「なるほど。勝ってかぶとの緒を締めろというものですか?」
「結構難しいことわざ知ってますね。あ、そういえば今更ですけど、アニマさんはどうして日本語を話せるんですか?」
「お褒めに与り光栄です。基本的な日本語に関してはこの地球にくる前に、会話が出来るようにと主人が私の機械にインプットして下さったので」
「へえ、そんなことも出来るんですね」
感心しているとアニマは聡から光弾に目をやった。
「と、早く戻らないといけないんでしたね…………」
そうつぶやくとアニマは瞳を見開き、どこか遠くを見ているような目をしていた。
「あのアニマさん?」
「…………。今、あなたの学校の廊下を確認しています。丁度誰も居ませんから戻っても問題ありませんね」
「あ、本当になんでも出来るんですね……」
おそらくクレヤボヤンスみたいなことを行っているのだろう。聡はそう推察した。
「また後日、タイミングを見計らってあなたの元にお伺いすると思います。そのときはよろしくお願いします」
「ええ。それじゃあアニマさん、また」
軽く片手をあげ、別れの挨拶を告げる。アニマも光弾を出してない方の手で、同様の仕草をしてきた。
そして腕をおろしたあと、光弾をまるで野球ボールかのように、思いっきり振り被って投げてきた。
「そいやー」
随分な棒読み加減のかけ声を出してきたため、ずっこけそうになったが、それより前に光弾が聡の身体にヒットし、視界は光に包まれた。そして意識がゆっくりと失われていくのを感じながら聡はつぶやいた。
「あれ……。そういえばこれって気絶する……」
すべて言い切る前に聡は完全に気を失ってしまった。