第十話 白色矮星
「よし、設定完了」
アクアフォンの操作をしおえた聡は小さくつぶやいた。しばらく黙っていたアニマがふいに口を開いた。
「なにをなさるつもりですか」
「やつのバリアーを破壊する方法を思い付いたんです」
「本当ですか」
アニマがこちらを見据えながら尋ねる。それに返答するより先に依然バリアーを張り続けているスーノが呆れたような口調で告げてきた。
「お前……。もう全然ひとりごとやめる気ないな」
「あ……。いや、さっきからなんかごめんね」
軽く頭をさげるとスーノはより一層、うっとうしそうな声を出した。
「だー!謝るぐらいなら最初から、うだうだ喋るなっての!」
スーノの正論に聡は一切反論出来なかった。
「ごもっともです……。まあそれはそれとして……」
気を取り直して聡は手に持っているアクアフォンを、スーノの前に突き出した。
「こいつを食らえ!」
言葉と同時にアクアフォンから超音波のような、輪っか状のビームがいくつも発射された。ビームはそのまま直進を続けバリアーと衝突した。が、状態は変わらずバリアーは依然健在のままだった。
「効いてないみたいだな」
スーノはしたり顔が浮かべているのが目に見えるようだった。作戦失敗か?いや……。
「それはどうかな」
聡はバリアーの様子を見て確信した。作戦は成功だ。
「なんだと?それは一体どういう……」
スーノが言葉を途切らせ訝しむ素振りを見せた。どうやらあいつも異変に気付いたようだ。
「な、なんだこりゃあ。俺のソルバリアーがどんどん広がっていきやがる」
そう。やつの前方にある直方体のバリアーが、まるで空気を入れた風船のように拡大していってるのだ。
「てめえなにしやがった」
不審がりながら、問いただしてくるスーノに聡は思わず笑みがこぼれた。
太陽モチーフの怪人なのに察しが悪いやつだな。内心そう毒づきながら口を開いた。
「答える義理はないよね」
「……。チッ!」
それ以上問いただすことなくスーノは押し黙ってしまった。自身のバリアー技の豹変振りに動揺を隠せないでいるようだ。
そしてそのバリアーに新たな異変が発生した。バリアーの特徴であったメラメラとした炎が急激に勢いを落としていき、周囲に無数のガスが飛散していった。
「!まさか」
スーノがハッとしたような声が聞こえた。こちらの狙いに気付いたようだ。しかし少し遅かった。聡はウィークガンソードをガンモードにし、レバーを三回引いた。水流超弾を発射する準備は万端だ。
「そのまさかだよ。白色矮星--あんたのバリアーはもう間もなく燃えカスになって芯の部分しか残らなくなる」
トリガーを引き銃口から水流超弾の弾丸が発射された。それと同時にスーノの周りを覆っていたガスが晴れた。そしてそのときにはもう、スーノの眼前にバリアーと呼べるものは存在していなかった。
「あれは?……」
アニマが不審そうに“それ”を見つめている。色は白くて丸く大きさはサッカーボール程度。それが--今現在のスーノのバリアーの姿だった。
「く……。くそったれが!」
スーノが苦虫を噛み潰したような顔で吠える。直後、ウェンズブルーの放った水流超弾がクリーンヒットした。
「ぐおおおお!?」
低い叫び声をあげたかと思うと、そのままスーノは膝から崩れ落ちた。そして苦悶の表情を浮かべながら、わなわなと震えている口から言葉が発せられた。
「や……やるじゃねえか。ちょっとお前を甘く見過ぎてたみたいだ」
スーノの全身からバチバチと火花が散っている。にも関わらず、この怪人は一度ひざまづいたその身体を再び立ち上がらせた。まだやる気なのか。
「どうやら俺の負けみたいだな。最後に……。お前の名前を聞かせてくれないか?」
息も絶え絶えといった感じの問いに、聡は一瞬どう答えて良いか悩んだ。が、死期を悟ったかのようなスーノの穏やかな顔を見て、すぐに正直に自身の名を告げることにした。
「朝比奈聡だ」
「朝比奈……聡ね……。ハハ、あの世にいっても、その名だけは絶対に忘れないようにしなくっちゃあな」
その言葉が彼の最後のセリフになった。目をゆっくりとつぶったかと思うと、直後にスーノの身体は大爆発を起こし、派手な轟音とともに四散してしまった。
「うぉ!?」
急な爆破に聡は腰を抜かしてしまい、尻もちをついてしまった。臀部をさすりながら前方を見てみると、そこにはスーノの姿はなく、白い煙が巻き上がっているだけだった。
「え、え。なに。なんであいつ爆発したの?」
反射的に疑問を声に出すと、横で平然としていたアニマが説明書を見ながら答えた。
「怪人を倒した際、大抵の場合は大爆発を起こしながら死んでいく。これも……」
「特撮ではよくあること……。なんでしょうね」
「ええ、よくおわかりで」
アニマの返答に聡はウェンズブルーのマスク越しに、ふうとため息をつきひとりごちた。
「俺、やっぱり特撮ってものが全然わからないや……」