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記者たち13人が殺された事件に、どの新聞社も週刊誌もテレビもラジオも興味津々としておきながら、悲しく狂気的な事件だと報道した。俺たち兄弟は一気に有名人になった。それから組織の名前も一緒に有名になった。
どの報道媒体達も俺たち兄弟に興味津々だった。いや、万人が俺たちに興味津々だった。だが、危険だからと誰も近づかなかった。兄貴は、やっぱり脅しが一番いいな、と気分良く笑った。
ある雑誌は俺たちを悲劇のヴィランとして書き立て、またある新聞は俺たちよりもギャング組織に注意すべきだと書き、テレビでは俺たち兄弟とギャング組織について一生懸命に考察していた。どれも当たったり、当たっていなかったりした。兄貴はそれで随分と楽しかったそうだ。
カジノの従業員は誰も彼もが記者や正義漢に捕まって、あれこれと質問された。
俺たちに質問しなければ命はあると思っているらしく、店に来て、従業員に聞くのだ。それもお客としてやってくるから質が悪い。
俺たちはあくまでもカジノのボスと右腕だ。お客さんを大切にしている。殺傷事はお客の前じゃめったにやらない。それを記者達もわかっているのだ。だから、俺たちは記者の目の前じゃいい顔して、笑顔でいた。
だが、お客がいなかったら、兄貴は従業員に質問をする記者達を下水に流しただろう。
そんな礼儀知らず達も数週間の間だけうろうろさせてやっていた。それに従業員も慣れたのか、大丈夫と判断したのか、質問に一言答えてしまった奴がいた。
答えた奴が言ったことは「何かいえば殺されそうだから」の一言だ。
兄貴はそいつを部下達の目の前でやった。それ以来、決して誰も質問に答えなくなった。笑顔を浮かべて仕事をするだけだ。どんな質問にも答えない。どんな答えも出さない。
俺達の報道はそのうち、当たり前にも鎮火していき、記者達はカジノのブラックリストに加わり、職業がそうであるだけで弾かれるようになった。
そんな時に、あの探偵の野郎が呑気な顔でやってきた。兄貴は彼を出迎えた。銃を一丁懐に忍ばせて、ペルシャ絨毯のように重厚で威厳のあるガウンを羽織って立っている。俺はその横に立った。カジノのお客も従業員もこちらを不安そうに、だけどもある種の野次馬的な面白がるような目をして見つめている。
「よう、探偵。怖気付いて、俺たちの対抗馬になるのをやめたんだと思ってたよ」
兄貴の目は探偵の頭を見つめていた。
「お前、あの記者の女が死んだのに、追悼文もなにも出さなかっただろう。ヒーローなんて言う割に薄情な連中だ」
俺はせせら笑ってやった。兄貴も一緒にニヤついて探偵を見ている。
探偵は呑気な顔のまま「追悼文を書いてる暇はなかったんだ」と言う。俺たちは、他のヴィランは追いかけてたじゃないかとなじった。探偵はどこ吹く風でそれを聞き「まあまあ、ちょっと言い訳させてくれよ」と手をひらひらさせて落ち着くようにとジェスチャーした。
それから、服のポケットを探って一枚の紙を出し俺たちに向けて、ぐいっと見せつけて来た。
「なんだい、これ」と俺たちが言った瞬間、探偵はにんまり笑った。
「国立警察官に合格した通知書。それで、こっちが俺の警察手帳」と手帳も見せて来た。重厚に鈍く輝く黒革の手帳には金地で奴の名前と小さな顔写真が貼られていた。俺たちがまじまじ見ていると奴はさっとしまって、またにんまり笑った。
「俺はさ、お前達のことをただのお綺麗な奴だと思ってたんだよ。特に弟の方が、まだいい奴で常識があるっぽいからさ、あんなあっさりやるとは予想外でな。俺は彼女が死ぬのを見て、自分の力のなさがわかったよ。探偵で頭がいいだけじゃ、お前らに勝つどころかあっさり殺されちまう」
「当たり前だろ」
「そうあっさり言うなよ、そんなこと。俺に足りないのは、力もそうだし、仲間とか組織とか色々足りないけど、一番足りないのが権力だ。絶対的な権力。マガジン社なんてなんの盾にもならない」
「だから警察になったのか? ハン、それで俺と兄貴をどうするってんだ。牢屋にぶち込むのか? それとも泣いて、彼女に詫びてほしいわけか?」
探偵はそれに「そんなわけないじゃないか」とケラケラ笑った。
「警察になってお前らと対等になる。それで、ヒーローらしく懲らしめる」
「ふうん」と兄貴。
「へえ」と俺。
「あと、お前ら一応ギャングだからさ、いつか国立警察がうごくかもしれないだろ? ってことは、俺の活躍の場がとられるってことじゃないか! これでやっと食っていけると思ったのに、そんなので邪魔されちゃたまんないぜ、なあ!」
それを聞いて、兄貴も俺も吹き出して大笑いした。多分、最後の言葉が本当の本当の本当のところなのだろう。あまりにもガキっぽくて、笑ってしまったのだ。ヒーローの発言とは思えない。
兄貴は懐にしまっていた手を差し出して「殺す気だったんだが、今はやめといてやるよ。面白い間は生かしといてやるって言ったしな」と言った。
探偵は「そりゃ、ありがたい」と兄貴の差し出した手に向かって握手しようと、自分も手を差し出した。だが、兄貴は手を上にやって「握手する気はない」と言い放った。探偵は虚しい自分の手を見つめた後「まあ、そんなもんだよな、うん」とひとりごちた。
「握手はしないが、合格祝いになんか奢ってやるよ」
兄貴は俺に目配せをした。この探偵で遊んでやろうというらしい。
「ああ、そうしよう。貧乏の胃をびっくりさせるかもしれないが」と俺は笑った。
それから、探偵を間に挟んで、肩を掴み部屋に連れて行った。カジノ中の連中が探偵は死ぬと思っただろう。だが、本当に俺たちはからかっただけだったんだ。
探偵は俺と兄貴の顔を交互に見て、頬をツヤツヤさせた。
「そんなに美味しいのが食べられるなんて嬉しいなあ! オムレツとかでるか? もしかして、ステーキ!」と探偵は興奮気味にいい笑顔で言った。俺たちは大いに笑った。どこまでもこの男は垢抜けない芋やろうだ。彼女なんてのができてもたかがしれてそうだ。
部屋に招き入れれば、探偵は「金かかってるー……」とキョロキョロさせて、ツボやガラス瓶なんかを見ては額に冷や汗を浮かばせていた。貧乏は肝が小さいらしい。
兄貴と俺は行きつけのレストランから宅配してもらうように頼んだ。彼らは、兄貴のいる組織と手を組んでいるところがやってるレストランだ。だから、余計な事は言わないし、知ろうとはしない。
探偵は並べられた料理を見て、目を輝かせた。兄貴も俺もそんな反応は久しぶりで面白かった。それから、彼はかぶりついてばくばく飯を食った。マナーもクソもない。俺は兄貴と学校でマナーを叩き込まれた。兄貴がマナーを叩き込まれた先はもちろんボスだ。
先に食べ終わってしまった探偵は、少し居心地悪そうに行儀よく食べている俺たちを見ている。
「なあ、これ食べてみなよ。ちょいと味が前と違うぜ」
「クランベリーの産地でも変えたんじゃないか?」
「それとも、味付けを変えたか、人が変わったかだな」
「ああ、人がね」
「そうともさ」
「アレックス、ベリーがついてるぜ」と兄貴は俺の唇あたりを拭った。それから、その拭った指についたベリーを舐めて「やっぱり味が違う」と呟いた。
「後で聞けばいいじゃないか」
「そうだな」と探偵を見てみると、少し顔を赤くして下を見ている。俺たちは面白くなって、椅子ごと移動してわざと探偵を挟んで座り、彼を見つめた。
「オイ、なにジロジロ見てんだよ」
「いや?」と俺たちは声を合わせて言った。それから、彼の手から、肩に向かって、だんだんと指を滑らせていく。最後には首の真ん中で兄貴の指とぶつかった。俺たちは探偵の頭の後ろで、クスクス笑ってみせた。探偵はくすぐったそうに首をすくめたので、俺たちはもっと笑った。亀が首を縮めるみたいで、面白かったのだ。
「兄貴」と俺は探偵の肩に腕を置いた。
「なんだい」と兄貴も奴の肩に腕を置いた。
「食べたら何する?」
「何って今してるじゃないか」
「兄貴」と俺は言った。
「なんだい」と兄貴は答えた。
「今日は俺、兄貴のご相伴になってもいいかなって思うんだけど」
「いつもは嫌だと言うくせに」
「ねえ、ダメかな」
「かわいい弟の頼みじゃ断れねえな。3人で楽しもうじゃないか」
俺たちが微笑みあっていると、間に挟まれた野郎は「うわああ!」と荒っぽい声を出して「俺をからかってるだろ!」と赤い顔で睨んだ。俺たちはただ笑ってみせた。
「俺は別にな、そういう経験がないわけじゃないんだぞ!」
「へえ。何人?」
「そりゃ……、ええと」
「数えきれないらしいぜ、兄貴」
「こりゃ、失礼したな。でも、わかるぜ。買ってりゃ、その内、数えるのなんてやめる」
「そもそも兄貴は数えてなかったじゃないか」
「ふふ……」と笑って、探偵をちらと見た。
「お前らには負けますよ、俺ァ」
「だろうな」と俺。
「俺たちに勝てる要素がない」と兄貴。
「あるさ」
「顔、金、スタイル、センス、身長」
「それから、多分、息子さんもだ」
「余計なお世話だ、俺のを見た事ないくせに!」
「アッハハハハハ! 風呂があるが、入るかい? 一緒に」
「ああ、すぐにわかるな。お互い、はっきり」
探偵は、何を想像したのか鼻血を出して「俺は帰る!!」と椅子を蹴飛ばした。
「帰りに表出て、左手まっすぐ行って、2つ目に細い道がある。そこを通ると、小さなしゃれた洋館が立ってる。見かけは女物の下着店だが、下着じゃなくて売ってるのは女だ。なあ、そこいいぞ」
「俺のおすすめはガーター」
「俺はスリップ」
彼はドアノブに手をかけたままで「住所!」と言ったので、住所を書いて渡してやれば、そのまま前をじっと見ながら、足早に帰って行った。
俺と兄貴はそれについて行って、表まで見送った後、大笑いした。いいおもちゃを見つけたと兄貴も俺も思った。相手は一応敵対相手だが、手玉に乗せるのはわけないだろう。遊びであれば。
店を見回してみると、ディーラーの一人が慌てて仕事をし始めた。俺たちがそのまま帰したので、驚いたのだろう。だが、あのまま返した方がお得だ。ボスは国立警察を警戒しているし、彼がいる限り組織に手が入る事はない。いい隠れ蓑を見つけた気分だった。
俺と兄貴は、出てきたついでにお客たちに声をかけたり、久しぶりにカリビアン・スタッド・ポーカーをやって勝ったり負けたりして、久しぶりに殺伐としない時間を送った。
ボスも探偵のことを教えれば、脅威は遠いと思って喜んだ。
だから、その日はかねがねいい日だったと言っていい。
ただ、本当に俺はその夜に兄貴のご相伴にあずかることになったのは別だ。
兄貴がやるって言っただろと凄むので、仕方なくだ。最中はなんとも微妙な気分だった。やっぱり別々がこういうのは一番だ。
ヒーローはこいつらに会ってない間、カウンセリングを受けたりしてた。ヒーローマガジンのヒーロー部門の福利厚生は厚いのだ。
一応、記者の人たちが死んだのは、探偵ヒーローアルにとってはめちゃくちゃショックだったし、普通に落ち込んだし、体調崩したり病気になった。とくにあの女性がダメだった。でも、それがなかったら、こいつは完璧に敵対しようとしなかったと思う。ちょっとあまちゃんなところがあるので。
とりあえず、ヒーローはこういうことあって、そこからどうにか這い上がるのも王道よな、と思ってこの話を入れました。胸糞悪いなって自分でも思うけど、アルとこいつらの絶対的な確執を作るためには必要だった。
そんでもって、なんでこいつが普通に接してるかっていうと、ただのポーカーフェイスでもあるし、奴の性格が無駄にフレンドリーなところとかもある。あとカウンセリングのおかげな部分もある。だけど、心の中はまだモヤモヤしてるし、絶対刑務所にぶちこむって決めてる。