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 探偵は少し経った日に俺たちを訪ねてきた。俺たちはちょうど会議中だった。最近、会議が増えていて、兄貴がどうしてもやらなきゃいけないこと以外を分担していこうっていうようなものだ。兄貴は俺の耳元で「ヴィランマガジンに二つ枠が空いたんだとよ」と囁いた。要は、マガジンにも出張って、色々と情報をいただいたりするつもりらしい。カジノもカジノで楽しいが、多分、兄貴もそろそろ飽きて来たんだろう。違うところに刺激を求めているに違いない。

 だが、決してこの椅子から降りることもしないだろうし、できないだろう。組織のカジノ部門ではここが一番デカイし稼いでいる。組織の金の三分の一はここから出ているくらいだ。兄貴が退けば、俺も退くし、そうすれば、ここの売り上げは確実に落ちる。ボスの方もしっかりと「お前らにはカジノの椅子を退いてもらうことは、早々ないと思う」と言っていた。

 会議を終えた後、部屋の前で待っていた探偵は「勝手に中に入るのはマナーがなってないだろ」とだけ言った。兄貴も俺も頷いた。後ろにいるでかい部長職の三人はにっこりと「やあ、探偵くん」と声を揃えて帽子をあげた。探偵は少し驚いた顔をした後、ぺこりと会釈をした。

「お噂はかねがね」

「はあ……」

「今日はカードの印についてのでしょう? いや、どうもどうも」

「あ、いえ、仕事なんで」

「それにしても、アレックス殿と同い年なんですって? あんまりそうとは見えませんな」

「そ、う、ですかあ」

「若く見えるね」

「あ、はあ……」

「野暮ったいからかな。そうだろうな」

「はあ……」

「だけども、そのうちに垢抜けるでしょうて。アレックスもエドワードも……、あ、いや、彼らは最初から垢抜けてたな」

「はははは! そうだった、そうだった!」

 わはははは! と笑う黒スーツの三人組に探偵は腕を組んで、なんだこいつら、という顔をしていた。兄貴も俺も面白がってみていた。

 彼らは組織側の人間で、そこそこ長くやっている三人組だ。兄弟ではないが、兄弟みたいなものだ。よく来たりはせず、どちらかというと、組織の方で仕事をしている。時折やってきては、下っ端供を引き締めてくれる。彼らがいなかったら、さらに負担が俺たちにかかっていていただろう。やはり、年嵩っていうのは重要なものだ。尊敬できないようなクズでも年上だということが一種のファクターになって、抑止力的にはなってくれる。もちろん、彼らはクズでもないし、尊敬できると思う。

 兄貴がカジノをやり始めてから、慣れるまでの年数、近くで支えてくれた人たちだ。兄貴は組織内じゃボスにだけ懐いている野犬のように思われているが、実際はそんなことはなく、認めた相手にはすぐに懐くような、若干のチョロさがある。しかし、すぐにそれを捨てられるだけの残酷さもある。

「ああ、そうそう、エドワード。会議じゃ話せなかったが、組織の方にも顔を見せた方がいい」

 兄貴は肩をすくめた。

「だけど、ボスがいるし」

「そのボスが危ういんだ」と三人組の一人が言った。兄貴は顔をしかめた。

「ボスがどう危ういって? 別んとことは一時休戦してるだろ」

「徒党を組み始めてな」

「は、徒党だって? プライドはないのかよ」と兄貴は口元を歪めた。

「ここが稼ぎすぎてる。そうならないようにこもってるのはわかってるぜ、エドワード。だがなあ、マガジンにもテレビ、新聞、雑誌、ラジオにもお前さんらの名前が出て、必要以上に有名になってしまった」

「今更すぎる!」と俺は兄貴の隣に立った。三人組はそれぞれ子供のわがままを諌めるような表情をしたり、仕草をした。

「そう、奴ら、俺たちにわからないようにやってやがったんだ。今更すぎるが、奴らも引き返せない」

「抗争かい」と探偵が割って入って来た。俺は、オイ! とやつの脇腹を肘でえぐった。やつはもだもだと地面にのたうち回り「俺は今は記者として割って入ってんの! 仕事だ! こんなののがせるかよ!」と叫んだ。俺はため息をつき、兄貴はゲラゲラ笑った。

 三人組は顔を見合わせた後「印をつけたのが誰かわかっているならば、ご招待しましょうか、記者殿」と言った。俺たちは顔を少ししかめた。

 探偵はニヤリと笑って、カバンからファイルを出して来た。

「簡単だったぜ」

 兄貴はニヤニヤしながら「ふうん、報告してみろよ」と言った。

 探偵は頷いた。それから、やけに演技くさい表情をしてみせ「この印をつけたやつは、金に困った素人さ。やつ自体は賭け事をしていない」とカードをひらひらさせた。

「このカードの印は指示した黒幕がいる。それは誰か……。適当にそこらじゅうを歩いたところでまるでわかるわけはない。全てはここ、このカジノから始まったんだから」

「それ以外になにがあるってんだ」

「おいおい、アレックスちゃん! こういうのは外でもできるもんだぜ。ここの従業員を買収してカードを一組持って来させればいい。もしくは、あんたらが仕入れているカード業者になりすまして、印のついたカードを入れさせたりな。だが、ここの従業員はお前ら兄弟のおかげで教育が無駄に行き届いてやがる。買収するのはほぼ不可能だ。そう、組織の連中以外ならな」

 兄貴と俺が銃を懐から取り出した。

 探偵はそれを見て「おっと、そいつをしまえよ。最後まで聞いてからにしようぜ」と言った。俺たちにやつは写真を渡した。そこには、組織の下っ端が写っていた。

「これは、ただの確認作業だ」

 探偵は三人組にも写真を見せた。

「こいつら、知ってるよな? あんたらの下っ端だって聞いたぜ?」

 三人組は「確かに」と言った。俺たちだって知っている。

「こいつらが頼んだのか?」と俺は言った。

 探偵は肩をすくめた。

「でも、なんでその必要があるんだ。イカサマをするだけだろう。しかも、たった一時勝つだけだぜ。俺たちが想像してたのは、ただの手癖の悪い客だ。俺たちは組織の金を作って、手なんか一切つけてないし、なのに、組織の連中がなぜ、俺たちのカジノでイカサマするために印をつけたカードを作る必要があるんだ」

 三人組も頷いた。

「我々は組織側の人間だ。そりゃ、それなりに派閥はあるがね。だが、組織全体でみたら、こんな馬鹿げたことしないぞ」

「組織の金はここから三分の一出てるんだ。ここで半分は成り立ってるみたいなもんだ。ここをなくしたり、損失を出させることは組織にも響く。それがわかってないやつなんていない」

「まさか、私たちを疑ってるのか? 言っておくがね。そんなことしてりゃ、すでにここにいないぞ」

 探偵は大笑いした。

「そうは言ってない! 俺はここにいるやつの誰も疑っちゃいないぜ!」

 兄貴は片眉を上げた。

「それにしちゃ、俺たちに勘違いさせるようなこと言ったりしたが?」

「俺は組織の連中と言っただけで、こいつらとは言ってない。そもそも、お前らは敵が多い。俺の目でしっかりと組織の方も見たぜ。便利だろ、念視ってのは、探偵になれたのも半分はこいつのおかげさ。お前らの部屋のあたりはまったくないから、そこらへんで起こったことは知らないけどさ。組織の方はそこそこあるだろ?」

 俺たちは頷いた。

「なあ、こいつは、あんたらより上の人?」とまた写真を出した。

 三人組は頷いた。

 俺たちもその写真を見た。いいスーツを着た伊達男がいる。こいつはたしか兄貴に喧嘩売って、ボコボコにされたやつだったはず。写真をまじまじ見る兄貴に「わかる?」と聞けば「知らねえ」と言われた。要は兄貴にとってどうでもいい人間ということらしい。

「で、どういうことだよ。そいつが黒幕?」

「そう結論を焦るなって。こいつは、お前ら兄弟よりも上?」

 俺たちは首を振った。兄貴のがボスに可愛がられているから上だ。

 探偵は満足したように頷き「今回の事件は……」と言った。兄貴は、事件だってよ、とぼそりと俺に向かってつぶやいた。

「お前らに対する個人的な恨みによる犯行だ!」

 俺たちは「ほぉう」と腕を組んだ。三人組はなるほど、と頷いている。恨みを買っているだろうことはわかっているがここをダメにしようとするほど、理性がない奴だった覚えはない。兄貴だって、そこまでするような奴はいなかろうと思っている。

 探偵はニコニコしながら「で、こいつが黒幕かっていうと、そうじゃない。さっきまで、そこがなんとなく疑問だったんだが、よくわかったぜ。こいつは、別の組織側になにかうまいもん提示されて、こういうことをしたのさ。なあ、こういうの、毎日出てるだろ?」と俺たちに向かって、カードをずいっと見せてきた。俺たちは、まあな、と言った。

 この数日間で印つきのものがたくさん出ている。それでイカサマしている奴は同一人物か、グループかっていうもので探していた。一人、捕まえたが「ネットで書き込まれてたから!」とだけ言った。俺たちはそいつを組織の連中の任せて、ネットで検索した。確かに出ていて、それも組織の方に放った。

 兄貴はネットを見ながら「オンラインカジノでも企画してみるか」とニヤニヤしていた。俺はしたらいいとだけ言った。だが、俺たちに会えもしないから、オンラインはそこまで盛況しないだろう。むしろ、客引き的な要素になるだろう。ま、どうせ企画段階なのだが。

「しかも、ネットの書き込みにもあるだろ?」と今度はネットの画面を印刷したものを渡してきた。俺たちは三人組に渡して「知ってる」とだけ言った。

 探偵は「だろうとも」と頷いた。

「だけど、俺はすでにたどり着いてるんだ。お前らの組織のボスが危ういってのも、徒党を組んだってのも、こいつの要素になってきてる。お前らが崩壊してないのは、今までの暗黙の了解があったからだと思うぜ。さて、では、とりあえず、お前らがイライラしてて怖いので結果報告だけすると……」とポケットから写真を取り出し、俺たちに渡した。俺も兄貴もこいつを見て、顔を歪めた。

「お前らと前に抗争してたとこのボスがこれの黒幕。約束事がなにかは知らねえけど、街の監視カメラからの映像で行くと、こいつとこのボスが繋がってることは確実だ。証拠写真は山ほどあるぜ」

 兄貴は探偵に向かって「ここまで探ってくれるたあ、案外真面目に優秀だったんだな」と言い、肩を叩いて「感謝する」と言った。探偵は驚いた顔をしていたが、すぐににっこりと笑って「本職は探偵だからな」と言った。

「ヒーローじゃないのかよ」

「そっちも本職。探偵ヒーローだぜ、俺」

 探偵の目はこちらを見ていて、俺も探偵を見ていた。

「礼だけは言っとく。お前のこと嫌いだけどな」

「そりゃどうも」

 兄貴は探偵に向かって「お前も行くだろ? 数分待ってろ」と言い、俺の腕を掴み「着替えるぞ」と言った。俺は頷いた。どこぞにカチコミみたいな真似をするときは、相手に威圧感を与えられる服を選ぶ。お坊ちゃんみたいな上品な服はダメだ。とにかくめちゃくちゃに豪華じゃないと面白くない。

 俺たちは棚をひっくり返して、服を選んだ。兄貴は最近やった女のテンのコートを着た。真っ白のやつだ。俺は兄貴に「汚れるぞ」と言った。兄貴は「それがいいんだよ」と俺の頬を引っ掻いた。

 俺は適当なコートを着込み、帽子をかぶった。兄貴は俺の隣に立ち、鏡を見て、俺の頬から顎を撫で「俺の弟は本当に色男だな」と言った。

「やつに会ったら、まずはどうする?」

「話し合いさ。そのあとはボスに任せる。そこまで出張る気はねえし」

「わかった。撃つなら肩か太ももだな」

 兄貴は笑って、俺のおでこにキスして「幸運を祈ろう」と言った。俺は頷いた。部屋から出ると、探偵は口笛を吹き「金もってんな」と言った。俺たちは当たり前だろ、と言った。

 それから、俺たちは揃って車に乗り込んだ。三人組はカジノに残ってもらった。誰か上のやつがいないとダメだ。車を運転しながら、探偵の言う通りに進んで行く。兄貴はボスに電話をして、全部説明している。一番上のやつほど、信用できるやつかそうじゃないか極端だ。だが、ボスは信用できる。俺たちを見放しはしないだろう。それに、人徳もあるから、どうしようが表立っての文句にも裏側の方にも働きかけて黙らせられるだろう。

「ここだ!」と探偵がいい、俺たちは車を止めた。高級レストランの前だった。俺たちが地味な仕事している間、あの野郎は飯をたらふく食っているわけか。兄貴はニヤついている。

「もうすぐ開けるぞ」と探偵が言う。俺と兄貴は銃のハンマーをおこした。

 ドアが開いて、やつが現れた。

 俺たちの姿を認めると、慌てふためき、ドアを閉めた。探偵は車の中で大笑いしている。それから「おい、違うとこのセンセーがいらっしゃるぞ!」と叫んだ。

 またドアが開き、別の、前にやりあってたとこのボスが出てきた。

 彼は俺たちが銃を下ろしているのを見て「バレたら潔くだ。さようなら、諸君。あとは、また追ってやりあおう」と言い、優雅に自分の車に乗って去って行った。それを見て、やつは全身を固まらせた。

「よう、お前にそんな度胸があったなんて驚きだ。おとなしくしてりゃ撃たない。どうする?」

 そう笑う兄貴に向かって、やつは素早く銃を抜いた。彼の方が銃の扱いはうまい。コートに穴があいて、帽子が飛んだ。探偵は情けない声をあげ「一般人相手に銃を向けるな!」と叫んだ。しかし「てめえは一般人じゃないだろう!」と言われて、探偵は「肩書きと頭以外はそうだ!」と言い返した。

 そのまま、裏切り者は駆け出した。俺たちも追ったが、やつは誰かのバイクを盗み、走り出した。俺たちは慌てて戻り、車を走らせた。そこらじゅうでクラクションと罵声が飛び交う。兄貴は照準を合わせるのが苦手だ。だから、このカーチェイスの間、買っておいたハンバーガーもむしゃむしゃ食っていた。無駄な弾を出す気はない。

 トンネルに入り、だんだんと車も人も少なくなってくる。この方面はひらけた廃工場があった場所だ。

 探偵は「悪いな、俺はこれ以上使えない。カメラがない」といい、後部座席に寝転んだ。

「銃の一つも撃てねえのかよ、警察の癖に!」

「ボクシングしてわかってるだろ! 俺はな、筋肉で勝負してんじゃないの! 頭でやってるわけ。体力がなかろうと、特別強くなかろうと、ヒーローになれるって証明するために、俺は弱っちいままでいいんだよ。デブになったって、取り柄が一つでもあるならなれるってな」

「そりゃ、素晴らしい心がけ。車の中から眺めないで、外にでとけよ、探偵野郎」

「なんで?」

「なんでってそりゃあ……」

 トンネルを抜けると、目の前に止まったバイクの後ろにはどこからか集めた組織の下っ端がいて、マシンガンを向けていた。探偵は「なるほどね」とだけ言った。

 俺はアクセルを踏み続けた。兄貴はハンバーガーを食い終わっていて「いいぞ、いいぞ。突っ込んじまえ」と言った。俺は少し汗をかきながら、アクセルを踏み続け、裏切り者どもは止まらないとわかって、慌てて、その場から退避した。目の前のバイクはフロントガラスを多少割ったが、後ろに向かって転がって行った。

 車を止めて外に出ると、余裕を取り戻したらしい伊達男の裏切り者が前に出てきた。

 兄貴はそれを眺めている。

「どうしてわかったかは、聞かなくてもわかるぜ。お前、敵対関係とか言っておきながら、手を組んだのかよ。どうやって取り込んだ? 足でも開いたか? 金か?」

 探偵がなにかを言い返そうとする前に足を踏んで押しとどめた。兄貴はなにも言わないでニヤニヤしている。それにムカつくやつはさらに「てめえみたいな、顔だけの男、組織にゃいらねえんだよ! お前らのおかげで、俺たちがどれだけ屈辱の日々を送ったか……」と言った。さらに兄貴の笑みは深くなった。

「なにを勘違いしてるか知らないが」と兄貴は俺に目配せをした。俺は照準を合わせた。探偵はじりじり後ろに下がって行く。

「顔だって運だって、全部俺の実力の内だぜ? お前らのことなんか、知ったこっちゃない。なあ、今の内ならこいつ以外は逃がしてやるよ。そのマシンガン置いて逃げな。逃げないんだったら、この場でおさらばしてもらう」

 俺は探偵に向かって「車の後部座席の下にマシンガンがある。持ってくるだけでいいからもってこい」と言った。探偵は「こういうのに肩貸したくねえなあ〜」といいながら、車に戻って、マシンガンを持ってきた。ジャラジャラと弾がなる。

 俺たちがマシンガンを持っているのを見て、何人かが足を後ろに引いた。しかし、逃げるのには間に合わず、裏切り者の一人が発砲したことで狼煙は上がった。

 兄貴は「残念だよ」とだけ言って、俺から受け取ったマシンガンを唸らせた。

 俺たちは車の陰から何人かの頭や腕を吹っ飛ばす。探偵は「ああああ! 最悪だ!」と叫んだ。

「おい、お前、本当に銃の一つも撃てないのかよ」

「撃てねえよ!」

「それでよく今まで生き残ってこれたな」

「頭と目のおかげさまでな! ちくしょう、俺は絶対に加勢しないからな」

「しなくて結構だ、くそったれめ」

 兄貴は声を立てて笑い「お前がヒーロー探偵なのが惜しいぜ」と言った。俺はムッとして「兄貴! しっかり撃てよ!」と叫んだ。兄貴はニヤニヤと俺を見て「俺の弟は嫉妬しいだなあ。かわいい、かわいい」と俺の頭を撫でて、頬にキスをした。俺はむすっとしながら「どうも」とだけ答え、兄貴は満足そうにした。

 カラカラと落ちていく薬莢を眺めながら探偵は「お前らこそ、よく今まで生きてきたな」と言った。

 兄貴は笑って「そりゃあ、生きるのに必死だからな」と言って、弾を変えた。

 車のトランクを開け、違う威力の高い銃を取り出してぶっ放した。探偵は興味深そうに中身を見ながら「武装者も真っ青の品揃え。お前ら武器商になれるぜ」と言った。

 兄貴は「ああ、それもよかったかもな。面白そうだ」と言い、カジノの部下に電話をかけた。車だけ持ってきてもらうのだ。この車はもうダメだろう。後の処理はお任せだ。味方とわかっている三人組もくるらしいので、終わったら適当にブラつける。

「この後、飯行こうぜ」と兄貴は言った。

「ああ、いいな。どこいく?」

「この後に飯行くのか、お前ら」

「腹が減るしな」

「さっきのレストランでいいか」

「そうだな」

「俺、そんな金ねえよ!」

「奢ってやるよ、探偵」

 探偵は「じゃあ行く」と言った。

 俺たちは笑って、探偵をそこに押しとどめた後、車の陰から出た。車はボロボロで裏切り者は呻いているか死んでいるかだけだった。唯一立っている伊達男は尻餅をついた。

 兄貴と俺はそれぞれやつの太ももを撃った。やつはうめき声をあげて「殺せよ!」と言った。

「それは俺の管轄外だ。ボスに任せる」

 やつがうなだれると、トンネルから車がやってきた。俺たちは構えたが、三人組が出てきて、すぐに下ろした。

「こりゃ壮観」と彼らは言った。

「面倒だった」と兄貴は言い、銃の先で裏切り者の頭を小突いて「これ、頼んだ。俺たちは飯に行くよ。腹が減ってるし、探偵に礼もしなきゃだし」と言った。

 三人組は頷いて「そんじゃ、後は任せて、いってらっしゃい」とだけ言い、彼の腕を掴みあげ、乱暴にワゴン車に押し込んだ。もう一つの車からカジノの部下が出てきて明け渡した。探偵は色々と終わったらしいことを察して、出てきていた。

 兄貴がおもむろに銃を取り出した。探偵はさっと両手を挙げた。だが、撃たれたのは銃を握っていた。組織の裏切り者の一人だった。探偵は肩をがっくりと疲れで下ろして、こちらにやってきた。

「こりゃ、高い飯の一つでも奢ってもらわなにゃ割に合わねえわ」と言い、車に乗り込んだ。

 俺たちは顔を見合わせ、笑い、それからレストランに向かい、三人で飯を好きなだけ腹に詰め込んだ。高級レストランの支配人らしきやつから品性的なところから嫌味を言われたが、兄貴はにっこり微笑んで銃を取り出し「気が立ってる。わかるな?」とだけいい、食事は続けられた。

 すっかり腹もふくれ、代金もその場で渡し、さっさと俺たちはレストランを出て、カジノに向かった。店の中はいつも通りの喧騒で、赤い口紅のダンサーが俺たちに手を振り、投げキッスをして知らないお客のところに行ってチップをもらったりしている。探偵は「まさか、このカジノに入ってホッとすることがあるとは思わなかった」と言った。

 兄貴はニヤニヤとしている。

「だから、俺はここが好きだぜ」

 そう言うと、兄貴は俺の首に腕を回し、乱暴に頭を撫で、てっぺんにキスをして解放した。探偵は俺たちを見て「仲のいいことで」とだけ言った。

 部屋に戻り、タバコを吸い、酒を飲んだ後、探偵の報酬金額を渡した。やつは札束に頬ずりして「うーん、最高だな」と言って、キスもしてからカバンにしまった。

 探偵はドアから出る前に俺たちに向かって「これで俺の実力ってのもわかったろ? せいぜい用心しろよ」とだけ言った。

 兄貴はやつが出て行ったドアを見つめて「はっ!」と鼻で笑い、くるりと踵を返し、ベッドに身体を沈めた。

「兄貴」

「寝ようぜ、兄弟。今日は疲れちまった」

「兄貴が疲れるなんて珍しいな」

「そうだな。とりあえず、寝よう」

「今夜は、女は」

「いらない」

「兄貴……?」

「そう気にするな。いいから寝るぞ!」

 そう言うと、兄貴は俺に布団を頭まで被せた。俺は目を瞑った。兄貴も目を瞑っているが、寝ていない。考えるところでもあったのだろう。俺は横でおとなしくしているだけだ。なにも気にする必要なんてない。大丈夫だ、きっと。

裏切り者の中には、前、兄貴に「お前の席ねえから!」をされた緑の目の人もいる。

普通に兄貴は敵を作りやすいタイプなので、むしろボスとか近くにいる友好的な人のが珍しい。弟の方は作りにくいタイプなので、そういうとこでも兄貴をフォローしてる。弟いなかったら、カジノはすぐに恐怖の館になってた。

これだけしっかりと自分と敵対している武力を持った人間の多さを目で見て、兄貴も人間なので動揺してるし、ちょっと処理できてなくてイラついてる。それでも、ずっとニヤニヤ笑ってる人。

探偵の筋力のなさは、一つでも取り柄があれば、あんな筋肉だるまでなくともヒーローになれるんだってガリ勉たちに夢を見せたいから。彼は普通に勉強好きだったけど、できすぎて、むしろ周りの期待とかで息苦しかったりしたタイプ。それに、学校でいじめられて、さらに筋肉嫌いになって、見返しちゃるってこういうことになった。だから、戦闘面では、本当に役に立たない。役に立たなさすぎて、捕まえるための計画の立て方とかえげつなくて周りにひかれる。多分、兄貴はそれを見ても面白がるし、弟は真面目そうな顔で兄貴が面白がってるな、としか思わない。弟、ほんまに兄貴好きやな……。

ちなみに、探偵の念写能力は使うたびに強くなって、監視カメラの過去の映像まで見れるようになってしまっています。まじやべえって感じ。もう念写じゃねえよ、それ。

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