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 クリスマスが終わればなにもかもいつも通りだ。

 兄貴は部屋にこもって、俺は表に出て仕事をする。

 少し怪しい従業員には脅しをかけて、お客には笑顔で接客する。今日は、探偵の野郎は来ていない。

 兄貴の部屋に行くと「ちょうどいい時に来た」とまだなにも付いてないベッドの上で俺を手招きした。

「寝るのか?」

「いや、この真新しく、なんにも付いてない状態を堪能しておこうと思ってな。なあ、前にソフトカウントマネージャーが一時間だけ良く勝つところがってあっただろ」

「ああ、あったな」

「あれグループでの仕業らしい。しかも、一人はうちの従業員だ。ほら、妹が病気なのいただろ」

「ああいたな。そいつの仕業か」

「その妹がいよいよらしくてな。金がどうしても欲しかったんだろうさ」

「ふうん、それで?」

「そいつの家に組織の連中がいってる。そのうち、その妹と幼馴染達がくる」

「呼び出すか?」

「そうだな、店が閉まってからな」と兄貴は枕に顔を沈め、俺の首に腕を巻きつけベッドにダイブさせた。

 寝る気らしい。

 確か、その従業員の妹はまだ10代だかそこらだったはずだ。兄貴はその子をどうする気だろうか。病気で死ぬからと放っておくか、それともこのベッドの上で息の根を止めるか。

 家族ってのは厄介だ。幼馴染だの友達だの恋人だの情のある関係は厄介極まりない。俺と兄貴は確かに兄弟だ。だが、そこに家族らしいなにかがあるかと言えば、それはないと思う。いや、若干ならあるだろうが、一般から見ればないだろう。

 だから、兄貴はそいつの家族にも脅しをつける。そうじゃないと、今度は彼らがやってくる。そういうもんだ。

 終業前に兄貴のところにその幼馴染と妹がやってきた。

 妹は確かに病気らしく肌が白くやせ細っていた。兄貴はそれを見て「確かにかわいそうに病気だな」とだけ言った。それだけだ。幼馴染の二人はうるさく喚いたのだろう。組織の人間から猿轡をかまされていた。顔が少し腫れ上がっている。多分、身体の方も殴られるか何かはされただろう。

 兄貴と俺は彼らを見るだけだ。後は終業後の話だ。

 病弱な妹が兄貴の袖を引っ張って、弱々しく「二人と兄は悪くないんです。私が病気だったから、だから二人は兄は許してください。なんでもします。だから……」と言った。

 兄貴は彼女の手を優しくとって「申し訳ないが、それは無理だ。カジノの金をズルをしていただいた。それも数ヶ月前からだ。しかもお前はどう考えても使えないし、原因であるお前を始末しても、そこの二人と兄貴が俺を殺しにくるだろう。それで許すなんてできると思うか? 甘いぜ、お嬢ちゃん」と笑った。

 だが、彼女は「いいえ、いいえ、病気さえ治ればなんでもします。絶対になにも悪いことをしませんから。兄も二人も悪気があったわけじゃないんです、必死で……。お願いします、お願いします」と彼女は一生懸命兄貴にすがった。

「じゃあ、聞くがね、お前は俺になにができるっていうんだ? そもそも、どうして俺が病気を治してやらなきゃならない」

 彼女は黙ったが「お願いします」とだけ言った。

 弱々しくまだ小さな子供みたいな彼女は十分に常人であれば許されていることだろう。だが、兄貴には無駄だ。兄貴はジャケットを脱ぎ始め、ネクタイとシャツも外し始めた。俺は兄貴から服を預かり、組織の奴らを追い払った。

 昔、そのままにしていたら、興奮した奴が前かがみになってたことがある。ムカついたので、ずいぶんといたぶったが、それさえもご褒美みたいになっていた。それ以来、追い出すようにしている

 幼馴染がもがきながらも兄貴の元に行こうとしている。

 兄貴は彼女に乗り上げて「お前はこれさえもできないだろう。震えて、かわいそうに」と微笑んで頬を撫でた。俺は幼馴染二人を動けないように再度縛り上げた。彼らは俺を睨み、兄貴を射殺さんように睨んだ。いつもと同じ展開だ。

 まだ終業時間ではない。

 終わったらくるように彼には言ってある。ここで逃げたとしても、妹も幼馴染もここだ。彼は戻ってくるだろう。部屋の中には書き置きが置いてある。あれを見てこなければ、こちらから出向くまでだ。

 兄貴は彼女の服に手をかけている。彼女は泣いている。

「言っておくけど、別に俺だって、お前みたいなの趣味じゃないんだ。だけどな、病気のお前さんができることなんざたかが知れてる。銃も撃てないだろうし、そんなに弱ってるんじゃあ、仕事をやることもできない。というのは建前で、そもそもお前ら4人にはいなくなってもらうつもりだった。この世からな」

「そ、そん、な……。なんでもします。泣きません。耐えます! だから、私はいいんです、兄と二人をどうか見逃してください。私のためだったんです。私が死ねばいいんです」

「死ねば、その兄貴と幼馴染が俺を殺しにくるのさ。だから、あの組織の連中は死んだ。お嬢ちゃん、せめていい声を出してくれよ。ただ、俺はお前さんみたいなガリガリ、興味はないんだ。おかげでたちもしない。どうしようか」

 兄貴は俺の名前を呼んだ。

「俺もそんな趣味ないぜ」

「わかってるよ」と兄貴は笑った。

 兄貴は彼女の服を整えると俺が見下ろしてる幼馴染二人を見た。彼らの猿轡を外すと「オイ、誰が首謀者だ? うちのカジノから能力使って金を巻き上げたのは」と笑った。悪魔のように綺麗な笑顔だった。

 それに一瞬だけ二人は怖じけずいたが、すぐに「俺だよ!」と一人が言った。

「へえ」

「俺が言ったんだ。あいつは嫌だって言ってたけど、俺が無理やりやらせたんだ! だから、殺すなら俺だけにしてくれ。彼女は病院と医師が決まったばっかりなんだ。頼む」

「ああ美しき愛の絆かな」と兄貴は馬鹿にしたように笑った。

 それから俺の肩に手を置いて「なあ、どうしようか」とニヤニヤしている。俺は肩を少しだけあげて、さあと言った。兄貴は笑った。

「彼女だけ助けてほしいってことか?」

 幼馴染の一人は頷いた。もう一人も頷いたが、彼はどうやっても痛いのも死ぬのも嫌らしい。人間そうである。

 兄貴は笑ってみせた。

「オイ、お前らの家族は?」

 彼らはびっくりして押し黙った。

「まあ、黙っていてもいずれ知れるさ」

 兄貴は机から銃を出して、弾を込め始めた。4つだけだ。

 病気の妹がベッドから這い出して、二人の前に座り込んで「お願いです。お願いだから、見逃してください。お金は返しますから、お願いします」と泣きながら兄貴に頭を下げた。

 兄貴は俺を見た。俺も兄貴を見た。

「なあ、俺の店でイカサマしたらどうなるかって、お前の兄貴に聞かなかったか?」

「死ぬって」と彼女は震えながら言った。息が荒い。随分とここで無茶をしているのだろう。顔も青くなっている。

「だったら、わかるだろ。俺は最初から分かりやすく言っているし、示してるはずだ。それでなんでする? そういうことをする奴を生かしといて益があるだろうか」

 彼女は俯いて、お願いしますしか言わない。兄貴はその言葉は聞き飽きたと言って、俺に彼女をベッドにもっていくように言った。彼女は暴れたが、髪の毛を掴んで「いいから、いうことを聞くんだ」と言えば大人しくなった。

 俺たちは椅子に座って彼を待った。

 やってきた彼は部屋に入った瞬間、驚いた顔をした。

「お前、能力使ってうちのスロット弄ってたろ」

 そう兄貴が言った瞬間、彼の顔は青くなった。それから、幼馴染を見て「すまない」と謝った。俺は彼の肩を抱いて兄貴の前に立たせた。彼は抵抗する気がないらしい。

「なあ、妹の病気を治したかったんだって?」

 彼はこくりと頷いた。

「そろそろダメになると思って?」

 彼はまたこくりと頷いた。

「そこにその妹がいる」

 そう言ったら、彼は俺の腕を振り払って、ベッドの側に行った。

 兄貴は「兄妹愛だなあ」とだけ言って、銃を弄り、俺に「さあ合わせてくれ」とささやいた。

 俺は死にたくないという目をしていた彼に照準を合わせた。

 彼は歯をカチカチ言わせながら、泣いている。

「死にたくない……。いやだ! 俺は、俺は悪くない、知らなかったんだ! だから、逃がしてくれ。俺はなんにも知らなかったんだよ、本当だ! 頼む、見逃してくれ。もう二度とここにはこない。絶対にだ、約束する。頼む!」

 兄貴は俺と銃から離れて、彼の顎を乱暴に掴んだ。

「いいか、坊や。知らなかっただけじゃ、納得できねえんだよ、こっちは。なあ、知らなかったからってだけで逃がしてもらえると思ってるのか? 二度と来ないって言って、俺が信じると? なあ、甘いぜ。死にたくないって気持ちはよくわかる。俺だって死にたくない。だがなあ、やられる前にやらなくちゃならないだろう」

 兄貴は彼から手を離すと、頬をぶん殴って俺と銃の元に戻ってきた。

 彼はまだ喚いている。その横の幼馴染も「本当に知らなかったんだ、許してやってくれ、頼む!」と叫んだ。兄貴は笑った。それだけだ。

「ああ、絨毯はすぐに汚れるな」

「また変えればいいさ」

「そうだな」

「兄貴、このまま二人を先にやるわけじゃあるまい?」

 兄貴はにんまりと笑って「俺はああいう野郎が大好きなんだよ」と言った。

「ああ、兄貴は好きなものを先に食べるもんな」

 兄貴は俺のほっぺにキスして「そうさ」と笑って、もう一人を見た。それから、ベッドの側にいる彼に向かっていった。

 彼はいいディーラーだった。真面目だし、こういうことを引き起こさないような怖がりだった。小心者で正直者だ。兄貴は俺の目はやっぱりダメだなあと嘆いたが、そうじゃない。彼の意思が弱かったんだ。

 能力を使えばわからないと思っている。普通はそうだ。兄貴だってわからない時もある。でも、それをする時に違和感を感じるのだ。

 兄貴もその違和感だけで判断している。感覚を馬鹿にしちゃいけない。

 今回の件も俺が出歩いてて、違和感を感じたから発見できたのだろう。兄貴がたまに出回るのはそれを確かめたりするためだ。

 兄貴は彼の肩に手を置いた。

「わかってるな?」と兄貴は言った。彼は頷いた。

「厚かましいですが、俺が死んだら、妹と同じ墓に入れてください」

 それに幼馴染の一人が「諦めるなよ!」と叫んだ。

 彼は「無理なんだよ!」ともっと大きな声で叫んだ。

「俺は最初から言ったじゃないか! この人たちはそういう人だって! 俺はとっくに覚悟してた。妹のためならってな。でもな、言うまいと思ってたが、もうダメなんだよ。こいつは、もうダメなんだ。医者はもう放り出してるんだ」

 幼馴染は黙り込んだ。それから「ごめん」とぽつりと言った。

 兄貴はうんざりしたような顔をしながら俺に「レイモンドを呼んでこいよ」と言った。俺は頷いて、レイモンドを呼び出した。

 すぐにやってきた彼はすでにこと切れてる幼馴染のひとりを見て「呼ぶのが遅い」と文句を言った。それから、彼を素通りして兄貴の近くに立った。

「病気なんだと」

「はあ」

「死ぬそうだ」

「なるほど。それで?」

「使えるか? お前のお小遣い稼ぎに」

「病気の種類によるが、まあ、使えないな」

 レイモンドはベッドの側に座っている彼を見て「おや」と声をあげた。

「やらかしたのか。馬鹿だな。散々知ってるだろうに、この仲良し兄弟がやばいって。あんたのと、そこの若いのの中身をもらうけど、いいよな」

 彼は頷いて「死んだらどうもこうもない。だったら、妹の病気みたいな人を救う方がいい」と言った。

「見上げた献身だな。さあ、仕事でもしな。待ってるから」

 レイモンドは椅子に座って、器具を取り出していた。

 兄貴は、彼に「お前はよく働いてくれたよ。真面目だし小心者でいい部下だった。やらかしちまった自分を責めてる。お前はいい部下だ」と言った。

「だから、妹が死んだら、すぐに送ってやるよ。なに、もう意識はないようだ」

 兄貴は彼の目の前で妹の腹を撃った。悲鳴が上がり、幼馴染の怒声が上がった。彼を見ると震えて下を見ている。俺は立たせて、妹の方を見るように顔を向けさせた。

「殺してくれ」と彼は言った。

「先に俺を、殺してくれ」

 兄貴は笑って「そのうちな」と言った。

 彼は兄貴の胸ぐらを掴んで「すぐに! 頼む! もう嫌だ。苦しむ顔なんてみたくないんだ。なんで腹を撃ったんだよ!なんで!」と怒鳴り、ボロボロと泣いて「頼む」とだけ消えそうな声で呟いた。

「顔を上げろよ。撃ちにくいだろ」

 彼は顔を上げて目を瞑った。

 兄貴は額に冷たい銃口を当てた。

「なに、すぐに会えるさ。きっとな」

 彼の目からつーっと涙が落ちた。それとともに幼馴染が大声で吠えるように言葉にもなっていない雄叫びをあげた。

 俺はなにも言われずに彼に照準を向けた。

 レイモンドがこちらをちらっと見た。

 幼馴染の目は真っ赤に充血していて、俺たちを嚙み殺そうかというような顔だった。そして、彼はそのままゆっくりと倒れた。レイモンドは立ち上がって、彼の脈を見た。

 こちらを見て「風呂にでも入ればどうだ?」とだけ言った。俺たちは大笑いした。

 すでに妹はこと切れている。そうでなくても、どうせ長くはなかった。

 風呂に入る前に彼らを下水に流すべきだから、兄貴だけが先に入った。俺は軽くなったのだろう彼らを一人一人流した。

 彼と妹だけは残しておいた。風呂に入ってる兄貴に、二人を地面に埋めてもいいかと聞くと「勝手にしろよ」と言われたので、組織の連中を捕まえてそこらへんに掘って二人を埋めてやれと言った。少し彼らは戸惑ったが、すぐに頷いて二人をどこかに持って行った。

「優しいんだな」と隣に立っているレイモンドが言った。

 俺は笑って「馬鹿言うなよ。優しかったらな、生かしてるさ」と言った。

 レイモンドは「それもそうだな。じゃあ、俺は医務室に帰るよ」と部屋から出ていった。ちょうど上がってきた兄貴が「上がったから入れよ」と言ったので、俺は風呂に入った。

「なあ、アレックス」

「なんだい、兄貴」

「足音が近づいてるんだ。俺は今日家に帰らない。お前はどうする」

「俺は兄貴といるよ」

「そうか」

「兄貴、その足音ってなんの足音さ」

「さあな、借金取りか死神かそれとも正義のヒーローか。あとでマットレスひっくり返すの手伝ってくれよ」

「いいよ。もう上がるから」

 風呂から上がって、下だけ履いて部屋に出た。兄貴は、シーツをゴミ袋に入れていた。俺は新しいシーツを取り出した。ゴミはさっさと下水に流した。

「なあ」

「ん?」

「俺は死ぬ気はないが、それは今だけだ。この先は潔くなるかもしれない」

「兄貴、なに言ってるんだよ」

「お前は俺のだよな?」

「ああ、そうだよ」

「なら、いいんだ」

 兄貴は笑って「寝ようぜ」とベッドを叩いた。

 俺は布団に入り込んで、兄貴に抱きかかえられながら寝た。

妹くらいは別によかったのにー!って思う。でも兄貴だし、しょうがないね。

兄貴の言う、だからあの組織の連中は死んだ、ってのは自分がやったこと。普通に報復しに行った。両親は大嫌いだったけど、そこまで思うほどじゃなかったし、弟を助けたのは弟だから。兄貴は最初からヴィランらしいやつだけど、まだ子供だったし、それなりの愛はあった。だから、そいつらを国立の警察使って捕まえたし、出て来た後は下水に流した。もちろん、これは弟が知らないことである。

前の記者からの質問に答えてたことも事実ではある。本当のことを言ったけれど、全部は言ってないって感じ。

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