09 知識は財産
『カランカラーン』
勢いよく扉を開けてギルドへ入る。
「し、資料室って…どこですか?」
若干息を切らしながらサラに詰め寄る。
「大丈夫…ですか?資料室ならそこの階段登ってもらって2階にありますよ!」
非常に冷静な対応で案内するサラ。
「エニシ!ちょっと急ぎすぎだろ!」
「エニシったら…もう。」
遅れてギルドに入ってきたデュランとミリーと合流し、2階へ上がる。
「あそこでギルドカードを見せてからな!」
階段を登りきるとカウンターがあり、初老の男性職員がいる場所を指差しデュランは教えてくれた。
「すいませーん、初めてなんですが…これ、ギルドカードお願いします!」
「はい確かに。確認しましたのでご自由にどうぞ。」
「ありがとうございます。」
俺は受付を終えて、目当ての本があるか探しに行く。
大きさは学校の図書室くらいある。わざわざ図書館に行かなくても全部揃うんじゃないかと思うよ量が目の前にあった。
冒険者ギルドだけあって、冒険に必要な知識関連の本が多かった。魔物の討伐のしかたや、種類のあれこれ、討伐ランクやパーティー構成、ダンジョンの階数の説明や魔物の分布など、為になるものばかりだった。
しかーし!俺にはそんなものは必要ない!俺に必要なのは金を生む知識と必要技能の習得と理解だ。
そんな訳で、錬金術関係と、魔法の種類関係、あと鍛冶に関する本からだな!
おっ!あったあった『錬金術入門』『錬金術中級』『錬金術上級』『錬金術応用』『鉱石図鑑』『薬草図鑑』『薬学全集』『魔法の使い方』『魔法の全て大図鑑』『付与魔法の極意』『漢の鍛冶道』『武具のあれこれ』『魅惑の魔法道具図鑑』『剣術の基礎』
完全に1人の世界に入りこんでいた。思い付く目当てのものは全て見つけ《速読》によりペラペラとめくるだけて情報が蓄積され理解されていく。図鑑等は挿し絵も入っている為、見たことがない物でも深く理解する事が可能となっていた。
時間にして1時間くらいだろうか?なんと言うスピードだろう。《叡智》様々である。自分の才能が怖くなってきた…地球にいたら完全に天才学者で発明家であろう。
思いの外あっさりと終わってしまったので、ミリーとデュランを探すことにした。
「おーいミリーなに読んでるんだ?」
「あっ、エニシ!魔法についての本を読んでたよ!」
ミリーは『魔法の種類あれこれ』を読んでいた。変身、変化魔法がないか探していたようだ。この本を見る限り、どうやら『人間』が変身とか変化する魔法は無いようだ。そもそもカテゴリー自体存在していないのだ。
そんなミリーに、さっき読んだ『魔法の全て大図鑑』の話をした。その本には短くこう書かれていた。
《獣化魔法》聖獣族の中で選ばれた者だけが使用できる魔法。
《獣人化》とはちょっと違うけど親戚みたいなもんだろうと教えてあげた。
「本に載ってないし、とりあえずミリーにしか使えないことは分かったな!」
「そうね。解決したの…かな?」
「ちなみにあれって任意で発動出来そうなの?」
「えっとねー、発動しようとすると、無力が暴走というか、膨らんで爆発しそうなイメージが湧いて来るから、家の中とかだと怖くて、発動出来ないんだ…」
「そうなのか。じゃあ明日は何か依頼でも受けて外に出てみようか!」
「そうだね!そうするー!」
「そういえばエニシはあの沢山の本は読み終わったの?」
「さっき全部読み終わったからミリーの所に来たんだよ!」
「えっ!!1時間くらいしか経ってないのに早くない?」
「ああ。スキル使ったから直ぐだっんだよ!他に読みたい本はある?無ければデュランと合流してお昼ご飯にしよう!」
「取りあえず大丈夫かな!お腹へったし行こっ!」
デュランと合流しギルドを出た3人は、屋台街に向けて歩きだした。
「とれが旨いんだ?」
「そーだなぁ…やっぱりカルーン豚の串焼きだろうな!この辺の名物だし!」
屋台街は町の入り口付近にあり、大賑わいである。店舗の数は30店舗くらいだろうか?そこそこ大きな縁日に来たような感覚だ。そんな中でのイチオシをデュランは教えてくれた
「ってかめっちゃうまいなこれ!」
「そうだろ!そうだろ!」
デュランは誇らしげだ。味はまさに豚トロの塩焼きだった。味付けはシンプルに塩のみ。油がじゅわーっと溢れだし口いっぱいに広がる。胡椒はお約束の如く希少らしいので、庶民の間にはほぼ出回ってないようだ。栽培でもすれば手に入るか。
次は牛ステーキサンドを食べた。これも旨かった。名前の通り肉は大きく分厚くステーキだった。酸味と甘味が絶妙なタレがかけてあり、野菜もたっぶり入っていて、食べ始めたら止まら程旨かった。
酒場では見なかったが、嬉しいことにこの辺は米が採れるらしい。産地ではあるようだが、完全にパン文化なのか米を使った店舗は少ない。外に売ってしまうのがほとんどだそうだ。
「まぁ…旨いけどね…白飯が食べたいな…」
米の食べ方が分かってないのかな?全てなにかが混ぜてある料理だった。さっき食べたのはパエリアのようなもの。その他にリゾット、肉や野菜と一緒に煮込まれたスープご飯?煮るの好きだな…。
一通り食べたいものを食べて満腹になり、食休みを兼ねて宿に戻ろうと踵を返した。デュランには悪いが、お金が無さすぎて昼飯は逆に奢ってもらった。次は奢ると約束し、了承してもらった。
「今日はありがとう!今日の借りはしっかり返すから後で部屋に来てくれ!」
「今からでも行けるぞ?」
「分かった!じゃあ行こう!」
宿屋に入り別れようとしたが、予想外の返答で急遽、デュランを部屋へ招くことになったので、ミリーにはロビーで待っていて貰った。
「いらっしゃい!早速で悪いんだけどさっき言ってた魔石を貸してもらえる?」
魔石とは魔物の核とも呼ばれ魔力を持った紫色の石のことを言う、魔物の強さや、生きた年数により大きさ、強度が変わり、大きく輝きが美しいほど高値で取引される。加工は難しく、魔力を持っているので、主要都市のような場所の継続結界の核として使われる事が多いようだ。
草原で倒した魔物から取れたものがあるようなので、借りて実験することにしたのだ。草原の魔物は弱いので魔石も小さく脆いので、成功するか分からないがやってみるしかない!
「おう!!頼んだぜ!」
「任せろ!」
俺は魔石を両手で包み込む様に持ち《ヒール》と《融合》を使用し混ざり始めると魔石が光り出した。光が収まると俺の手の中には白く色を変えた魔石がある。
《ヒール》10回分くらい魔力を使っただろうか。魔法とスキルの同時発動はなかなか難しい。
外から見れば手の中が、いきなり光って消えたって感じだろう。
「ふぅ…しんどい…」
「終わったのか?」
羽を使った時と似た、疲労感と気だるさが襲ってきた。《融合》のスキルを理解して使ってみると、混ぜ合わせるスキルや魔法が強力なほど《融合》するときの魔力消費が多いようだ。今回は《ヒール》の回数だろう。あと魔石の強度。あの小ささではこのくらいが限度だろう。これ以上混ぜたら壊れてしまう。
一応《鑑定》
【ヒールの魔石(10/10)】
◇ ヒールの効果(小)
脆いのですぐ壊れる
― ― ― ―
まぁまぁの出来かな!要は魔法道具だ。適正が無くても使えるし、魔法そのものが入っているから起動の為にちょっと魔力が必要なだけで、使用感は申し分ないだろう。後は威力だな…魔法力と熟練度が上がらないと強力な魔法は使えないからレベル上げと鍛練が必要だな。
「お待たせデュラン!さっきの魔石は俺のスキルで『ヒールの魔石』ってアイテムになったから回復薬代わりに使ってくれ!回数制限はあるが、使い方は魔力を込めるだけだから簡単だ!適正が無くても使えるぞ!」
「はぁ?魔法道具になったってことか?1人で魔法道具を作る奴なんて、見たことも聞いたことも無いぞ!
……まぁ流石は渡り人って事だな!なんだ…見た目は錬金術っぽかったが?ちょっと違うのか?とりあえずこれは、今日の礼として貰っとくよ!」
驚きながらそう言って、デュランは部屋を出ていった。
あんなに驚いているってことは、やっぱり普通じゃないんだな。あまり人前でやると目立つな…。
デュランが錬金術に似てると言っていたので、今後は錬金術師として行動した方が良さそうだ。
ミリーを一階に残したままだったので、呼びに行く。魔力使いすぎたな…歩くのもしんどい。
魔力を使うとは、体から血が流れ出て行くような感覚だ。…ふらふらする。ミリーを呼び、帰りはミリーに肩を借りて部屋まで戻った。
座っているのも辛くなってきたので、ベットに横たわり目を瞑る。俺はすぐに睡魔に誘われて、そのまま眠ってしまった。
やっと主人公のスキルが使われました。色々な便利アイテム等を作っていきたいと思います。