06 カルーンの町
いい感じに酒も入り、お腹も膨れてきた。ミリーはミードが気に入ったのか、3杯目を飲んでいる。
ミリーの隣はデュランだったはずだか、今はラオルが座り、しきりにミリーに話しかけている。ミリーは飲み物と食べ物に夢中で、あまり聞いていないようだ。
「あのぉ、どうして俺達にこんなに親切にしてくれるんですか?」
俺は隣にいるココットさんに、疑問に思っていたことを聞いてみた。
「そうですよね。教えてあげましょう!」
ココットさんは納得したように頷く。そして理由を教えてくれた。
ココットさん曰く、『渡り人』は神様の加護により、本人専用の優れたスキルを持っていて、この世界の人間には出来ない偉業をなし得る力があると伝わっているらしい。その為、出会うことが出来れば媚を売ってでも好意を持って貰うように接するのだとか。
笑顔で説明をするココットさんを見て、ちょっと残念に思ってしまった。
色々と助けて貰っているのは事実なので、深く考えず、今の状況に感謝し、早めにお金を返せるように頑張ろうと俺は思った。
「そう言う事なので、遠慮せずに楽しんで下さい。」
ココットさんはいつもの笑顔で言う。
「そうですね。有り難うございます。カルーンまで宜しくお願いします!」
俺はココットさんに告げ、酒と食事を堪能した。
お腹も一杯になった辺りで、
「今日はこのくらいにしておきましょう!」
ココットさんが食事終了の掛け声をかける。
各々が自分の部屋に戻って行く。
「ご馳走さまでした。」
そう言って俺とミリーも部屋に戻っていった。
部屋に戻り、ベットに大の字で身をあずける。ミリーは大分飲んだようで、ベットの上で丸まり、すでに寝息をたてていた。
「無防備過ぎるだろう…」
俺はベッドから起き上がり、やれやれとミリーに布団をかける。
俺も布団にくるまり目を閉じる。
『ゴンゴンッ』
入り口の扉がノックされる。
「おーい起きてるかー?1時間後に出発だぞー!それともこれココットさんからだぁ、着替えてから来いよ!」
「分かった、ありがとう!」
翌朝、デュランのモーニングコールで起こされた。ココットさんから着替えをもらい、ミリーを起こして準備をし食堂に向かう。
「おはようございます。」
ココットさん、がコーヒーを飲みながら手を振っている。
「「おはようございます。服ありがとうございました!」」
俺とミリーは挨拶を返して近くの椅子に座る。
朝食はトーストとハムエッグとホットミルク。朝食なんていつぶりだろう。前世では暫く食べて無かったなと思いながら食べた。
「それでは出発しましょうか!」
ココットさんと宿屋を出ると、準備が済んだ馬車と、馬車の回りにデュラン達か待っていた。
トントの村を出発し、カルーンの町へ向かう。
トントに向かったときとは違い、道中何度か魔物が襲ってきた。しかし、デュラン達にかかれば一瞬だった。どうやらあの羽が魔除けの役割を担っていたようだ。その為、昨日は一度も襲われなかったんだなと思った。
戦いを終えたデュランと話をする
「本当に魔物っているんだね!」
「そりゃいるさ!昨日は運が良かったんだな!」
「デュラン達って強いんだね!」
「あんな雑魚どもと戦っても自慢できねぇけどな!」
「でも、俺は戦えないし…凄かったよ!」
「おう!戦いは俺達に任せなっ!」
キメ顔のデュランは『じゃあな!』とまた馬車の先頭に向かっていった。
…俺は今後魔物と戦って行けるのだろうか?自分の力もよく分からないし、町についたら色々調べてみようと思った。
暫くすると、遠くに石積の防壁が見えてきた。あそこがカルーンであろう。城のような建物も見えるし、背の高い建物も多いようだ。規模的には村の20倍くらいの大きさがあるのでは無いだろうか。
「この辺りはタールマン伯爵様の領土で、カルーンの町もその一つなんですよ。必要なものは何でも揃いますので、ゆっくり見ていって下さいね!」
「へぇ。そうなんですか!有り難うございます!」
ココットさんは教えてくれた。期待に胸を膨らませながら、近づく城門に目を向ける。
遠くからは分からなかったが、近づくにつれ防壁と城門の高さに驚く。目の前まで来て分かったが見上げる程あった。
門の所に兵士らしき人が4人立っている。真ん中2人がチェックを担当しているようだ。
町に入るには、身分証と入る為の理由を伝えなければいけないらしいが、そこはココットさんが上手く話をつけてくれたようだ。俺達は理由だけ告げてすんなり入れた。
「それではここでお別れですね。何か困ったことが有れば、遠慮せずにうちの店に来てください!あっ、それとこれもお渡ししておきますね!」
ココットさんはそう言って硬貨が入った巾着袋を渡してきた。
「これで、暫くは大丈夫だと思いますので、無くなる前に目処を立てて下さいね!とりあえず、身分証も必要でしょうから冒険者ギルドに行くことをオススメします!」
「それじゃあ俺が連れてってやるから一緒にこいよ!」
ココットさんの提案に、隣にいたデュランが名乗りででくれた。
ココットさんにお礼をし、デュラン達に連れられて冒険者ギルドに向かった。
『カランカラーン』
冒険者ギルドの扉を勢いよく開けて入っていくデュランにくっついて、足を踏み入れる。
無数の鋭い眼差しが俺を見てくる。大体の人が鍛えられた体を自慢するかのように、上半身の露出が多く、割れた腹筋や逞しい腕を覗かせている。
「怯えてるだろ!やめてやってくれ!」
デュランが一斉に見つめてくる人達にいい放つ。
「「「っち!」」」
「「「わーたよっ!」」」
いたる所で舌打ちが聞こえる。
「わりぃな!見たこと無い奴が来ると、いつもこうなんだよ。あっちが冒険者登録できる所だから、早いとこすませちまえ!」
デュランは申し訳なさそうに教えてくれた。
「いらっしゃいませ!担当のサラです。こちらでお名前といくつか質問をしますので、お答え下さい。」
カウンターにつくと、同い年位の女性が担当してくれた。
「…はい!質問は以上です!適正検査は受けて行かれますか?」
「???」
「それは受けといた方がいいぞ!どの魔法に適正があるか分かるからなっ!」
何だ?と思っているところにデュランが助け船を出してくれた。
「「お願いします!」」
俺とミリーは適正検査を受ける為、奥に案内された。
案内された先には見慣れない物がテーブルに置いてあった。見た目は水晶玉に7つのランプが固定されている物体。
「それではこちらに手を置いてみてください。」
言われるままに手を置いてみた。5つランプがついた。
「えっ!!」
サラが驚いている。
「な、なに者です?」
「え?…えっと…渡り人ってやつです。」
「どうりで…」
「何か不味かったですか?」
俺はサラの反応に驚きながら答えた。
「えっと…不味くはないのですが、普通の人は大体が1個か2個で、多くても3個。それに…この色のランプがつく事は今まで無かったのでつい…」
ランプは赤(火)、青(水)、黄(土)、緑(風)、白(治療、補助)、黒(闇)、紫(特殊)の系統を表す。適正があるランプがつくシステムらしい。
俺がついた色は、赤、黄、緑、白、紫だった。
紫(特殊)はそれ以外の6系統以外の属性を持つもので、固有魔法とも呼ばれる。この世界では今現在固有魔法を持つ人間は数える程しかおらず、そのほとんどが王都の偉い宮廷魔導師だ。ましてや冒険者で持つ者などおらず、衝撃的だったに違いない。
サラの方を向くと、歴史的は瞬間に立ち会えたとばかりに、驚いた表情から、感激したような眼差しに変わっていた。
「ありがとうございました!次はミリー行ってきて!」
目線を華麗にスルーしミリーにバトンタッチ。
「…も、もう驚きませんよ!」
ミリーは、青、緑、白、紫の四つがついたら。ミリーも何か秘めているようだ。
「あ、ありがとうございました。」
3人はカウンターに戻り、冒険者カードの発行を進める。
「まず、登録料金が、お一人銀貨3枚になります。」
俺は、二人分の銀貨6枚を手渡した。
「ランクはFランクからのスタートになります。依頼や、業績でランクは変動しますので頑張って下さいね!」
サラはそう言って、冒険者カードを渡してくれた。
「やっと終わったかぁ!今日は冒険者になった祝いをしてやるから飲みに行くぞっ!!」
デュランは痺れを切らしたように、登録が終わる頃合いを見計らい現れた。
「お、おう!ありがとう…」
「「ありがとうございました!」」
俺とミリーは急いでサラにお礼をし、デュランの元へ急いだ。
『ガシッ!』
拒否権は無いようだ。肩を組まれ強制連行のように冒険者ギルドを後にする。
少しずつ能力が分かってきました。やっぱりチートは必要ですね。