05 羽の使い方
ベットに腰掛け、ミリーと話をする。
「ミリーは、人間の体になってどう?慣れた?」
「うーん。どうと言われても特に違和感は無いかな。補助意識のお陰で、人間はこうやるべきって、なんとなく分かっているけど、自分が自分じゃない感覚みたいなのがまだあって、いつもエニシの真似をして確認している感じかな。」
「ふむ…なるほど。」
ミリーの言葉に確信を得たよう頷く。
「でも、こんな風に自分の言葉で、エニシにしっかり伝えられるようになって、人間になって良かったと思ってるよ!」
ミリーは笑みを浮かべて言った。
「そっか!良かったね!……ところで、成り行きで今は一緒に旅をしているけど、これからも一緒に旅をしていきたいと思っているんだけど…どうかな?」
俺はまだ、ミリーを一人にしてはいけないと思い、確認のため聞いてみた。
「い、いいのですか?出来れば、ずっと一緒がいいです。」
「う、うん。いいよ…」
ミリーは、予想外の表情をみせ、急に訴えかけるように敬語になり、俺の手をとり伝えてきた。俺は少しビックリしながら返答した。
「ミリーさん、どうしたのかな?」
俺は手を握られて、動揺しながら聞いた。
「ごめんなさい。…ずっと…謝りたかったんです。人間の考えを得てから前世であった出来事を考えると…私のせいでエニシ…さんを死なせてしまったんだなって思って…でも全然私を責めるような事は言わないし…いつの間にか一緒に居ることが心地よくなってて…甘えちゃってて…いつまで一緒に居てくれるんだろうって…ずっと不安だったんです…だから…」
ずっと不安だったのであろう、泣きそうな目で、必死に言葉を繋いで今までの気持ちと、今の気持ちを伝えてきたミリー。今までの言動も、俺が敬語は要らないと言ったから、我慢して合わせてくれていたのだろう。
「前世の事なんて気にすんなよ!大丈夫…ずっと一緒に居るから。」
俺は小刻みに震えるミリーをそっと抱き締めて慰めるように優しく言った。
「はいっ!!」
ミリーは今まで見たことの無い満面の笑みで返事をした。
「むしろ俺の方こそゴメン。その……助けようとしたのに助けられなくて…」
俺も、今まで言いたくても言えなかった言葉をここぞとばかりにミリーに伝えた。
ミリーは驚いたように俺を見ている。そして、
「では、御互い様ですね!!」
とミリーは悪戯っぽく言いながら笑った。
「そーだな!」
俺も今まで溜め込んでいたのがバカらしくなり、ミリーと一緒に笑った。
俺とミリーは改めて『旅の仲間』として堅い握手を交わし、また『ニシシ』と笑いあった。
「そう言えばあの羽ってどう使うんだろうね?」
ミリーはいつもの口調に戻り俺に聞いてきた。不安が和らぎ肩の荷が降りたのであろう。自然体だと思った。
「あー、忘れてたな。」
先程までの、どこかよそよそしかった雰囲気は無くなり、俺もミリーも気持ちのリセットができたようだ。
俺とミリーはアイテムについて考えてみた。
「アイテムを使うってどうやるんだろう?」
「振ってみたら?」
― ヒュッ ―
振り下ろし、風を切る音が聞こえた。
「何も起きないな。」
「投げてみる?」
― スッ … コトッ ―
ダーツでもやるかのように投げてみるが、真っ直ぐすら飛ばず、直ぐに床に落ちる。
「うーん、なんも起きないな」
「じゃあ、召喚!」
羽を床に置き、クラリエル様が出てきた時を思い浮かべ、
「いでよ、時空の神!!」
― しーん ―
某アニメの中で出てきそうな召喚呪文らしき言葉を言ってみた。
「ですよねー。」
「残念です…。」
俺とミリーは各々使い方を考える。しかし地球生まれの俺達は、物体に動きを加える事しか『使う』と認識しておらず、貰った羽を使えないでいた。
俺は半ば諦めつつ、羽を手に取り『使う』、『使える』と羽を見つめながら『念じて』みた。フワッと羽を持つ手に温かみを帯びた瞬間、
― ピカァァァン ―
羽が目映い光に包まれ俺の体に吸い込まれるように入ってくる。
「っな!!」
軽くパニックになった。
《君なら使いきってくれると思っていたよ!スキルをあげるから有効に活用してね!じゃガンバってねー!》
一方的な言葉が脳に直接流れ込んでくる。
「大丈夫?」
ミリーは心配そうに聞いてきた。
「…うん。なんかスキル貰ったみたい。」
貰ったスキルは《叡知》と言うスキルだった。体に急激な疲労感が押し寄せる。同時に、脳の中の靄が晴れたように冴え渡る感覚を覚えた。
あの羽は『神の羽』と言うアイテムだった。魔力を流すことで効果か発動し《時空魔法》が使えるようになる。
使うというより、与えられる近い。
更に、俺のスキルに反応するように組み込まれたスキルが《叡知》だった。クラリエル様はサプライズが好きなのろうか?と思ってしまった。
俺は先程手に入れた【叡知】により、自分に起きたことの原因と結果を瞬時に理解する。
「ほーう!なるほど。これは凄い!」
俺は自分の脳内の情報処理能力に驚きつつ満足げな顔で頷く。
エリーに、先程自分に起きたことを伝えた。そして、先程のアイテムは魔力流すと効果を発揮するタイプアイテムだったと説明した。
「今なら確かに!って思うけど魔力を流してアイテムを使うとか…全く想像出来なかったよ…」
ミリーは落ち込み気味に嘆いた。
「まぁ、羽も無事使えたし、新しいスキルも手に入れた事だし、飯にしよう。そろそろ1時間くらい経つよね?ココットさん達も居るんじゃないかな?」
「そうね、エニシも大丈夫そうだし、向かいましょうか!」
二人は部屋を出て、食堂へ向けて歩き出した。
食堂に近づくと、
「こっち、こっち」
と手招きをして俺達を呼んでいるココットさんがいる。
「「すいませーん。お邪魔しまーす。」」
二人は空いている席へと腰を掛けた。
「ここの料理は美味しいから、いっぱい食べて下さいね。」
ココットさんはにこやかに言う。
この場には先程の6名全員が揃っていた。デュランは早く食べたくてうずうずしているようだ。そこへタイミング良く、人数分の飲み物が運ばれてきた。すべて木でできたジョッキだ。ジョッキは、表面が泡に覆われていた。
「よっ!待ってました!」
デュランのテンションは最高潮だ。
うん。飲みたかったのね。
「「「「カンパーイ!!」」」」
全員のジョッキが空中でガチャガチャとぶつかり合う。
「っぷっはぁぁぁっ!」
「エールおかわりっ!」
デュランは一気で飲み干しお代わりを頼む。姿通り豪快な飲みっぶりだ。
「「ごくっ」」
俺とミリーも飲んでみる。
少し甘いビールの様な飲み物だった。冷えていた方が旨いだろうが、これはこれで嫌いじゃない。
「…エニシあげる。」
ミリーは口に含んでしまったエールを飲み込み、少し涙目でエニシにジョッキを押し付けてきた。
「ミリーさんのお口には合わなかったようですね…」
ミリーの様子に気づいたのか、申し訳なさそうにココットさんが言った。代わりにミードを追加注文してくれた。
「エニシさん、それもらっていいっすか!」
ラオルが自分のジョッキを空にしてミリーに押し付けられエールを指差し興奮しながら言ってきた。
「ど、どうぞ。」
「あざっす!」
ラオルはひょいとジョッキを手に取ると、誰にも渡さないとばかりに一気に飲み干した。
「っぷはー!ムフフ」
「なにやってんのよ、恥ずかしい!」
幸せを噛み締めているようなラオルに、不機嫌なサニッシュが叩きながら言い放っていた。
「ってぇっすよ。いいじゃないっすが別に!」
ラオルは反論するも、また叩かれていた。
俺とミリーはそのやり取りをみてポカンとしていた。
道中ラオルがミリーの事をチラチラ見てた事には気がついていた。好意を持っているのであろう。サニッシュの方は…どうだろう…分からない…
そうこうしてる間に、今度は料理が次々に運ばれてきた。ステーキ、サラダ、パン、キッシュ、肉と野菜の煮物、茹でた豆、スープとテーブルいっぱいに並ぶ。
「うまい!」
「美味しい!」
食べやすく、どこか懐かしさの感じられる料理に俺もミリーも満足し、みんなとワイワイしながら食事を楽しんだ。
もう少し時間はゆっくり流れます。