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2話 国王会議 上編

 肉欲に溺れ、そして愚かにも権力にものを言わせた悪王アダールが討たれてたから七日が過ぎ、ヒュベール国外の国にも王が代わっていた事、そして新しく王となったアダールが討たれたという報告が出回った。

 ヒュベール国は周りの国々からは『人脈の国』と呼ばれ、学問や技術で優れた国として有名だったのだが、それはアダールが王の座に就く前までの話。アダールが就いてからは一向に腐敗していき、周りの国もその事を知らずに過ごしてきた。

 そのせいで入国してまだ一週間にも満たない日が浅いガラハーンの妻娘、バダンの妻、ターナドの恋人が犠牲になりかけた。

 元凶であるアダールは魔王アルシアに仕える騎士グレイスに討たれ、王座に就いて四ヶ月も持たずに彼の地位や名誉、人権などはもはやどこにもなかった。


(まぁ、憎まれて当然のことだろうな、それよりもこれをどうするか――だな)


 新たな国王として王の座に就いたグレイスは目の前に積まれていた報告書の量に「果たして、一人で捌けるだろうか」とげんなりとした表情で見つめる。

 前王アダールが就いていた三ヶ月間で急激な人口減少に加え、野菜や道具などの品質の劣化、腐敗した土地やヘドロ臭が酷い汚水の増加、そして先日のアダールを討った時にアダールに肉盾にされた者達の供養、アダールの無能さが増していくごとに多少の苦労を覚悟していたグレイスも「度が過ぎる」と言い吐き、苦虫を噛み潰したかのような顔をする。


「そして、これか……」


 報告書とは別にあったのは招待状――その招待状と共に入っていた添状には各国の国王達が集まり、会議を行うと書かれており、細かな日程や会議場が載っていた。その会議を行う日が明日の早朝、と早い時間帯に割り振られていた。

 現在のヒュベール国では生活そのものが危険なため、住民にはレーデ・ベルテン領に一時的に移動してもらっている。もちろんここで会議などできるほどの状態でもない。実際、昼間にこの国にいるのは毒が蔓延してるようなところでも活動出来るグレイスや魔族と運良くグレイスに敵対されずに済んだ毒や汚染耐性を持つ兵士達だけだ。それだけ環境が酷いと当然ながら夜には誰も存在しない国となる。魔物が喰う餌はもはや毒と等しく誰も寄り付かない。


「確か場所は――隣のザーテル国だったな」


 ザーテル国はヒュベール国の右隣に位置する国で今は亡きグレイスの父・ゲオルが生まれ育った国。ヒュベール国でもザーテル国でもない国の辺境の村で生まれたグレイスにとっては興味深い場所でもあった。

 それはそうとして、ザーテル国は徒歩で三日、馬で一日、それより早いのだとグルースムという大型ワニのような移動用の魔獣で半日とそう遠くないが近くもない所に位置しており、会議の前日にはその国に入っていないといけないという地上界――人間界ならではの決まりが存在していた。既に昼を過ぎ、日は沈み終わりかけており、一つ目の月が既に昇っていた。


「そろそろ行かないとまずいか」


 時に直し、およそ午後七時にはザーテル国にあるどの宿屋も受付を終了してしまう、というのだ。現在は午後六時四十五分と言ったところで1番早いグルースムを使ってももう間に合いはしない。が、グレイスにはさほど問題にすらならなかった。

 そもそもそういった移動手段は魔法適性がない人や転移魔法を扱えない人達のために用意されたもの。

 グレイスはそもそも魔王にすら匹敵するほどの壮大な魔力を持っていながら魔法適性はなく、間違いなく前者に値するが、それはあくまで普通の人間であるならばの話である。彼は地上界に迷い込んだアルシアを助けたその翌週には家族ごと魔界に攫われて以来魔界で生活し、次第に血液と同じように身体中に構成されている魔力回路が変化し、魔力回路は既に魔族と同じ状態に等しい。こうなってしまうと話は別だ。

 この世界には『水竜でも火を吹く』という見た目や聞いた話では判断してはならないという戒めを込めた言葉がある。水竜には火竜のように火炎袋を持っているわけではないのに火を吹く。何故か?

 体内にある魔力をかき集めて使う『魔法』とは違い、体外にある魔力をかき集めて使う『魔術』という魔族や魔物、聖獣や神獣だけが扱える(わざ)があるからだ。水竜は言語は理解するが、持たない竜族であり、動作一つで無から水を作ったり、火を吹いたりする事ができるためその言葉が作られたのだ。

 同じようにグレイスも魔族の魔力回路を持つ者である。それも人間でありながらである。アダールの操り人形になる運命を辿るしかなかった死体達を焼いた炎も『魔術』そのものによって生み出されたものだ。

 突然だが、地上界と魔界を繋ぐ境界――通称『門』には同じ場所で常に開いてるもの、同じ場所にあるが不定期に開くもの、魔族の意思によって開かれるものとある。

 ガラハーン達が通った『門』は常に開いているものである。そして、今からグレイスが通る『門』は魔族の意思で開かれたものである。目的地は当然、レーデ・ベルテン領。そこからまた『門』を開き、ザーテル国付近へと出る。こうしてしまえば擬似的な転移魔法となる。ザーテル国に入ろうとすると当然ながら門番に差し押さえされてしまう。


「ヒュベール国から来た、国王からは聞いているだろう?」


 一言を吐いただけで通り抜けた。時刻は六時五十五分とかなり時間を押していたため、グレイスは急いで指定された宿屋を探し、無事宿泊する事が叶ったのだった。

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