8話 そびえ立つ双丘
「それにしても、ゴンドラ移動楽しかったですね」
「本当ですね、ご主人様。水も景色も綺麗で……」
舞夜に話しかけられ、アリーシャは先ほどまで揺られていたゴンドラからの景色を思い出す。
武具店ヴァルカンズを後にした舞夜達は、部屋着や下着類などを買い込み、ギルドの受付嬢(?)、アーナルド・ホズィルズネッガーさんに教えてもらった、宿酒場へ向かっていた。
広い都市なので、移動が大変そうだと思っていた2人だったが、冒険者はゴンドラに無料で乗れるのが分かり、さっそく利用したのだ。
石造りの綺麗な建物や、澄み渡る水の景色はまさに絶景。
観光名物に相応しいものだった。
「あ、ここですね」
アリーシャが指を指すのは、レンガ造りの二階建ての建物。
正面にはベッドとフォークにナイフが描かれた看板。
目的の宿酒場だ。
「いらっしゃいませ〜! お食事ですか? 宿のご利用ですか?」
中に入るとさっそく、宿の娘に声をかけられる。
その手には、酒瓶の乗ったお盆——
どうやら受付と注文取りを兼任している様だ。
舞夜は「両方で」と答える。
「ありがとうございます。お部屋はご一緒ですか?」
「いえ、別々で——「一緒でお願いします」
冒険者登録の時の様に、舞夜の言葉を遮るアリーシャ。
一緒の部屋と聞き、舞夜の心臓がドクン! と高鳴る。
だが、もちろん一緒など論外、何言ってんだと咎めようとするが……
「ダメですよ、ご主人様? 報酬はたくさんもらえましたが、まだ貯金と言えるほどのものではありません。ムダ遣いは避ける様にしましょう」
最後に「めっ! ですよ?」と有無を言わさず、締めくくる。
そのなんとも正論な意見を自然な感じで言われ、男女が同じ部屋なんて……、などと考えていた自分に恥ずかしさを覚える舞夜。
結局、部屋は2人部屋となった。
「では、こちらがお部屋の鍵です。お食事はもう用意していいですか?」
「お願いします」
と即答。
舞夜がこの世界に来たのは早朝。
それ以来、何も食べていなかった。
そしてそれはアリーシャも同様。
なので2人とも腹ペコなのだ。
注文したのは、セット料理。
同じものを頼んでいた客の席を覗いてみると、パンにスープ、それに野菜を漬け込んだ小皿が見てとれる。
パンはかなり固いようで、スープに浸して食べている。
値段は銅貨3枚。
値段といえば、街で買い物をしながら、アリーシャに硬貨の種類を教えてもらうことで、舞夜は大体の価値を日本円換算する事が出来た。
硬貨の種類は6種類。
“銭 貨”=10円
“銅 貨”=100円
“銀 貨”=1,000円
“白銀貨”=10,000円
“金 貨”=10万円
“白金貨”=100万円
つまり、今頼んだセットは約300円。
質素に見えるが、値段を考えればいい方だろう。
「お待ちどおさん」
待つ事少し、少しハゲかけたガタイのいい厨房服姿の男性と、先ほどの娘が料理を運んで来た。
が、舞夜とアリーシャは不思議そうな顔をする。
「あの、ぼくたちが頼んだのは銅貨3枚のセットです。他の席と間違えてますよ?」
その言葉にアリーシャも頷く。
運ばれて来た料理は、肉料理と具がごろごろ浮かんだスープ、サラダ。
それと、こんがり焼かれたチーズの乗ったパンだったからだ。
「間違ってませんよ、お客さん」
「俺からのサービスだ。遠慮なく食ってくれ」
そう言う2人。
サービスなどされるような事をした覚えがない、舞夜とアリーシャは、またもや不思議顔。
「実は、お前さんたちが昼間、この都市に入って来るのをたまたま見ててな。周りの話を聞けば、拾った女の為に冒険者を始めるそうじゃないか!」
「それでお父さんったら、ホロっときちゃったみたいで……、いいもの見せてもらったお礼らしいです」
その言葉に「そういえば都市に入る時、いろんな人に見られてたな」と、舞夜は思い出す。
自分のくさいセリフが噂になっていると思うと、途端に恥ずかしさが込み上げて来るのだった。
「じゃあ、ゆっくりな!」
娘の父……この店の店主は、機嫌よく舞夜の肩をパン! と叩くと厨房へと戻って行った。
舞夜とアリーシャは、その背中にお礼を言い、ありがたく頂くことにした。
それから少し——
「オラァ! もっと飲めよ、あんちゃん! なぁに、俺のおごりだから安心しろ!」
「ねぇ、アリーシャ。舞夜が上級魔法使いって、本当なのかい?」
「私も気になりますぅ」
舞夜たちは、宴会に巻き込まれていた。
というのも、2人が食べ始めた直後に、昼間会った門番の騎士がたまたま仲間を連れて、飲みに現れたのだ。
舞夜たちに気づくと機嫌よく絡み始め、気づけば宴会の始まりというのもわけである。
ちなみに、この騎士の名は“ダニー”。
アリーシャに絡む女騎士は2人は、“ケニー”に“マリエッタ”。
正規の騎士でありながら、なぜかビキニアーマーを着すというあたり、さすが異世界であろう。
異世界と言えばもう1人。
同僚の騎士の中には蜥蜴の様な見た目をした亜人、リザードマンもいた。
名はハワード。
太く逞しい尻尾で酒樽をまるまる持ち上げ、バカみたいにでかい口へ、ダバダバとエールを流し込んでいる。
——こんなに楽しく食事をしたのは初めてかもしれない。
親切にしてくれる店主やダニー。
そして気さくに絡む、その同僚たちに、舞夜は自然と笑みが溢れる。
アリーシャもかなり出来上がっているらしく、先ほどからメイドスカートが膝上まで上がってしまっているのに、無防備にも脚を組み替えたりする。
むっちりとした白い太ももが見え隠れして、舞夜は目が離せないでいた。
「おい、みんな、それくらいにしとけ。2人とも完全に出来上がっちまってるじゃねーか。明日早いみたいだぞ?」
更に少し経った頃。
店主が現れ、そう言った。
——そうだ、明日から仕事があるんだ。
店主の言葉で、その事を思い出す舞夜。
気づけばアリーシャは眠ってしまっている。
しかたがないので、ひとしきり皆にお礼を告げ、アリーシャを担いで部屋へと向かう。
非力な腕で、えっちらおっちら状態だが、舞夜も男。
なんとか部屋まで運び切った。
階段を上る途中、なぜかケニーとマリエッタがニヤニヤとその姿を見つめ。
ダニーとハワード、そして店主が「キメちまえぇぇぇぇ!!」などと盛り上がるが、酔った舞夜の頭には入ってこなかった。
◆
——どうなってんだコレ……。
部屋に入り、アリーシャをベッドに寝かせたところで、舞夜はある光景に目を奪われていた。
目の前の2つの双丘……そびえ立つアリーシャの爆乳に——
おわかりだろうか?
そう、そびえ立っているのだ。
メロンと見紛うほどの大きさ、圧倒的質量。
だというのに垂れず、崩れない。
固いのなら分かる。
これが筋肉の塊であるというならば、舞夜も納得も出来よう。
だが、違うのだ。
押しつけられたり、顔でダイブした時にはあんなにも柔らかかった。
これは神秘……もしくは夢。
『おっぱいには夢が詰まっている』
誰かが言ったその格言が、本当だったのだと確信する。
だが、舞夜の目を奪うものは彼女の果実だけではない。
その実りの少し上には、美しくも愛らしい無防備な寝顔。
桜色の小さな唇からは「んっ……」という声と共に吐息が漏れる。
そして彼女の体から漂う甘い匂い。
彼女特有のフェロモンなのか、嗅いでるとそそられてしまう。
それと同時に安心感も覚える。
この匂いと大きな胸に顔を埋めたらどんなに気持ちいいだろうか。
そのまま、そのきれいな唇を奪えたら……
そんな事を考える舞夜。
酔っているせいか歯止めがきかない。
顔をどんどんアリーシャの胸へ近づかせ、匂いを貪り始めてしまう。
「やぁんっ……恥ずかしいです。ご主人様ぁ……」
——っ!?
突如聞こえる恥じらう声に、舞夜の心臓が止まりそうになる。
——幻聴であってほしい。
そう願いながら、視線を移すと……アリーシャが頬を赤く染めながら、いたずらっぽい笑顔を浮かべていた。
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