88話 アルフス王国の戦士長
アルフス王国は、様々な草木に囲まれた大国だ。
住まう種族は主にエルフ。
エルフは、そのほとんどが容姿端麗であり、大自然と調和し生きる姿は、見る者全てが心奪われてしまうであろう。
だが、そんな中でもひと際美しい特別な存在がいる。
「う〜ん……」
場所は王都の兵舎。
その女子更衣室。
着替えを終えた1人のエルフが、伸びをしながら声を漏らす。
髪はウェーブのかかった腰まであるプラチナブロンド。
少しばかり目尻の垂れた……しかし、整った形の瞳の色はマリンブルー。
左の瞳の下にある小さな泣きぼくろが、どこか色っぽさを感じさせる。
瞳もさることながら、鼻や口も驚くほど整っており、エルフの中でもその美しさはズバ抜けている。
言い表すならば絶世の美女――そんな言葉しか思いつかないほどの容姿だ。
容姿といえば服装だが……
兵舎という場所に相応しく、白銀の鎧を着している。
だが、その鎧の形が普通ではない。
鎧だというのに、腹や二の腕、太ももが丸出しなのだ。
そして、デザインは非常に際どく、まるでランジェリーのよう……いわゆる、ビキニアーマーというやつだ。
「あぁ、“レオナ”戦士長……今日も美しいわ……」
「ほんとね。それに綺麗な肌に、あの完璧ボディ……同じ女でも見惚れちゃう……」
彼女が伸びをする姿を見て、鎧へと着替える途中のエルフ2人が、ウットリとした顔で言葉を漏らす。
絶世の美女エルフ――その名は、レオナ。
今、1人目が言ったとおり、彼女はこの国の女戦士だけで構成された“アマゾネス戦隊”の戦士長だ。
そして、これもまた2人目が言ったとおり、レオナは顔だけでなくプロポーションも抜群だ。
シミひとつない白磁の肌に、線は細いというのに、臀部や太ももは程よくムッチリと……。
そして胸は、これでもかというほどに、大きく実っている。
その大きさ……例えるならば“メロン級”。
どこかの、ご主人様だいすきエロフと同じくらいはあると思われる。
女であっても見惚れてしまう様な、絶世の美貌と悩ましボディを持ったレオナが、ビキニアーマーなど着て、日頃から兵舎や街中を歩き回るのだから、男性兵や街の男たちは、たまったものではないというものである。
「戦士長ぉ〜! 大変なのです!!」
更衣室の扉の外。
廊下からそんな声が響く。
そして――
バタンッ! と扉が大きな音を立てて開けられる。
「まぁまぁ、どうしたの“ナタリア”? そんなに慌てて」
大声の出どころ。
勢いよく現れたエルフの少女に向かって、レオナが色っぽくも、おっとりとした声で問いかける。
ナタリア――少々小柄なエルフの少女だ。
ライトグリーンのショートヘアをしており、その性格は快活。
彼女もまた、アマゾネス戦隊の隊員であり、小柄な見た目に反し、副戦士長という大役を任されている。
「“中央の森”に早朝警備に出ていた子たちが大怪我をして帰って来たのです! 報告によると“レッサードラゴン”の群れが現れたとのことなのです!」
「――ッ! レッサードラゴン……それも群れでですって?」
ナタリアの報告を受けたレオナの表情が、おっとりとしたものから真剣なものへと変わる。
レッサードラゴンとは、その名のとおり下級の竜種のことだ。
通常のドラゴンのように翼は持たず、飛行能力はない。
体内に火炎炉もなく、ドラゴンブレスによる攻撃も放ちはしない。
しかし、その凶暴性やパワー、スピードなどは遜色はないのだ。
対し、警備に出ていたアマゾネスたちは僅か数人。
そんな状態でレッサードラゴンの群れに出くわしでもしたら、大怪我は必死……否、生きて戻ってこれただけで、幸運と言えよう。
「討伐に向かうわ。至急、人員を集めなさい!」
「「「了解!!」」」
ナタリアを始め、その場にいた者たちへレオナが指示を飛ばす。
エルフは自然の中で暮らす種族。
ゆえに、王都の中心部にも中央の森と呼ばれる大森林が存在する。
そこから四方八方にレッサードラゴンが街中に襲いかかりでもすれば……大惨事は免れないだろう。
指示を飛ばすと同時、自分も準備を始める。
ポーションを始めとした回復薬や、念のために解毒薬なども太もものホルダーに装備していく。
――それにしても、おかしいわね……。
準備を進める中、レオナは思う。
森といっても、中央の森には害になる魔物は生息していないのだ。
にも関わらず、レッサードラゴンが出現……それも群れでとなるとあまりに不可解。
彼女の“エルフの勘”も、何か危険な香りを伝えようとしている。
――だからといって、放置するわけにはいかないわ。
放置などすれば街に被害が出る。
この国の戦士長として、それは何としても阻止しなければならない。
現時点で集められる限りの戦力を用意し、レオナたちは討伐に赴く。
その先に大いなる謀略が待ち受けているとも知らずに……




