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地球で虐げられた《最強》闇魔術士は、異世界でエルフ嫁たちに愛される  作者: 銀翼のぞみ
三章

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79話 デロ◯アン

「うぅ、馬車ぁ……」


「……嫌い」


 帝都“クラリアル”に向かう日の朝。

 家を出たアリーシャとリリアが呻くように言う。

 その表情はともに暗い。


「そういえば、お姉さまたちは馬車が苦手でしたの」


 シエラの言うとおり、アリーシャたちは馬車が嫌いだ。

 その理由は奴隷に落とされた際に、馬車で各地を連れまわされた恐怖によるものだ。


 ちなみにシエラだが、彼女も一緒に帝都について来ることになっている。


 舞夜は両親である侯爵夫妻のいるこの都市から離れるのは、いかがなものかと言ったのだが、シエラ自身に舞夜から離れる気はなく侯爵からも、「シエラをよろしく頼むぞ舞夜。次に戻って来る時は孫の顔が見たいものだ。わはははは!!」などと、任されてしまった。


「大丈夫だよ、アーシャ、リリア。馬車では移動しないから」


「……? 馬車で移動しないって……」


「……どういうこと? ご主人様」


「まさか、歩こうと言うんですの?」


 帝都は遠い。

 その距離は馬車で約1週間ほどかかるほどだ。

 そして、この世界において地上を移動するのに馬車よりも早い手段はない。アリーシャたちの疑問も当然だ。


『くすっ……』


 そんな中、ベルゼビュートが小さく笑う。

 彼女は孤島で、ジャックたちが開発に成功した代物を見ていたので、舞夜がこれからアリーシャたちを驚かせようとしていることが分かっているのだ。


「とりあえず、みんなついて来て。都市から少し離れたら、いいもの(・・・・)を見せるから」


 そう言って舞夜は皆を都市の外へと先導する。

 ちなみに、ジュリウスたち勇者一行はしばらく前に帝都へ向けて出立済みだ。





「よし、この辺でいいかな」


 ある程度歩いたところで舞夜が立ち止まる。

 そして——


「《黒次元ノ黒匣(ブラック・ノワール)》」


 おなじみの収納魔法、《黒次元ノ黒匣》を発動。

 アリーシャたちの前に漆黒の霧が立ち込める。


「な、なんですかこれは!?」


「……銀色の……魔物?」


「び、ビックリして、ちょっと漏らしてしまいましたの!」


 霧の中から現れた未知の物体にアリーシャとリリアが驚きの声を、シエラは尿を漏らす。


「落ち着いてみんな、魔物なんかじゃないよ。これは“車”っていう乗り物なんだ」


 舞夜が自慢げに言う。


 そう、舞夜が孤島でジャックたちと協力し作り上げたもののひとつ、それがこの車だ。


 だが、ただの車ではない。

 輝く白銀のボディ、上下開閉式のドア。

 とある映画で地球で一躍有名となった名車……その名も、“デロ◯アン”。


 その映画のファンだった舞夜が、魔力を通してジャックたちにイメージを伝え、細部のディティールにまでこだわった逸品だ。


 こだわったといえば、もう一箇所。

 通常デロ◯アンは2人乗りだが、舞夜たちはベルゼビュートも入れ5人。

 なので、ラゲッジスペースを後部座席に変更してある。


 しかし、心配することなかれ。

 その美しいフォルムを崩さぬよう、車体の大型化を図ることで、大きさ以外は地球のものと遜色ない出来となっている。


「こ、これが乗り物……? さすがご主人様です。ですがどうやって乗りこむのでしょう?」


 漏らしてしまったシエラの下着を履き替えさせながら、アリーシャが舞夜に問う。


 それに対し舞夜はデロ◯アンに手を向け、ごく少量の闇魔力を放出。

 すると——


 プシュー……!


 そんな音とともに、デロリアンの左右の扉が上へ向けオープンする。


「さぁ、乗ってみて」


「私は魔導士様の隣がいいわ」


「あ、ずるいですよ、ベルゼビュートちゃん」


「……ん。私もご主人様の隣がいい」


「シエラもですの!」


 運転席に乗り込む舞夜を見て、その隣を取り合うエルフ嫁3人に暴食の魔王。そのなんともシュールな光景に、舞夜は苦笑しつつも「旅は長いから順番ね」と言って、各々の乗車を促すのだった。





「すごいですの! 迷宮都市が、もうあんな遠くに見えますの!」


 年下順にしましょう。というアリーシャの意見で、助手席の権利を一番に勝ち取ったシエラが、爽快といった様子で声をあげる。


「すごいスピードです」


「……ん。でも、揺れがほとんどない」


「馬車の比じゃないわね」


 後部座席ではアリーシャとリリア。

 そしてアリーシャの膝の上にちょこんと抱かれたベルゼビュートが目を大きくしながら、感動を露わにする。


 彼女たちの言うとおり、デロ◯アンのスピードはかなりのもの。

 地球と違い、障害物や渋滞がないので、速度は出し放題だ。


 そして、サスペンションによる上下運動に加え、実は車体の各所に孤島で取れたヴィブラウムがふんだんに使っているので、地球のものより振動が少ない。


 まさに快適と言えよう。


「どう? アリーシャ、リリア。これなら怖くないだろ?」


「あ……ご主人様、まさか、わたしたちの為に……」


「……大好き」


 そう言って、涙ぐむアリーシャとリリア。


 もともと移動手段として車が欲しかった舞夜ではあったが、開発に踏み込んだのは、いつかどこかへ行く機会があった際に、馬車恐怖症のアリーシャたちのことを思ったのがきっかけだった。


 その為に、時間の合間を縫ってここまでの物を作り上げてくれた舞夜に、アリーシャとリリアは感動の念を抱かずにはいられないというものだ。


 ——くすっ、やっぱり魔導士様は優しいわね。ますます好きになっちゃった……。


 2人の反応を見て、うまくいって良かったと、ホッとしている舞夜の心の中を覗いたベルゼビュートは、微笑みとともに彼への恋心を募らせていくのだった。


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