7話 武具店ヴァルカンズ
武具店“ヴァルカンズ”——
「んにゃ、スゴイんにゃが……」
「ええ、スゴイんですが……」
舞夜と、この店の女主人“ヴァルカン”が、そう言って黙り込む。
その目の前では、アリーシャが右手に長剣。
左手に短剣を持ち、ビュンビュンと風切り音を鳴らし、縦横無尽の剣舞を披露している。
アリーシャの得物は剣。
それも二刀流の使い手だったのだ。
だが、舞夜とヴァルカンの視線は、剣舞などではなく、ある一点に固定されていた。
それは、圧倒的な質量で暴れまわるアリーシャの胸だ。
明らかに剣を振るうのに適さない、メロンの様なそれは、どういうわけか剣を振るうのに最適な場所へと揺れ動くのだ。
——立体機動◯置、完成していたのか!
そんな馬鹿な考えが、舞夜の頭に浮かぶ。
それと同時に、細腕で鋼鉄の剣を軽々と振り回す姿を見て、恐らくギルドで言っていた、加護という能力がそれを可能にしているんだろうな。と憶測を立てる。
「いかがでしたか、ご主人様?」
剣の試し振りを終えたアリーシャが、呆気に取られている舞夜を見て、上機嫌に声をかける。
それに対し素直にすごかったと、褒められると更に嬉しそうな顔で、ピンっ! とエルフ耳を張り喜びを表すのだった。
「アリーシャちゃんの武器はそれで決まりにゃ〜。舞夜くんはどうするにゃん?」
ヴァルカンが舞夜に尋ねる。
ところで、彼女の口調だが、猫マネをする痛い女性というワケではない。
ヴァルカンが虎人族という、獣人だからだ。
色の濃い金のショートヘアに虎模様の耳、尻の後ろでは同じ模様の尻尾がゆらゆらと揺れている。
肌の色は小麦色、そして服装は素肌にオーバーオールと前掛けのみと、なんとも際どい。
アリーシャほどではないが、なかなかに実っており、谷間に横乳、健康的な脇……と小麦肌が大サービス状態だ。
そんな健康エロスな猫耳店主を見るために、この店に通う冒険者がいるほど彼女の人気は高い。
話は戻り、舞夜の武器の話だが……
「ぼくは魔法使いなので、武器は必要ありません。そもそも武器なんて使った事ありませんし」
「んにゃ!? 何言ってるにゃ。魔法使いだからこそ武器にはこだわらないとダメにゃ! 最低でも“魔制具”の短杖くらいは持つにゃ!」
「ませいぐ?」
聞いたことのない単語に、舞夜は、なにそれおいしいの? 状態だ。
「んにゃ〜! 魔制具を知らんのかにゃ!? ちょっと待ってるにゃ!」
舞夜のキョトン顔を見てそう言うと、ヴァルカンが店の奥へと引っ込む。
そして数分後。
両手に長杖を1本ずつと、ハ◯ーポッターに出てきそうな短杖数本を“胸の谷間に挟んで”帰って来た。
魔制具ではなく魔性具の間違いでなかろうか?
「にゅふふ。どれでもいいから手にとってみるにゃん♪」
そう言って、挑発的な笑みを浮かべ谷間をキュッと、強調する猫耳店主。
それに思わず、谷間の杖に手を伸ばしそうになる舞夜。
だがしかし、隣にはニコニコしながらそれを見守るアリーシャ。
うっかり、谷間に指を挟みたい衝動を抑え、長い方の杖をとるのだった。
「んにゃ〜つまらん。まぁいいにゃ、試しに魔法スキルを放つのをイメージして、杖の先端に魔力を集めてみるにゃ。収束スピードが速くなるのがわかるはずにゃ!」
「わかりました」
ヴァルカンに言われて杖の先端に意識を集中する舞夜。
スキルなどというものは、彼には無縁の存在だが、試しに《黒の魔槍》を放つのに必要な魔力を操作してみる。
——これは!?
するとどうだろう、魔力を杖に通した瞬間、言われた通り収束スピードが上がったではないか。
まるで、杖が自動で魔力を束ねてくれている様な感じを覚える。
それもそのはず。
杖の素材は“ヤドリギ”という名の魔法植物だ。
その特性は、自身の中に入ってきた魔力を束ねて外に放出する。というもの。
これにより、魔力の収束・構築のスピードを上げることができるのだ。
パシッ!
舞夜が感動を覚えていると、杖の先端から乾いた音がする。
まさか……と、恐る恐る見ると、先が四方八方に裂けてしまっていた。
「えっと……、不良品?」
「んにゃああ!? そんなワケないにゃ! 一体どれだけ膨大な魔力を注ぎ込んだにゃ!?」
「え? 結構少なめだったんですが……」
「に゛ゃっ!?」
「ヴァルカンさん。ご主人様は、ビッグファングを一撃で倒すほどの魔法の使い手です。恐らく根本的に使う魔力量が違うのかと……」
舞夜の返答に驚きの声を上げるヴァルカンに、アリーシャがその事実を説明する。
「舞夜ちゃんみたいな子が、ビッグファングを一撃……ウソみたいにゃ。でもそれが本当なら納得にゃ〜。ヤドリギの杖じゃ上級魔法には耐えられないにゃん」
「あの、ちなみにその杖いくらですか?」
「気にしなくていいにゃ。確認しなかった、こっちのミスにゃん」
弁償しようと舞夜は杖の値段を尋ねるが、ヴァルカンはそう言って明るく振る舞う。
だが、やはり痛手だったのだろう。
トラ耳とトラ尻尾がダランと垂れ下がっている。
しかしそこは商売人。
すぐに折れた杖を片付けると、「さぁ、次にゃ」と言って、他の杖を用意する。
そして用意された杖は、同じくヤドリギ製のものだ。
ただし、先ほどのものとは違い、持ち手と両先端が鉄で加工されている。
下になる部分は鋭利な形状をしており、ヴァルカンから「魔力が切れたら刺突武器として使えるにゃ」と、説明を受ける。
試しに魔力を込めると、今度は破損せずに済んだ。
重さは少々あるが、持ち運びに問題はなさそうだ。
「あとは防具ですね。わたしは革鎧で十分ですが、ご主人様は万一を考えて鉄製のものにしましょう。できればフルプレートが——」
「ところでアリーシャ、ぼくの腕を見てくれ、こいつをどう思う?」
「すごく、細いです……」
アリーシャの気づかいは嬉しいが、舞夜は顔が少女の様であれば、四肢も少女の様に細い。
金属の防具を着る筋力もなければ、それを着て歩く体力すらない。
自分の主人の非力さを露呈させてしまったアリーシャは、なんとも気まずそうだ。
結局、舞夜は杖に革製の上下、ガントレット、ブーツ、それと念の為に胸当。
アリーシャは、長剣と短剣、防具は動きやすさを重視して、胸を隠すだけの袖なしの革ジャケット、ホットパンツ、ガントレット、ロングブーツ……以上を買い上げた。
アリーシャの爆乳が収まり切らず、サイズ調整をするという作業が発生したものの全部で金貨4枚に抑える事が出来た。
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