77話 んひぃぃぃ!
『——というわけよ』
舞夜の膝の上で、全てを話し終わったベルゼビュート。
その顔には疲労の色が見える。
魔神の呪縛から逃れようと、数千年前から機会を伺っていた計画が、わけのわからない怪獣やアンデッドたちによって滅茶苦茶にされたともなれば無理はなかろう。
「事情は分かった。お前の話が本当であれば、舞夜へ縋りたくなる気持ちも分からなくもない。だが、都市への侵攻はやり過ぎだ。今回は被害がほぼなく済んだものの、死人が出ていたらどうするつもりだ?」
「それなら大丈夫よ、皇子様。だって私、《リザレクション》が使えるんだもの」
「なに!? 《リザレクション》だと!?」
ベルゼビュートの返答にジュリウス皇子が驚きの声をあげる。
それは周りの者も同様だ。
「アーシャ。みんなは、なんで驚いているの?」
そんな中、《リザレクション》の意味を知らない舞夜がキョトンとした顔でアリーシャに問いかける。
「ご主人様、《リザレクション》とは、神聖属性の古代魔法のひとつです。その効果は“死者の復活”……死んだその日の内であれば、たとえ心臓を剣で貫かれていようと、復活を果たす事ができると言われています」
「それは……すごいな」
そして、さらに言えば神聖属性の魔法は邪悪な者には使えないとされている。であればベルゼビュートは——
「信用に足るというわけか……む、ちょうどいい。そら——ッ!!」
言いながらジュリウス皇子が茂みに向かってグレートソードを放り投げる。すると……ザシュッ! という音が聞こえてくる。どうやら、何か動物を仕留めた様だ。
「野兎……。なるほど、そういうことね」
茂みに行き、仕留めた野兎の死体を持って帰って来たジュリウス皇子を見て、ベルゼビュートが納得する。
そう、本当に彼女が《リザレクション》を使えるのか試そうというわけだ。
そして、使えるのであれば、少なくとも彼女が邪悪な存在ではないこと、そして自分たちの側に置いても問題ないという事が分かる。
『じゃあ始めるわ。《リザレクション》!!』
ベルゼビュートが野兎の死体に手を向け、魔法を発動。
直後、野兎を中心に魔方陣の様なものが展開し、その姿を光が包み込む。そして——
「きゅ〜!!」
死体だったはずの野兎が、元気な声とともにパッチリと大きな目を開け、そのままぴょんぴょんと走り去って行った。
『どうかしら、皇子様?』
「間違いない。本物だ……」
ベルゼビュートは敵ではない。
今、それが証明された。
『ところで、魔導士様。これで私が敵じゃないと分かったのだから、あなたの魔力を私にちょうだい?』
「ああ、それなんだけど……ぼく、体が女に変わっちゃってから、魔法が使えないんだ」
『あら、そうなの? なら、任せてちょうだい』
そう言ってベルゼビュートが舞夜の胸に再び飛び乗り——
むちゅ〜〜ッ!!
またもやキスをしてしまう。
先ほどのものとは違い、今度は舌を絡めたりする方のキスだ。
舞夜は「んむ〜ッ!?」と声をあげ、抵抗しようとするが、ベルゼビュートは彼(彼女)の胸を揉みしだき、脱力させる。
そして、そのままやりたい放題とばかりにグチュグチュと音を響かせ自分の唾液を送り込んでいく。
「ディープです!」
「……ん。ディープ」
「ディープですの!」
——助けろ、お前ら!! ってあれ?
助けるどころか、大盛り上がりするアリーシャたちを尻目に、心のなかで叫ぶ舞夜だったが、その途中で気づく。
視界が少し高くなったことに、そして——
「ある! ぼくのモノが、あるぞ!!」
脚の間の存在が元に戻っている。
すなわち、体が男に戻っていたのだ。
なぜ、そんな事が起きたのか。
それはベルゼビュートの唾液に秘密がある。
彼女の体液は解呪の効果があり、他者の状態異常を解く事が出来るのだ。
「「「よっしゃあああ!!」」」
舞夜の姿が戻ったのを見てアリーシャたちが声をあげる。
彼の少女姿も愛らしく感じてはいたが、やはり互いの子を成せるかそうでないかは重要だ。
『さぁ、魔導士様。なんでもいいわ、あなたの魔法を私にちょうだい!』
そう言って、腰を左右にふりふりしながら、おねだりするベルゼビュート。
彼女の幼くも妖艶な雰囲気も相まり、どことなく、いやらしく見えてしまう。
だが、男に戻れた舞夜は上機嫌。
そんな瑣末なことなど、どうでもいいとばかりに、ベルゼビュートにしこたま闇魔力を注いでいく。
「んひいぃぃぃ!? しゅごいのぉぉぉ〜!! 解けちゃう! 暴食の呪いが解けちゃうのぉぉぉぉぉぉ!!」
ベルゼビュートの歓声が夜の迷宮都市に響き渡る。




