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地球で虐げられた《最強》闇魔術士は、異世界でエルフ嫁たちに愛される  作者: 銀翼のぞみ
三章

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76話 砕け散った計画

 魔王には様々な存在のしかたがある。


 魔族が進化し、魔王となった者。

 召喚者を依代に使い、仮初めの復活を果たした者。


 だが、その中でも、暴食の魔王・ベルゼビュートは特殊な存在だった。


 それは、彼女が元は人間だった事だ。

 人間の身で魔王になった者など、ベルゼビュートをおいて他にはいない。


 では何故、ベルゼビュートは魔王になったのか?

 それには、魔神イルミナスの存在が大きく関係している。


 魔神の糧、それは自身の眷属である魔物や魔族が殺した人間の命、それを魔王にエネルギーとして変換させ自分に捧げさせたものだ。魔王に奪われた命は輪廻転生を外れ、魔神の養分となるわけである。


 遡ること、数千年前——。

 魔神イルミナスは危機に立たされていた。


 自分の養分を作り出す魔王……当時は6人しかおらず、六大魔王と呼ばれていた者達の、その誰もが勇者、あるいはそれに準ずる者に封印されてしまった事があった。


 魔神は焦った。

 このまま人の命を取り込めなくなれば自分は消滅してしまうと……。


 そこで、緊急処置として考えたのが“人間の魔王化”だ。

 残った力で人間に魔王相当の力を与え、その役割を果たさせようと画策したのだ。


 なぜ魔物ではなく人間なのか?

 それは神工的に魔王を作る場合に必要なのが、純粋無垢な心の持ち主でなければならなかったからだ。


 魔族、そして魔王の主食は人間。

 そしてそのほとんどが、本能的に人間を嬲る事に快楽を感じる様に出来ている。

 純粋無垢とは程遠い存在だ。


 魔神イルミナスが目をつけたのは、当時、この幻想世界において最も純真な心を持っていた少女、ベルゼビュートだった。


 魔神はすぐさま、魔王化の儀式を行い、それは成功した。

 ベルゼビュートの体は魔王と同等のものとなったのだ。


 だが、そのままでは純粋無垢な心を持ったただの強い女の子だ。

 それでは、人間を殺し、魔神の養分を作ることはしない。


 そこで魔神はベルゼビュートにある2つの呪いをかけた。


 1つは“暴食の呪い”。


 これにより、ベルゼビュートは人間を殺し、その際に生まれる、恐怖、憎しみ、怒りなどの感情を喰らわないと生きていけない体になってしまった。


 もう1つは、“生命維持の呪い”。


 自分の体の変化に気づいたベルゼビュート。

 心優しき彼女は当然の事ながら自害を選んだ。

 だが、生命維持の呪いはあらゆる生命維持活動の停止を禁じる呪い。これによりベルゼビュートの自害は強制停止させられるようになってしまった。


 かくして“神工魔王”、暴食のベルゼビュートは誕生したのだ。


 暴食の呪いによる渇き。

 生命維持の呪いによる、行動の強制。


 ベルゼビュートは史上最悪の魔王(殺戮者)と化した。


 来る日も来る日も、負を暴食し、気づけば抗おうとする感情も失せた……そんなある日……


『お前を救ってやる——』


 そう言って、1人の男が現れた。


 漆黒の髪に、怒り、そして悲しみに揺れる紅い瞳を持った者。

 初代勇者にして魔導士の力を持つ青年だった。


 救い……その言葉に縋りつきたくなるベルゼビュートだったが、呪いがそうはさせない。

 ベルゼビュートは初代勇者に襲いかかった。


 対し彼はある魔法(・・・・)を放った。


『うそ……っ』


 ベルゼビュートは驚愕した。

 その魔法を浴びた瞬間、彼女を苛ませていた暴食の感情が緩和したからだ。


 そう、初代勇者の魔法には呪いに対抗する力があったのだ。


 ベルゼビュートが落ち着くのを見計らって彼は旅立った。


 全ての元凶……魔神イルミナスを倒す為に——。


 そして、全てが終わった後、ベルゼビュートの元に戻ってくる事を約束した。


 だが、彼が帰る事は無かった。

 魔神イルミナスを一時的に封印し、その力の全てを使い果たし、息絶えたのだ。


 ベルゼビュートは再び絶望に暮れた。

 だが、もしも……もしも同じ力を持つ者が現れたならその時は……


 僅かな希望を胸に秘め、来るべき時に備えるのだった。


 そして時は流れ現在——。


 とうとう、魔導士が現れた事が配下の魔族によって知らされた。

 その者は紅い瞳を持ち、不完全な復活であるとはいえ、強慾の魔王マモンを討取ったという。


『間違いないわ……』


 そう確信し、ベルゼビュートはかねてからの計画を発動した。


 それは、魔導士のいる土地に自分よりも弱い、他の魔王軍を侵攻させる事、今回の場合、それは怠惰の魔王・ベルフェゴールだった。


 そして、その狙いは魔導士が危機に陥った時に助けに入り、信用を得ることだった。


 さすれば、会話の余地も生まれ、事情を聞いてもらう機会も生まれる、。

 うまくいけば魔導士の魔法を……そういった計画だ。


 だが、蓋を開けてみれば——


『ふほほほほほっ!! 血祭りですぞぉぉぉぉぉぉっっ!!』


 ズガガガガガガガッッ——!!


『『『アアァァ…………ッ!!』』』


 ズガガガガガガガガガガガガッッッッ————!!!!


 自分が助けに入るどころか、見た事もない武器——ガトリングガンをぶっ放し、蹂躙を始めるジャックを始めとした5体のアンデッド達が……。


『(なんて事してくれてんのよッ!!)』


 自分の数千年越しの計画を滅茶苦茶にしてくれた謎のアンデッド達に憤慨するベルゼビュート。


 だが、これだけでは終わらなかった。


 ドシンッ——!!

 ドシンッッ————!!


 重く響く音。

 そのたびに揺れる大地。


『(今度は何なのよ……って、アレは……ッ!?)』


 ふと、ベルフェゴールがいる方角に目をやれば、見た事もない生き物。

 下手な城よりも巨大、蒼黒の皮膚に鋭い牙の覗く顎、さらに長大な尻尾を揺らす二足歩行の大怪獣、インペリアルが立っていたのだ。


 そして……


『(背中……背びれが青く光り出して……?)』


 轟ッッ————!!


 その口から熱線、《アトミック・ブレス》が吐き出され、ベルフェゴール、並びに配下を大地ごと焼き尽くしたのだ。


 終わった……。


 そうベルゼビュートは確信した。

 そして、次に頭に浮かんだのは……


『もうどうにでもなぁれ……』


 あまりの光景に開き直ったベルゼビュートは、残りの魔王の情報を手土産にし、舞夜たちにありのままの姿を晒す事を決意するのだった。


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