72話 ゆりゆり生活
しゅるっ……ぱちんっ——。
「ん……っ」
「ふふっ、ご主人様ったら、まだ慣れないのですね?」
音とともに小さな声をあげる舞夜に、アリーシャがいたずらっぽく笑いながら言う。
今、彼はアリーシャに着替えさせられている。
ニーソを膝上まであげられ、ぱちんと離されたのだ。
なんとも言えない快感……もとい感覚は、少女になった日からしばらく経った今でも慣れることはなかった。
「さぁ、ご主人様。今日はこちらを」
アリーシャが服を差し出してくる。
白と淡いブルーを基調としたフリルのついたワンピースだ。
時刻は朝。
そして今日はこれから、4人でピクニックに出かける予定だ。
ワンピースは、せっかくのお出かけですから、オシャレをしましょう。とアリーシャが用意したものである。
女になってしまった当初は、女物を着るのに抵抗を示した舞夜だったが、アリーシャにリリア、そしてシエラはどうあっても彼 (彼女)に可愛い服を着せようと企み、抵抗するたびに女の子の快感をその体に叩き込み、見事、着せ替え人形にすることに成功した。
その時のことを思い出す度に舞夜の瞳のハイライトが消えるのだが、それはさておく。
それに慣れれば、女の子のファッションというのも中々楽しいものだと舞夜は思い始めていた。
人間諦めが肝心である。
「は〜い、ご主人様。ばんざ〜いです」
舞夜を着せ替えさせる為、言葉とともに自分もバンザイのポーズをとるアリーシャ。その拍子に彼女のメロンが、ぶるんっ!! とふるえる。
万歳!!
「はぁん……っ。本当に愛らしいです。ご主人様ぁ……」
ワンピースに着替え終わった舞夜を見て、アリーシャが頬を染め感想を漏らす。
その瞳の中には小さなピンクのハートが浮かんでいる。
どうやらエロフモードに突入したらしい。
こうなったら最後。
マウントからの強制メロンダイブで舞夜を拘束。
そのまま、“ゆりゆりタイム”が始まってしまうのだ。
「……むぅ。なかなか降りてこないと思ったら」
「抜け駆けは禁止ですの!」
アリーシャが舞夜のスカートの中に潜り込もうとしたところへ、朝食当番をしていたリリアとシエラが割り込んでくる。
「み、みんな……! 今日はピクニックに行くんだから、やめておこうよ……」
さすがに少女の体で、3人相手では体力が持たない。
恐怖に震えながら舞夜が提案するも——
「ダメに決まってます!」
「……ん。ピクニックの前のピクニック」
——何!? ピクニックの前のピクニックって!?
「今日はシエラが、女の子の気持ちよさを教え込んであげますの!」
彼の提案をきっぱり拒否するアリーシャとリリア。
シエラに至っては平手で素振りを始めてしまう。
それ(尻叩き)で気持ちよくなるのは彼女だけだというのに……
「ふふっ。では、あらためて……じゅるりっ」
「……くすっ」
「いきますの!」
「ちょっ、やめ……っ!?」
結局、小一時間おもちゃにされてしまうのだった。
◆
「……見て、ご主人様」
「木苺ですの!」
朝の出来事から少し——。
舞夜たちは森の中へと足を運んでいた。
リリアとシエラがピクニックのために持ってきた木網のカゴの中に、たくさんの森の果実を摘んで、駆け寄ってくる。
「ふんっ」
だが、舞夜はいじけた顔でそっぽを向いてしまう。
朝された事を考えれば、その反応は当然かもしれない。
「もうっ、そろそろ機嫌を直して欲しいですの!」
「……流石にやりすぎた?」
「だいじょうぶですよ。シエラちゃん、リリア。だって、ご主人様ったら、こんな態度をとっておきながら、さっきからわたしに抱きつきっぱなしですもの」
アリーシャの言うとおり、舞夜はこの森に着いてからというもの、彼女の膝の上に抱かれ、その豊満なバストに顔を預けた状態でいる。
体が少女になってからというもの、舞夜の心は体に引っ張られ、さらに甘えたがりとなってしまっていたのだ。
「……ご主人様、かわいっ」
「くすっ。はい、あ〜んですの」
そんな舞夜の様子を見て、リリアとシエラが微笑みながら、摘んできた木苺を彼の口へ運ぶ。
噛んだ瞬間、酸味とともになんとも言えない甘みが広がり、舞夜の顔が綻んでいく。
「あぁ……本当に可愛い……。ご主人様、今度はわたしです。あ〜ん」
今度はアリーシャ。
別の色をした木苺を運ぶ。
やはりこちらも美味しい。
「……シエラとアリーシャねえさまだけズルい。ご主人様、私とは口移しで食べて」
そう言って、少しむくれたリリアが口の先に木苺を加え、舞夜に迫る。
そのまま、果実と舌を絡めお互いに味わい合う。
可憐な少女同士がそのようなことを……なんとも背徳的な光景だ。
そういった趣味を持つ者が見たら、垂涎必至であろう。
しかし、そんな幸福な時間は長くは続かなかった。
ドゴォォォォン——ッッ!!
突如、都市の方から、そんな轟音が鳴り響く。
◆
「ま、舞夜ちゃん! 大変なのよ!!」
何事かと都市に戻って来た舞夜たちに、血相を変えたアーナルドが走ってくる。
「どうしたんですか、アナさん! それにさっきの轟音は……」
「魔族が……魔族の大軍が、この都市に侵攻しようとしてるの! さっきのの音は遠距離から魔族が外壁に放った魔法の音よ!!」
「なんですって!?」
話を聞けば魔族が現れたのは、この都市の北の方角らしい。
対し、舞夜たちが現在いるのは南門……まったく真逆の位置だ。
そして先ほど、騎士団や有志の冒険者たちが迎撃に向かったと言う。
急いで駆けつければ被害を減らせるかもしれない……。
そう考えたところで舞夜は思い出す。
——あ、今ぼくは魔法が使えないんだ。
と……。
退避するしかない。
そう判断するのだが、アーナルドが何か言いたそうにしてることに気づく。
「どうしました、アナさん?」
「舞夜ちゃん……。実は、魔族たちが要求して来てるの。その……魔王マモンを倒した魔法使いを差し出せと……。そうすれば、この都市は見逃すそうだわ……」
——ッ!?
敵の目的。
それが自分だという事実を知り、舞夜は目を見開く。
アーナルドの顔には悲痛そうな表情が浮かんでいる。
無力な舞夜に死地に行けと伝えたも同然、その胸の苦しさは察して然るべきだ。
「ダメです! ご主人様は絶対に行かせません!」
「……ん。断固反対……!」
「シエラも同じ考えですの!」
がっしりと舞夜の体を掴むアリーシャたち。
しかし、自分が行かなければこの都市が……絶望の淵に立たされる舞夜。
しかし、そこへ——
——ふほほほほ! でしたら、ここはワタシたちに任せて欲しいのですぞ!!
彼の頭の中へ、そんな声が響き渡るのだった。




