6話 報酬
「これが冒険者の証……」
舞夜が首に下げた、石製のタグをいじりながら言う。
アリーシャの首にも同様のものが下げられている。
「そうよん。身分証になるからなくしちゃダメよ〜ん?」
それを見て、アーナルドが可愛らしくも野太い声で注意を促し、濃いアイシャドウで際立たせた瞳をでバチン! とウィンクを飛ばす。
——おえっ!!
吐き気を催す舞夜とアリーシャだが、そんな姿を見られては何をされるか分かったものじゃない。
喉元まで込み上げてきたものをなんとか抑え込むのだった。
それはさておき。
アーナルドが身分証にもなると言ったタグのことだが……。
これもお約束。
冒険者には等級があり、次の様な格付けがされる。
“無等級”=今、舞夜達のいる駆け出し扱いの等級。
“銅等級”=一人前扱いであり、ほとんどの冒険者がここで冒険者生涯を終える。
“銀等級”=大成者。ギルドで定められた危険な魔物の討伐など、いくつかの成功を収める事で成れる。
“金等級”=銀等級のチームが複数で挑んで倒せる魔物の討伐、もしくは魔物の氾濫や魔族の大群に対し、戦力を率いて都市の防衛に成功するなど、英雄と認められた者の等級。
その評価は高く、5爵位の男爵と同等の扱いを受け、重婚などが認められるようになる。
“白金等級”=勇者・賢者などの、魔王に対抗し得る戦闘力を個人で有する、人類の切り札。
“金剛等級”=神の領域に踏み込んだ絶対強者。
かつて“魔導士”と呼ばれた初代勇者がのみが、この等級だったとされる。
以上の6等級だ。
「さぁて、次は素材の買取って言ってたけど、物はどこにあるのかしらん?」
登録を終えれば、残るは素材の買取のみ。
しかし、買取の依頼を口にしながら、手ぶらにしか見えない舞夜の姿に、アーナルドは疑問の声を上げる。
「魔法で持ってきました。ここに出してもいいですか?」
「んん〜? 魔法でってぇ、どういうことん?」
不思議な事を言う舞夜に、再び疑問の声。
「こういう事です。それ、《黒次元の黒匣》」
舞夜が魔法名を呟く。
すると足元が黒い霧に包まれた。
そして、黒霧が霧散し、そこには——
「なんじゃこりゃぁあ!?」
アーナルドの野太い声が響く。
明らかにキャラを忘れたその口調に(おい、オカマ、口調)と舞夜が冷たい目を向けるが、それはあんまりというものだ。
彼女(?)が驚くのは当然。
なぜなら、そこにはビッグファングの死体が3体が積み上がっていたのだから。
魔法による物質の空間収納。
それが闇魔法、《黒次元の黒匣》の能力だ。
いったいどういう仕組みなのか?
まず、魔法というのは魔力を収束・構築する事で発動する。
そして、その魔力を構成するのは“魔素”だ。
魔素は魔力だけでなく、生物や物質、そしてあらゆる元素を構成するものとして、地球の魔法使い達に認識されている。
《黒次元の黒匣》は、対象を魔素レベルまで分解し、闇魔法の“奪う”という特性を利用して一時的に空間にその存在を奪い去る事ができるのだ。
今やった様に、取り出す(再構成する)事も可能だ。
「すごい魔法なのね〜。……いや、おかしいだろ。何言ってんだおい」
魔素云々は、スキルに頼るこの世界の住人に説明しても無駄だと判断し、収納魔法だと伝えると、アーナルドがまたもや口調を忘れてしまう。
ちなみにアリーシャには、村でビッグファングを収納する際に、この魔法を披露済みなので今は舞夜の隣で得意げな顔を浮かべている。
「それで、いくらぐらいになりそうですか?」
「そうねん。ビッグファングが丸々3体、状態も良いし、これなら1体につき金貨2枚。全部で……いや待って。そういえばビッグファングの素材納品の依頼があった気がするわん」
舞夜の問いに死体の状態を検めていたアーナルドが、依頼内容を思い出し、確かめるために席を外す。
そして、それは当たりだった。
上乗せとして金貨3枚が追加、計金貨9枚となった。
——あれ? 冒険者って結構ボロい商売なんじゃ……。
思った以上の報酬の良さに、舞夜はそう思わずにはいられない。
同じくアリーシャも口には出さないが、目を丸くしている。
そして、舞夜は考える。
この調子で稼げば、アリーシャを奴隷から解放できる日は近いのではないか?
喜ばしい事なのだが、彼女と別れる事になったら、自分は何の為に生きていけば良いのだろう? と——。
リーサルバイトの懸賞金は明日になれば用意できているから、再度訪ねて欲しいと伝えられ、クエストもアリーシャの武器が無いので、今日は装備の用意や宿の確保をして休むこととなった。
「別に1人でも大丈夫」と舞夜は単身で迷宮に行き、魔物狩りをしてくると伝えたのだが、アリーシャは猛反対。
彼の顔を「えいっ」と乳で窒息させ、物理的に行動不能に陥らせると、そのまま近くの武具店へと連れて行ってしまうのだった。
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