64話 暴食のベルゼビュート
ウオォォォォォォ——!!
迷宮を出た舞夜たちを、大きな歓声が包み込む。
「英雄たちの帰還だ!」
「感謝しますぞ、勇者様!」
どうやら、舞夜たちが魔王の討伐に向かったという情報が漏れていたらしい。とんでもない数の人々が彼らの帰還を今か今かと待ち構えていた。
「きゃ〜!! 舞夜領爵様よ!」
「今日もなんて愛らしいのかしら……」
ジュリウス皇子への声援はもちろん凄まじいが、舞夜の人気も負けていない。
領爵、それに金等級冒険者という地位によるものもあるが、彼の愛らしい見た目は一部の少女やお姉様に大人気なのだ。
都市を救ってくれた英雄たちを称えようととする人の波。それをかき分け、報告のためギルドへ向かう。
すると——
「お帰りなさ〜いん!!」
「おえぇぇぇぇぇッ!?」
ジュリウス皇子がゲロるシュタイナーしてしまう。
アーナルドのボンデージ姿に対する耐性はまだついていなかったようだ。
目の前で吐かれたことに、不快な思いをしたアーナルドが「失礼しちゃうわん」と言いつつ、ジュリウス皇子にケツを向け、ボンデージをグイッと食い込ませることでトドメを刺す。
ジュリウス皇子は気絶。
そのまま自分のシュタイナーへと顔面ダイブしてしまうのだった。
これから、クエスト達成の報告があるというのに……。
仕方ないので舞夜は勇者見習たちと報告を済ませ、迷宮で回収した素材の買取だけを依頼し、達成報酬は後日の受け渡しとなった。
その後は恒例のドンチャン騒ぎ。
一晩中わいわいと飲み明かすのだった。
◆
“魔界”——。
それは別の世界というわけではない。
魔王が支配し、魔族が繁栄する領土がその名で呼ばれている。
その魔界の辺境。
枯れ果てた大地に孤城、【暴食宮】は存在する。
城門を潜れば強力なスキルを持つトロールや、ドラゴンなどが待ち受ける階層が果てしなく続き、そこを抜けて初めて玉座の間に辿り着くことができる。
『魔王“ベルゼビュート”様……。強慾のマモン様が討ち取られました』
執事服を着た赤い肌の男——彼女の側近たる魔族が跪き、玉座へ向け報告をあげる。
『そう……それは大変ね。でも強慾は魔神イルミナス様が、依代蘇生で復活させた意思なき魔王……。当然じゃないかしら?』
舌ったらずな、しかしどこか妖艶な口調で感想を漏らす彼女。
肌の色は病的なまでの白、髪は灰色の緩いウェーブのかかった長髪、瞳の色は怪しい輝きを放つ金色。そして、未発達な幼い体を黒と紫のゴシックロリータで身を包み込んだビスクドールの様な美少女だ。
その正体は、“暴食の魔王・ベルゼビュート”——
七大魔王が1人だ。
彼女の言うとおり、舞夜たちが倒した魔王マモンは、とある理由により、魔神イルミナスが本来の姿と意思を持たせずに復活させた仮初めの魔王だった。
ゆえに、敗北する可能性は十分にあり得たのだ。
だが、側近の表情には焦りが感じられる。
その理由は——
『問題なのはそこではないのです。ベルゼビュート様! 報告によればマモン様が敗北した相手は勇者ではないようなのです……!』
『なんですって? 勇者以外に倒された……まさか……!』
『はい。それを成し遂げた者は魔導士に覚醒した者という報告が……! それが本当ならばッ!!』
『魔導士——。そう、そうなのね。……計画を起こすわ! 至急、予定の魔王に伝令を!!』
『はっ!』
ベルゼビュートの命令を受け、側近の魔族が足早に去っていく。
『うふふ……。これで私の“願い”が……! ふふっ、あはははははは——ッ!!』
暴食宮にベルゼビュートの号哭の如き歓声が響き渡る。
【読者の皆様へ】
下にスクロールすると、作品に評価をつける【☆☆☆☆☆】という項目があります。
お楽しみいただけましたら、どうか応援していただけると嬉しいです!




