60話 第二形態
『“第二形態”……。この体の記憶を使って初めてなったけド、なかなかいいじゃないのヨォ』
変貌したマモンが満足げに呟く。
その姿は、大きさは変わらないが二足歩行になり、前足は腕と拳を形成している。人間……否、蜥蜴人に近いと言った方がいいだろう。
最悪なことに傷も治ってしまっているようだ。
「ちッ、厄介な……。“ドラゴニュート”形態だと?」
「舞夜ちゃん、気をつけてくれ。ドラゴニュートは、ドラゴンの破壊力や火力はそのままにも関わらず、人間のような動作をすると聞く。先ほどまでとは別の敵だと思った方がいい」
ジュリウスとサクラが苦虫を噛み潰したような顔で言う。
姿を見れば思いつく予想どおりの情報だ。
そして、たしかに厄介だ。
——魔導士の力を発動するか? でも……。
どんな動きにも対処できるように、発動すべきか舞夜は逡巡。だが、発動はまだしないことを選択した。
理由は、この後も変身を残していたら……というものだ。
「先手必勝だ! 《聖剣・砲》!!」
ジュリウス皇子がグレートソードを振りかぶる。
刀身から聖なる光の砲弾が、ゴウッ! と空を裂き飛び出した。
『アハハハッ! 無駄ァ!!』
対し、マモンはドラゴンブレスを短く吐くことで、火球状態で射出。迫り来る光弾を相殺してしまう。
「ほうらァ、もう1発ゥゥッ!!」
ボウッ——!
続けざまに火球を放ってくる。
「まかせろ!」
サクラが飛び出す。
ギガントシールドをジュリウス皇子の前で展開。
ドゴォォン! と派手な音を響かせ火球を受け止めた。
激しい爆発が起こったが、2人に大きな怪我は見受けられない。ギガントシールドも表面は焦げているが機能に問題はなさそうだ。
だが——
『かかったワネェ!?』
爆煙に姿を眩ませたマモンが、目にも止まらぬスピードで2人の真横へ現れる。そしてその巨腕が振り上げられる。
「かかったのはお前だ!」
舞夜が動く。
アカツキたちとの死闘、そして日頃行っている都市のゴロツキ掃除など数々の経験を経て、舞夜の近接戦闘能力は格段にアップしていた。
ゆえに、マモンの動きを予測し、捉える事は容易だった。
2人の前に飛び出す舞夜。
そして彼の盾とマモンの拳が激突。
その瞬間、盾に込められた魔法が発動する。
「《黒キ祓ウ者》——ッ!!」
『グルァァァァァァァァッ!?』
マモンが絶叫し、腕を抑えながら後ずさる。
見れば拳がなくなり、その先からボタボタと血が垂れているではないか。
闇魔法、《黒キ祓ウ者》——。
闇魔法の中に存在する唯一のカウンター魔法だ。
その能力は襲いくる破壊力、衝撃など、あらゆるエネルギーを奪い、発生もとにはね返すというものである。
本来は、発動に膨大な時間がかかり、その上、相手の攻撃が当たるのと同時に発動しなければならないという、鬼畜仕様な魔法だ。
だが、舞夜は魔導士の力であらかじめ盾に魔法付与しておくことで、安全性と速効性を搭載、実用性のあるものへと開花させたのだ。
「舞夜、お前……勇者でもないのに、なんて近接戦闘力だ。魔法使いというのが嘘みたいだな……」
魔王に近接戦で勝る魔法使い——。
そんな冗談みたいな舞夜の力に、ジュリウス皇子が目を見開き、言葉を漏らす。
『やってくれるワネェ!? こうなったラ……!』
マモンが顎門を開く。
再びその口内に熱が収束していく。
どうやら、自分へのダメージを恐れず、特攻するつもりらしい。
まずい。
このタイミングでは、《黒キ祓ウ者》も水膜魔剣も展開が間に合わない。
ならばこれだ。
舞夜は腰に装備していた、石をマモンの顎門へ「ほら喰らえ!」と放り投げる。
『無駄ヨォ! そんな小石溶かして——アギャアアアアアッ!!??』
「おお! ブレスの収束が止まったぞ!」
「今度は何をしたのだ、舞夜ちゃん!」
「新しい武器を使いました!」
舞夜がマモンの口内に放った石。
それはリリアがトロールを圧倒する際に使った、《黒雷弾石》だ。
ジタバタともがき苦しむマモン。
その反応を見るに、舞夜の憶測どおり、魔力の無力化能力は体内には備わっていないようだ。
——どうだ? トロールを怯ませるほどの電撃を体内に直接喰らった気分は?
『グゥゥゥゥ……ッ! 許せナイ……! 獲物は私ジャナクテ、僕ちゃんなのニィ! 絶対手に入れてみせるカラァァァァッ!』
舞夜を睨みつけ、咆哮するマモン。
その口ぶり、やはり舞夜を知っているようだ。
それにとんでもない執着心がうかがえる。
これに舞夜は「やっぱりこいつどこかで……」と既視感を覚える。
『遊びは終わりヨォ。本気ノ……。そして本当の姿を見せてアゲル! ……ハァァァァァァァ——ッ!!』
戸惑う舞夜。
その目の前でマモンが光に包まれる。
どうやら、本当に変身を残していたようだ。
そして変貌したマモンの姿に、舞夜は驚愕することとなる。
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