５８話 圧倒
『あはははははッ————！！』
高笑いするレヴィ。
新たに生えた巨腕で４本の剣を縦横無尽に振るい、アリーシャへと襲いかかる。
「くッ！？」
目にも止まらぬ速さで繰り出される斬撃をすんでのところ躱し、アリーシャの口から呻き声が漏れる。
通り過ぎた剣身が、ガスッ！ と音を立て、地面を深く抉る。
とんでもない速さ、そして破壊力だ。
強慾の魔王・マモンによって強化されたレヴィの戦闘力は、過去、アルフス王国にてアリーシャたちが対峙した時よりも格段に上がっていた。
だが、それで諦める彼女たちではない。
「……《雷蟲》……！」
『無駄でございます！ 《シール・シールド》ォッ！』
レヴィの動きを封じようとリリアが使い魔、《雷蟲》を飛ばすも、その行く手に極彩色の魔法壁が現れ、その動きを止めてしまう。
「……厄介」
防御魔法 《シール・シールド》。
小型の魔物や、それに準じる個体を捉え、麻痺させる中級魔法スキルだ。
リリアの使役する《雷蟲》にとって、まさに厄介な代物である。
「リリアお姉さま、《門城鳥》さんを呼んでくださいですの！」
「……シエラ、あれをやるつもり？ わかった。来い《門城鳥》……！」
シエラの要請に応え、リリアが《門城鳥》を召喚。
鈍色の合成獣が『クエェ——ッ！』と鳴き声を上げ、羽ばたく。
「《門城鳥》さん、お願いしますの！」
「クエッ！」
シエラの呼びかけに《門城鳥》が低空飛行で彼女に近寄る。
その背中にシエラが、ぴょんっ！ と飛び乗り、そのまま上昇。
レヴィを中心に時計周りに旋回を始める。
「いきますの！」
「くッ！ そういうことか！ 小賢しいでございます！」
シエラの意図に気づいたレヴィが、憎々しげに呻き、腕を交差する。
その次の瞬間。
シエラが放った矢が、次々とレヴィへ降り注ぐ。
本来であれば、飛行動物に乗っての狙撃など、揺れによって照準が定まらず、まず不可能だ。
だが、リリアが《召聖ノ加護》で《門城鳥》の動きを完璧にコントロールし、シエラが《弓聖ノ加護》によって得る命中精度の向上を限界まで発揮することで、それは可能になった。
言うならば《加護》と《加護》の融合。
アカツキ達との戦いで、結局最後は舞夜に全てを任せるしかなかった、自分たちの無力さ……その悔しさをバネにし、幾度にも渡る訓練で２人が生み出した努力の結晶だ。
『無駄でございます！ 魔王マモン様が与えて下さった、この腕には傷ひとつ——ぐぁぁぁぁ！？ なんだこの感覚……！ 命が削られていくこの感覚はぁぁぁぁ！？』
突如、苦しみだしたレヴィ。
たしかに防御した腕には傷ひとつない。
だが、関係ないのだ。
ここ一番の時のためにとっておいた武器。
シエラが舞夜に与えられた、闇魔力の付与された矢の前には、どんな防御力を持っていようとも、生命力を吸収されてしまうのだから。
「ふふっ……。ご主人様が勝機もなしに、私たちを残すとお思いですか？」
愛する主人が、そんなことするわけがない。
絶対なる自信を持ち、小さく笑いながらアリーシャがレヴィへと接近する。
そのタイミングはシエラの攻撃が途切れた僅か一瞬。
まさに完璧な連携だ。
「いい気になるな！ 《フレイム・バースト》ォォォッ！！」
「ッ——！ 上級魔法まで操れるように！？ なら……！ 《ブースト》！！」
とんでもない勢いで突っ込んでくるアリーシャ。
そんな斬撃を喰らったらひとたまりもないと、レヴィが魔王に与えられし力、上級魔法 《フレイム・バースト》を発動。自身を爆炎の壁で包み、攻撃を兼ねた防御を固める。
対し、アリーシャは、舞夜によって戦闘装束に施された新機能、《ブースト》を発動。
空中で膝を突き出すと、その先から風、そして闇属性の２種類の魔力が噴出し、前へと加速していたアリーシャの体を後方へと押し戻す。
魔力複合付与技術、《ブースト》。
舞夜が地球で読んでいた、とある書物から発想を得て完成させた、立体機動機構だ。
そして、この《ブースト》により、アリーシャの戦闘能力はより高速で変幻自在なものへと向上したのだ。
だが、《ブースト》の効果はこれだけではない。
『ぐぁぁぁぁ！ 苦しいッ！？ 体がぁぁぁッ！！』
またもや苦しみだすレヴィ。
前述したとおり、噴出したのは風と闇の魔力だ。
推進力だけなら風だけでも十分だが、「移動と攻撃を兼ね備えたら最強だよね？」と、舞夜が考え、セットで付与したのだ。
その思惑どおり、《ブースト》は効果を発揮した。
たしかに魔族は強力だ。
さらに今のレヴィは魔王マモンの洗礼を受け、力を増大。
通常であれば、アリーシャ１人の手に負えるものではないだろう。
だが、１人の者を愛する３人が集まれば——。
そして、その者が彼女たちに託した愛の結晶を、その身に施せば——。
この展開は最初から決まっていたのだ。
そしてここから、美しきエルフたちの本気が始まる。
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