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56話 囁きかける者たち

 28層目——。


「《黒ノ魔弾(ブラック・バレット)》! よし、今だ!」


「しゃあッ! 《聖轟掌底撃》!!」


「これで終わりだ! 《聖光連斬》——!」


 舞夜が魔弾でオーガを怯ませ、剛也と勇大にトドメを任せる。


 先ほどからこんな感じで、強敵が出た時は見習いの男2人組が、カッコ良く見えるように演出。凛と桃花に見直させ、再び彼らと仲良くしてもらおう。


 舞夜は、そんなセコイ作戦を行なっているのだが……。


「ご主人様はどっちもイケますよ? 普段は壊れちゃうくらい激しいのに、甘えさせてあげたり、ちょっと責めてあげると……ふふっ」


「いいな、いいな〜! 舞くん可愛いもんね〜。どうしよ、想像したらゾクゾクしてきちゃったぁ……」


「はわわ〜、大人過ぎるよ〜」


 舞夜の努力虚しく。

 凛と桃花は、勇大たちの頑張りなんてガン無視。


 それどころか、舞夜にその気がないと分かると、アリーシャたちに取り入って、外堀から埋める作戦に出てきた。

 今も夜の話を聞いて、顔を真っ赤にしている。


 その横ではリリアとシエラが、サクラに……


「……最近、ご主人様は、あんよで可愛がられるのも好き」


「シエラはこの間、お尻でお顔に乗っちゃいましたの!」


「な、なんて高度なプレイを……! もし私が、舞夜ちゃんのちっちゃなお顔に乗って、そんなことしてしまったら……。くぅ〜〜、たまらん!!」


 ——たまらんのはこっちだ!!


 頼むからサクラにだけは、自分たちの内容をバラさないでほしい。

 いつか、犯される……。


 そんな恐怖でガクガクブルブルと震え上がる舞夜に、勇大と剛也の2人か話しかけてきた。


「な、なぁ、舞夜。僕もう無理な気がしてきたよ……。それにおかしいんだ。凛が君に取られて、いいようにされると思うと、ドキドキしてくるんだ……」


「俺もなんだ! 舞夜、ホモってどう思う!?」


「目覚めかけてる!?」


 どうにもならなそうな状況に、勇大と剛也の2人は、その事実を受け入れ新たな扉を開こうとしてしまっているのだった。


「おい、寝取られに目覚めようが、ホモに目覚めようがどうでもいいが、注意しろ。“アンデッド”のお出ましだ!」


 そこへジュリウス皇子が喝を入れる。

 指差す先を見れば大量の骨の魔物……アンデッドたちが彼らめがけて押し寄せてきているではないか。


 ——しめた……!


 舞夜は閃く。


「勇大、剛也。今こそ2人の力を発揮する時だ。アンデッドは神聖属性を使える勇者の得意分野だろ」


「「ッ……!!」」


 舞夜の言葉を聞いて、2人の目に光が灯る。

 今度こそ、自分たちの活躍場面だと。


 ダンッ——!


 大きく踏み込み駆け出す2人。

 アンデッドの群れに突っ込み、聖なる技で次々と斬り裂き、打ち砕いていく。


「凛、桃花! 何をしている、お前たちも行け!!」


「り、了解です。殿下!」


「はわ〜!」


 ジュリウス皇子の号令で、凛と桃花も戦線に加わる。

 これなら嫌が応にも連携を組まなければならないというもの。


 ぎこちなさは見られるが、戦う分には問題なさそうだ。

 舞夜はホッと胸を撫でおろす。


「うわ!? なんだアイツら!?」


 だが、安堵するのもつかの間。

 慌てた勇大の声が響く。


 見ればアンデッドの群れ、その最奥に2つの大きな影が……


 1つは、スーツに身を包んだカボチャ頭の魔物。

 もう1つは、カブ頭のカカシ型の魔物だ。


 その特徴的なフォルムは、まるでハロウィンのお約束、“ジャックオーランタン”。

 カブ頭の方は、さしずめ“お化けのカブ”といったところだろうか。


「気をつけろお前ら! “上位アンデッド”だ!」


 ジュリウス皇子が叫ぶ。


 なんと2体は、そのふざけた見た目に反し、上位アンデッドだったのだ。


 上位アンデッドとは、生者への憎しみが通常のアンデッドよりも強く、その憎悪のあまり体が次の位階へと変異した個体の総称だ。


 進化の果てにどんな姿になるのか、そしてどんな攻撃力を持つのかは不明。

 魔物の中でも特に厄介な相手だ。


『《ジャック……War……ランタン……!》』


 カボチャ頭のアンデッドの口から、呻きに似た声でそんな言葉が紡がれる。


 すると、その頭部と同じ形のエンブレムをあしらったランタンが無数に宙へと浮かび上がる。


 そして——


 ボウッッ!!


 それぞれのランタンの中から、火球が飛び出し見習いたちへと襲いかかる。


「《黒ノ魔弾(ブラック・バレット)》!」


 ちょっとギャグっぽいけど、カッコイイ技だな。

 などと感想を抱きながら、舞夜が魔弾を放つ。

 火球を全て撃ち落とすつもりだ。


 バシュ——!


「そんなっ!?」


「お兄さまの魔弾が打ち消されましたの!」


「……信じられないっ……!」


 エルフ娘3人の顔が驚愕に染まる。

 彼女たちの言うとおり、舞夜の《黒ノ魔弾》はすべて火球に打ち消されてしまったのだ。


「この……! 《黒ノ魔槍(ブラック・ジャベリン)》!!」


 単純な魔力のぶつかり合いで自分の魔法が競り負ける。

 この世界に来て、初めての経験に舞夜は焦りを覚える。


 だが、それは一瞬。

 これならばどうだとばかりに、今度は水の魔力を付与した《融合魔槍》を複数放つ。


 見事すべての火球を打ち消して見せた。


 《融合魔槍》はそのまま直進しランタンを破壊。

 そしてカボチャ頭本体へと襲いかかり——


 ドパンッ!!


 大きな音を立て、貫いた。


『アァ……。絶望ノ闇二、希望ノ闇ガ……満チテイク……』


 魔槍に貫かれたカボチャ頭は、そんなセリフとともに、活動をピタリと止めた(・・・)


「なんでしょう、今のは……?」


「さぁ、絶望がどうとか……」


 アリーシャの疑問の声に舞夜はそう答える。


 セリフも気になるところだが、そのほかにも不審な点がある。

 通常、アンデッドはダメージを受け、力を失うと、その体は霧散すると舞夜は聞いていた。

 しかし目の前のカボチャ頭は、活動を止めただけなのだ。


『《サクリファイス……ソード……!》』


「うおっ! やばいぞこれ!?」


 疑問を抱いている暇はなかった。


 今度はカカシのアンデッドが、腕の先端に鎖で繋がれたいくつもの短剣を出現させ、勇大へと襲いかかっていた。


 ジャラジャラ、ビュンビュン!


 乱雑なように見えて的確に急所を狙っている。

 そんな幾重にもわたる斬撃に防御が間に合っていない。


「気をつけろと言っただろうが……すまない舞夜。あっちも頼む」


「了解です。ジュリウス」


 どうにもポンコツな勇者見習いに、ゲンナリするジュリウス皇子からの要請を受け、今度は《七星ノ闇魔剣(セブンス・ブラック)》を発動。


 漆黒に煌めく7つの魔剣が、勇大に襲いかかる鎖短剣を弾きつつ、カカシ本体を斬り裂く。


 すると、またしても活動を停止した。


「ふむ……。舞夜、他のアンデッドども全てに、お前の魔弾をぶつけてみてくれ」


「やっぱり、そう思いますよね」


「くくっ、お前もか?」


「ええ、ではいきます。《黒ノ魔弾》!」


 舞夜はジュリウス皇子と小さく笑い合うと、魔制具であるミスリル合金の杖、そして自身の構築技術、その2つを最大限に生かすことで数十もの魔弾を形成し、アンデッドの群れへと放つ。


『『『アァ〜……ヨキカナァ……』』』


 残りのアンデッドたちもまた、先の2体と同じように、活動を停止した。


「どういう原理かは分からんが……。舞夜、お前の闇魔法はアンデッドを沈静化させる力を持つようだな」


「どうやらそのようですね。ちょっと不気味ですが——!?」


「どうした舞夜?」


「ご主人様?」


 言葉の途中。

 突然、舞夜が声を止める。

 顔を見れば、なぜか驚いたような表情が浮かんでいる。


 その様子にジュリウスを始め、アリーシャたちが訝しげに尋ねるが……。


 ——どういうことだ? みんなにはこの声(・・・)が聞こえていないのか!?


 声——。

 それは舞夜にだけ聞こえていた。


 そして、声はさらに囁きかける『タスケテ』『ツレテイッテ……』と。


 そしてその声の出どころは……


「ジュリウス、なんでもありません。アーシャたちも心配かけてごめんね?」


「で、ですが、今の様子は……」


 ただ事ではなさそうだった。

 アリーシャたちは心配そうな顔をするが、舞夜はそれ(・・)を告げるわけにはいかなかった。


 むしろ、そんなこと(・・・・・)を勇者であるジュリウス皇子の前で口走れば、何をされるか分かったものではない。


 なんでもないふりをしながら、舞夜は29層目へと歩みを進める。

 コッソリと、とある魔法を発動させながら……


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