表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/132

55話 修羅場

 20層目——。


『キシャァァァ……《ファイアー・ボール》! 《アイシクル・ランス》!!』


「《黒ノ魔弾(ブラック・バレット)》!」


 飛んでくる火球。

 そして氷の槍。


 それらを舞夜は魔弾で撃ち落とす。


 そこへすかさず——


「この角度なら……!」


 敵の真横からシエラが矢を放つ。


『キシャシャシャ! 無駄だ。小娘!』


 そう言って、敵は手にした盾で矢を弾き、長い尻尾を薙ぎ払ってくる。


「……させない、《門城鳥(モンシロチョウ)》……!」


 それを見て、リリアが《召聖ノ加護》を発動。

 鈍色のグリフォン型の使い魔がその攻撃を大きな翼を広げ防ぐ。


『キシャァ……。小賢しい』


 憎々しげに言葉を吐く異形、その名も“ナーガ”。

 大蛇の下半身に、人間の上半身を持つ上級の魔物だ。


 下級魔法 《ファイアー・ボール》と、中級魔法 《アイシクル・ランス》を操り、さらには両手の剣と盾、そして強靭な尻尾による強力な一撃を放ってくる。


 この迷宮の“中ボス”とも呼べる存在だ。


 と、そこへ。


「これで終わりと思いましたか?」


「キシャァ!?」


 《門城鳥》の背後にピッタリと隠れていた、アリーシャが飛び出し、双刀で交差斬りを放つ——。


 ガキィンッ!


 だが、それはまたもや盾によって弾かれた。


『キシャァァァ! 喰らうがいい。我が尾の一撃を! ……ピギャァァァァァァァァ!?』


 防御したことにより出来たアリーシャの隙。

 そこへ尻尾による一撃を放とうとナーガが笑う……が、その直後に襲った激痛に叫びをあげる。


 その尻尾の先端を見れば——


『ガルルル……』


 リリアの召喚した《キマイラ》が、その強靭な顎門で噛み付いているではないか。


「終わりです……!」


 斬——ッ!!


 空を裂く音と共に血飛沫が吹き荒れる。

 とうとうアリーシャがナーガの首を刎ね飛ばしたのだ。


「やりました。ご主人様!」


 ナーガの死体など目にも留めずに、舞夜へと満面の笑みで駆け寄るアリーシャ。その後ろにリリアとシエラも続いて来る。


 見れば誰もが無傷。

 舞夜は魔弾による援護をしていただけだというのに、中ボスを余裕で圧倒してしまった。


 どうやら、彼女たちは個人の実力もさることながら、3人での連携も向上させているようだ。


「殿下、舞夜ちゃん! 急いで来てほしい!」


 舞夜に褒めてもらおうとアリーシャたちが彼に殺到する中、サクラが慌てた様子で割って入る。


「どうしたサクラ隊長?」


「殿下……。その、止めたのですが、見習い4人が自分たちもいいところを見せてやるとオーガの群れに突っ込んで行きました」


「なに!? あいつら……! 舞夜、悪いがあいつらの元へ急いでくれ! 俺とサクラ隊長はここで他の敵を食い止める!」


「わかりました!」


 思い上がりを反省していたと思っていた見習いたちの暴走に、ジュリウス皇子が憤り、声を荒げる。


 自分が助けに行きたいところだが、ちょうどそのタイミングで新たな魔物たちが現れた。


 見習いたちが対峙しているのはオーガたちの群れ。

 であれば、範囲攻撃のできる魔法使いの舞夜が行った方が得策と判断し、そのような指示を飛ばしたのだ。


 舞夜はアリーシャたちを連れ、現場へと急行する。





『フンッ……コンナモノカ人間!』


「ぐぅ……っ!? せ、《聖光連斬》……!」


「《ホーリー・アロ——あ゛ぁぁぁぁ!?》


 見習いたちは窮地に陥っていた。

 周りをオーガに囲まれ、その上、前衛と後衛が分断されている。


 そんな中、凛が悲鳴をあげる。

 彼女の腕がオーガの棍棒で薙ぎ飛ばされたのだ。


『コレデ終ワリダ……ッ!!』


 腕を失い激痛で凛は動けない。

 その頭にオーガの棍棒が振り下ろされる。


「《黒ノ魔弾(ブラック・バレット)》!!」


 そこへ轟く声。

 見れば舞夜がとんでもないスピードで突っ込んで来る。

 魔弾を足元に放ち、自分の体を爆風で吹き飛ばしたのだ。


 そのままタワーシールドを構え、棍棒ごとオーガの体を弾く。


 そして——


「みんな伏せろッ!!」


 と叫ぶ。


 アリーシャを始め、前回の大攻略に参加したエルフ3人は舞夜の意図に気づき、すぐにその身を屈める。


 混乱する見習いたちは、リリアの使い魔が強制的に這いつくばらせた。


「《黒滅閃(コクメツセン)》——!!」


 ギュンッ!! という鋭い音とともに、漆黒の破壊光線が杖の先端から飛び出す。

 舞夜はそのまま180度杖を薙ぎ払い、群がっていた敵を次々と駆逐していく。


「な、な……」


「なんなんだよそれ……!?」


「はわ〜……」


 ここに来るまで披露していなかった舞夜の本当の実力。

 その片鱗を目の当たりにし、勇大たちが驚愕を露わに。


 だが、そんなことに構っている場合ではない。


「ほら口開けろ!」


「んぐっ!?」


 腕のなくなった凛の口に舞夜がハイポーションをぶち込む。


 出血多量になる前に間に合ったようだ。

 みるみるうちに骨と肉が再生、そして皮膚を作り上げていく。


「え……? う、腕が……」


「凛! 大丈夫か!?」


「うわっ!?」


 生えた腕を見て不思議そうな顔をする凛。

 そんな彼女のもとへ残りの見習い3人が殺到し、取り囲む。

 その際に舞夜が突き飛ばされしまった。


「リリア、シエラちゃん。あの子たち、どうやって殺しましょうか」


「……ご主人様の手を煩わせた。楽には殺さない」


「それに凛さん。よりにもよって盾になってもらうなんて、女に産まれたことを後悔させてあげますの」


 その様子を見ていたアリーシャたちエルフ娘が不穏な発言を。

 仲間を助けてもらったにも関わらず、舞夜をぞんざいに扱われて、怒りに火がついたらしい。


 だが、そこへ。


 凛が群がる3人を無視して舞夜へと近づいて来る。

 心なしか顔が赤い。


 いったい、どういうことだろうか。


「あ、あの……ありがとうね、舞くん。さっき使ってくれたのハイポーションだよね? 助けてくれたうえに、あんな高価なものまで使ってくれるなんて……。ねぇ舞くん。やっぱり私、あなたが好き……」


「なッ!?」


 うるうるした瞳で舞夜を見つめ、そんなことを口走る凛。

 どうやら命を救われたことで、デレ返してしまったようだ。


 せっかく諦めてくれていたのにと、舞夜は愕然とする。


「なるほど、そういうことでしたら……」


「……ん。執行中止」


「セーフですの」


 まだ舞夜のことが好きなら……。


 彼の大切なものを増やしたいアリーシャたちとしては大歓迎。

 死刑は中止となるのだった。


「おい、凛! 何言ってんだ!? そいつが好きって……お、おかしいだろそんなの! はやく離れろ!」


 げっそりしている舞夜の耳にそんな声が響く。

 振り返れば、顔を赤くした勇大の姿がそこにはあった。


「は? 私が誰を好きになろうが勝手でしょ!? それに、勇大が無茶に巻き込んだせいで私の腕、千切れたんだよ!? 舞くんがいなかったら死んでたんだから! もう勇大のパーティなんて抜けるから!」


 対し、凛も声を荒げる。


 舞夜はてっきり、凛が暴走してこんな事態に陥ったのかと思っていたのだが、言葉から察するに、勇大が言い出したことのようだ。


 なぜ、彼はこんなことをしようと思ったのだろうか。


「なんだこれ? 修羅場じゃねーか」


 とそこへ。


 魔物の返り血を浴びたジュリウス皇子とサクラがひょっこり現れる。

 どうやらカタがついようだ。


「ジュリウス、修羅場って……どういうことですか?」


 舞夜が尋ねると……


「なんだ、気づいてなかったのか? 勇大は凛のことが好きなんだぞ? ちなみに剛也は桃花のことを想ってる」


「Oh……」


 どう考えても修羅場です。

 本当にありがとうございました。


 だが、これで納得がいく。


 要は、勇大は焦りを感じたのだ。

 凛の想い人、舞夜の存在に。


 そして昨日、凛の前で強者としてのプライドを打ち砕かれた。

 その事実が、彼女の前でいいところを見せなければ——と、勇大を今回の強行に駆り立ててしまったのだ。


「おい、舞夜ぁ! お前、凛にいったい何をした!?」


 ——そっち!?


 見当はずれの勇大の言葉に驚く舞夜。


 だが、そこまで思いつめていたうえに、目の前での告白。

 勇大は止まらない。

 否、止まることが出来ない。


「はわ〜。凛ちゃんがそう言うなら、私も抜けようかな〜? さすがに今回みたいなことは嫌だもん……」


「そうよ、桃花も私と一緒に抜けましょう! ねぇ、舞くぅん。私たちをあなたのパーティに入れてくれない? 入れてくれたら、入れさせて(・・・・・)あげるからぁ……ね?」


 とうとう桃花まで、勇大から離反すると言い出す始末。


 おまけに、凛はさりげなく淫語を口走り始めた。

 散々、舞夜とアリーシャたちのあり方についてディスっていたのに……実は、とんだ淫乱娘だったらしい。


「はわわ〜! 凛ちゃんったら、大胆……。でも舞夜くんだったら、私も……い、いいかな〜?」


 そして、それもいいかな? なんて共感しだす桃花。


 これに舞夜は頭を抱えるが、これだけでは終わらない。


「ちょっと待て小娘ども! 次は私の番だぞ!!」


 変態ショタコン女騎士隊長・サクラだ。

 自分より先に舞夜に手を出させはしまいと、鎧を脱ぎ出し彼へと襲いかかろうとする。


 そして、それを血涙を流しながら睨みつける、勇大と剛也。

 2人の想い人が同時に他の男へと靡く。

 そこへ美人女騎士も加わり、嫉妬と憎悪が彼らを支配したのだ。


「あはははははッ! クソワロタ」


 修羅場どころか、ド修羅場。

 もはや笑うしかあるまいと、ジュリウスは腹を抱えて転げ回るのだった。


 他人ごととは、よく言ったものである。


「と、とりあえず、勇大、剛也。ぼくは東堂さんと西蓮さんをパーティに入れるつもりはない。ましてや、気持ちに応えるつもりもない。……だからそっちのことはそっちで話し合ってほしい」


 このままではまずい。

 下手すると勇大と剛也に刺されかねない。


 舞夜はそう判断し、自分の率直な意見を2人伝える。


「ほらみろ。凛、桃花! 舞夜は君たちのことを拒否してる。一緒にいたって幸せにはなれない!」


「そうだぜ! さぁ、こっちに戻って来るんだ!」


「別にいいもん! これから気に入ってもらえるように頑張るもん。もう話しかけないで!」


「はわ〜、おなじく〜」


 舞夜の言葉に、それ見たことかとまくし立てる勇大と剛也。

 だが、そんなこと関係ないと拒否の姿勢を崩さぬ凛と桃花。


 ——まずいな、これは……。


 その様子に舞夜は焦りを覚える。

 もちろん、自分がそんな修羅場の渦中の人物ということもあるが、今回の1番の目的は魔王討伐。


 そして、魔王に対して最も効果を発揮するのは、ジュリウスと見習い4人の神聖属性と聞く。こんなところで、仲間割れをされてはたまったものではないというものだ。


 ジュリウス皇子はバカ笑いしてるだけだし、アリーシャたちはこの状況にウェルカム。


 ——ぼくが、なんとかしなければ。


 舞夜は彼らを、とりもとうと決意する。


「ん? ということは……私が舞夜ちゃんとチュッチュできるということでいいだろうか?」


「いい加減、鎧着ろ!」


 とうとう、鎧下まで脱ごうとするサクラに舞夜が《黒ノ魔弾(ブラック・バレット)》を放つ。


「「おうふっ」」


 そして、ちらりと見えてしまったサクラの谷間に、勇大と剛也が前かがみ。


 なんともタイミングが悪い。

 凛と桃花の視線が、冷たいものから、ゴミを見るようなものへと変わってしまった。


 状況は最悪にして混沌。


 それでも彼らは進まなければならない。

 魔王の待つその先へ——。


【読者の皆様へ】


下にスクロールすると、作品に評価をつける【☆☆☆☆☆】という項目があります。


お楽しみいただけましたら、どうか応援していただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ