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54話 勇者皇子の力の片鱗

 翌朝——。


「はわ〜。気持ち悪いよぉ〜」


 桃花が地面にうずくまり、呪詛のように言葉を漏らす。


「当たり前よ桃花。昨日止めたのに、あんなに食べるんだから」


 そんな桃花の様子を見て、呆れ顔で凛がたしなめる。


 桃花は、舞夜の作った◯郎をはじめとするラーメンの数々、そのあまりの完成度の高さに、全種類制覇してしまったのだ。

 こうなって当然である。


「まぁ、食べ過ぎても仕方ないかな」


「ああ、なんたって舞夜のラーメンは絶品だったからな」


 その横で勇大と剛也は、ラーメンの味を思い出し、うっとりした顔を浮かべている。


「あの味は1度味わったら、やめられん。どうだ舞夜、この依頼が終わったら、帝国勇者団に来ないか? お前の実力は尋問したアカツキから聞いている。歓迎するぞ」


 勧誘する後半の理由はともかく。

 前半がとんでもないジュリウス皇子。


 それに対し舞夜は——


「嬉しいお誘いですが、ぼくはこの都市が好きなので……」


 と遠慮の意思を表す。


 名誉なことではあるが、今回は、第二皇子の裁き、報復の回避、そしてこの都市に危機が迫っている……など、もろもろの理由で手を貸しただけだ。


 そうでなければ、魔王討伐のサポートなんて危険なマネは御免というものだ。


「ふむ、残念だ……」


 この世の終わり——。

 そんな表情を浮かべるジュリウス皇子。


 舞夜は、仕方ない……と、こう提案する。


「言ってもらえれば、ラーメンくらいすぐ作れます。もし今後リューインに来ることがあれば、ぼくたちの家に寄ってください」


「ッ——! 本当か!? よし必ず行くからな!!」


 ——あ、これガチの反応だ。


 爛々と目を輝かせるジュリウス皇子に、舞夜は「週一くらいで来たらどうしよう……」などと後悔するのだった。





「なるほど、これが海底領域か」


 16層目を迎え、ジュリウス皇子が小さく漏らす。


 海底領域——。

 前回の大攻略で、サクラから説明を受けたとおり、そこが見えないほど深い水面が広がっている。


「ジュリウスは水の上級魔法スキルを持っているのですか?」


 舞夜が尋ねる。


 依頼を受ける際に彼は「海底領域に関しては俺がなんとかする」とジュリウス皇子から説明を受けていた。


 そして、海底領域を超えるには水の上級魔法スキルが必要だ。

 ゆえに、そう思ったのだが……


「いや、俺は神聖属性以外は使えない」


「……? ではいったいどうやって——」


「まぁ見てろ……おぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッッ——!!」


 ズバァァァァァン!!


 咆哮と同時に背中のグレートソードを目にも止まらぬ速さで振り抜くジュリウス皇子。


 すると轟音とともに、水面が真っ二つに割れたではないか。


 その際に行き場を失った水棲の魔物が、露わになった水底に落ち、ビチビチと跳ね回る。


 なんという豪腕。

 海を剣で叩き割る——これでは神話のモーゼも真っ青だ。


「水面が戻る前に行くぞ!」


 呆気にとられる舞夜たちを尻目に、ジュリウス皇子が軽快に駆けていく。

 これだけの大技を放ったというのに、その足どりと表情に疲労の色はない。


 さすが現役勇者と言ったところだろう。

 そして舞夜は、これが本当の格の違いなんだろうな、と実感する。





 17層目——。


 ガキィンッ!!


 棍棒とギガントシールドがぶつかり合い、激しい音が鳴り響く。


「なかなか、重い一撃を放つじゃないか、“オーガ”!!」


『グゥ……! オレノ一撃ヲ防グトハ、ヤリオル!』


 オーガ——。

 2メートルを超える巨躯と角の生えた頭。

 その名のとおり、鬼の姿をした魔物だ。


 海底領域を越え、新たに現れたこの魔物は、剛力でありながら人間の言葉を解すほどに知能が高い。それゆえフェイントなどを加えた多彩な攻撃を放ち厄介だ。


 トロールのように再生能力は持っていないものの、その戦闘力はその上をいく。


 だが、サクラはそれらの攻撃を全てスキル《鉄壁》とギガントシールドを駆使することで、華麗に捌いてみせる。


「はぁぁぁ! 《聖光連斬》!!」


「……《雷蟲(らいちゅう)》、援護」


「矢を食らうのですの!」


 オーガと攻防を交わすサクラの横では、リリアが《召聖ノ加護》で召喚した使い魔、《雷蟲(らいちゅう)》を。シエラは《弓聖ノ加護》を使い、大弓から矢を放ち、こちらもオーガと対峙する勇大を援護している。


「桃花さん後ろへ! はぁぁぁッ——!!」


「はわわ〜、ありがとうございます。それっ、《ホーリー・プロテクション》!!」


 さらに先では、アリーシャと桃花が連携しオーガを圧倒。


 《剣聖ノ加護》と月天輝夜流双刀術を駆使する、アリーシャの高速剣技と、桃花の放つ聖なる結界の相性はなかなかのものだ。


 そして他の者は待機。

 これらの戦い方は全てジュリウス皇子の指示によるものだ。


 ここに来て、トロール以上の強敵の出現。

 全員がぶっ続けで戦っては体力が持たないと判断してのものだ。


 それと理由はもう1つ。

 今回のクエストの目的は魔王討伐の他に、勇者見習い4人の特訓を兼ねている。


 昨日は、ほとんど見習いたちに攻略を進めさせ、その後に自信を砕くことで、思い上がりを反省させた。


 その上で、今日はアリーシャたちのような、今までに組んだことのないメンバーと連携させ、急時の対応力を向上させる。


 そういったジュリウス皇子の目論見があるのだ。


 それゆえ、舞夜は本気を出すなと言われている。


 闇魔法……特に《黒滅閃(コクメツセン)》などを使えば、ほとんどの場合、それで戦闘が終わってしまうからだ。


 圧倒的な攻撃力を持つジュリウス皇子も同様だ。


 ——それにしても……。


 と舞夜は舌を巻く。


 強力な魔武器をそれぞれに与えたというのに、アリーシャたちはオーガという強力な敵を前に一度もそれらを使用していない。


 自分が夜の見回りで鍛錬を重ねる中、アリーシャたちも独自に特訓しているのを舞夜は知っていたが、ここまでとは思わなかったのだ。


 ふた月前に、アカツキたちと対峙した時よりも、明らかに戦い方が洗礼されている。


 だが——


「《黒ノ魔槍(ブラック・ジャベリン)》!」


「グガァァァ!? オノ……レ……」


 舞夜の放った魔槍によって、胸を貫かれたオーガが倒れる。


「……っ! ご主人様は甘い……」


 舞夜の援護に、リリアが不満げな言葉を漏らす。


 リリアの使い魔がいる位置とは逆の方向から、オーガが迫ってきていたので、舞夜が潰したのだ。


 彼女だけでもなんとかなるタイミングではあったが、無理させる必要はない。


 特訓が必要なのは勇者見習いたちだけであって、大切なエルフの3人が傷つくことを舞夜は許さないのだ。


「ま、舞夜ちゃん! 私もピンチだぞ!!」


 そんな様子を羨ましがったサクラが、自分も相手してほしいと叫ぶ。

 オーガ3体をチャージアタックで轢き殺しておいて、どの口が言うのだろうか。


 とはいえ、好意を持ってくれている女性の頼みを無視することは出来まい。


 舞夜は、やれやれと、魔槍を放ってやるのだった。


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