53話 合法ロリ?
「ほふっ、んぐっ……がぁぁぁぁ、うめぇぇぇぇ!!」
ジュリウス皇子が、高貴な身分とは思えない勢いで料理をかき込み、歓喜の声をあげる。
きのう食べた唐揚げをもう一度食べたいと、しつこくねだるので、舞夜たちが作ってやったらこれである。
「あぁ……本当に美味いな! くうぅ、涙が出てくるぜ!」
「こっちの生姜焼きも最高だ! また日本食が食えるなんて……っ!」
ジュリウス皇子の横では、勇大と剛也も生姜焼きや肉じゃがなど、他の料理に手を伸ばし、ガツガツ食らっていく。
久しぶりの日本食に手が止まらないといった様子だ。
「ふへへへ……。ひ、久しぶりに舞夜ちゃんを抱っこできたぞ。たまらん!!」
少々危ない声を出すサクラ。
こちらもしつこくおねだりすることで、舞夜を膝の上に乗せることに成功しご満悦。
前回同様、鎧を脱ぎ捨て、全身タイツみたいな鎧下で密着するものだから、背中に当たる柔らかな感触と、彼女から香る汗のいい匂いに、舞夜はくらくらとしてきてしまう。
もちろん彼は抱っこなど拒否したのだが、アリーシャたちに、お願いだから抱っこくらいさせてあげて! と懇願され仕方なく応じたのだ。
それに動機は不純だが、サクラは有給まで使ってこのような危険なクエストに自ら出向いて来てくれた。
そんな手前、無下にはできないというものだ。
「はい、お兄さま、あ〜んですの」
「あ、シエラちゃんずるいですよ!」
「……むぅ。シエラ、最近アグレッシブ。侮れない……」
サクラに拘束され、動けないでいる舞夜の口へと料理を運ぶシエラ。アリーシャも負けじとその隣に寄り添う。
リリアは当初遅れをとっていたシエラの成長ぶりに危機を感じているようだ。
と、そこへ。
「舞くん、ちょっといいかしら?」
不機嫌そうな声で、幸せなやりとりに水を差す凛。
地球でも、たびたび舞夜にちょっかいを出す彼女ではあったが、その頃とは違い、不快感を露わにしている。
もともと嫌いな相手にこんな態度を取られれば、大人しい舞夜といえども穏やかではいられない、彼女と同じく不機嫌そうな声で「……なに、東堂さん?」と聞き返す。
その様子を見て、付き添ってきた桃花が「はわはわ」と苦笑。
「本当は舞くんの家で言おうと思ってたんだけど、女の子2人に首輪なんかつけて、ご主人様なんて呼ばせて……どういうつもり? おまけにシエラちゃんみたいな小さな子とまで随分仲がいいみたいね。犯罪よ?」
自分の好きな人が、奴隷なんか連れている。
そのうえ、ア◯ネスされてもおかしくないほどに、幼い見た目の少女とも仲睦まじい様子。
東堂は憤り、それと嫉妬に耐えきれず、舞夜へ絡んできたようだ。
「東堂さん。アーシャとリリアに関しては、ぼくが奴隷であることを強制しているわけじゃない。みんな愛し合ってこの関係を作ってるんだ」
そこまで言ったところで、アリーシャたちが花の咲くような笑顔に。
そしてサクラが「私だけお預けか!」と舞夜を抱きしめる力を強める。
美少女たちの笑顔に、後ろから押しつけられる2つの膨らみ。
舞夜の顔が思わず緩み、それを見た凛の顔が般若の形相へと変わる。
だが、舞夜は屈しない。
彼の言い分はまだあるのだから。
「それはそうと、シエラのことだけど、この世界ではこのくらいの歳でどうこうというのは当たり前……いや、むしろ推奨されていると言っていい。すなわち“合法ロリ”だ! 犯罪というのは訂正してほしい」
「「いや、なに開き直ってんだ!!」」
舞夜の言い分に、聞き耳をたてていた勇大と剛也が鋭いツッコミを飛ばす。
たしかに元の意味とは違うかも知れないが、この世界においては舞夜の言い分は正しい。
郷に入っては郷に従え。
人間慣れと諦めが肝心だ。
「あんっ」
そんなタイミングで聞こえる、艶かしい声。
どうやら、舞夜がシエラのイケナイところに、うっかり触れてしまったようだ。
「きぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
それを聞いた凛が、昭和アニメみたいなみたいな悔しがり方を……。
彼女が報われる日は来るのだろうか。
「さて、そんなことより、みんなまだお腹に余裕はあるかな?」
「なに!? ということは、まだ美味いものがあるのか!?」
凛の相手がめんどくさくなった舞夜が皆に尋ねると、唐揚げにむしゃぶりついていたジュリウス皇子が速攻で反応する。
「たしかに、さっきからあっちの鍋から、いい匂いがして気になってたんだよな……」
「な、なぁ、舞夜。もしかしてこの匂い……」
焚き火の上で熱せられるいくつかの鍋。
そこから漂う匂い。
その正体に勇大と剛也は思い当たったようだ。
その正体とは——
「“ラーメン”だ」
「「うひょぉぉぉぉぉぉぉうッ!!」」
ラーメン——。
その単語に歓声をあげる勇大と剛也。
だが、舞夜はその喜びのはるか上をいく準備を整えてある。
「スープは魚介ベースに鶏ベース、それに豚骨ベースが用意してあって。合わせダシもできる。味も醤油、味噌、塩から好きなものを選んでほしい」
舞夜がここしばらくで、研究していたのは魔導士の力や女体の神秘だけではない。
ラーメンの味が恋しくなった彼は、あらゆる系統のラーメンの開発を続けていたのだ。
「なんてこった! 舞夜、めちゃくちゃ本格的じゃないか! お、俺は豚骨スープに醤油にするぜ!」
「豚骨に醤油……ということは剛也は家系が好きなのかな? なら、安心してほしい。鶏油もあるし、トッピングはチャーシュー、のり、それにほうれん草も用意してある。麺も極細、中太、極太よりどりみどりだ」
「ジーザス! あぁ神よ、感謝するぜ! ◯ーメン!!」
「おい黙れ」
これからラーメンを食べようというのに、興奮のあまり、とんでもない言葉を口にする剛也。
それに舞夜は、げんなりといった様子でツッコミを入れるのだった。
「うーむ、迷うな。そもそも、どれがどんな味がするのか想像がつかん……」
匂いでこれらのものがうまいと確信しているジュリウスではあるが、未知の食べ物に決めかねている様子。
「殿下、でしたらいくつかの組合せを少量ずつ用意しましょう。それで気に入ったものがあれば、お代わりを申し付けてください」
「おお! それは助かる! 頼んだぞ舞夜!!」
いくつも試せると聞いて、子供みたいに目を輝かせるジュリウス皇子。
唐揚げのことといい、生粋の食道楽らしい。
「はわ〜。舞くん、質問があるんだけど〜?」
「なに、西蓮さん?」
「◯郎系ってできるかな? ううん、この匂い……できるよね?」
「え? 西蓮さんって、そんなの食べるの?」
「うん。週一で食べてたよ〜」
なんと、桃花は◯ロリアンだったようだ。
そしてその鼻は本物だ。
隠れていた鍋のひとつ……げんこつに背ガラ、複数の野菜。
そして、それらと一緒に煮込まれた大量の背脂の匂いを的確に嗅ぎ分けている。
「じゃあ西蓮さんは◯郎ね。トッピングはどうする?」
「はわ〜、全マシで〜」
ガチのようだ。
人は見かけによらない。
「……私は担々麺」
「シエラもですの!」
シエラとリリアはそう言って、手際よくダシに調味料を加えていく。
2人は味噌をベースに唐辛子やラー油、胡麻などをブレンドした、なんちゃって担々麺にはまっているのだ。
「わたしは、ご主人様と同じ、つけ麺にします」
アリーシャは魚介醤油のつけ麺を選択
特に最後の割りスープがお気に入りだ。
「わたしは舞夜ちゃんの残り汁——」
「《黒ノ魔弾》」
変態ショタコン女騎士が、本気で舞夜の皿に舌を這わせようとしたので、舞夜は速攻で魔弾を放ち気絶させる。
「うおぉぉぉぉ! うまいぞぉぉぉぉッ!!」
雄叫びをあげるジュリウス皇子。
よっぽどラーメンがお気に召したようだ。
「決めたぞ舞夜! お前を俺の生涯の友とする! これからは俺をジュリウスと呼べ!!」
——なに言っちゃってんだ、この皇子!?
そうは言うものの、ジュリウス皇子は酒も飲んでいたため、少々酔っている。
冗談かと思い、翌日、殿下と普通に呼ぶ舞夜だったが、呼び方が違うだろうと怒られることとなる。
どうやら本気だったらしい。
恐れ多いが、皇族の願いを無下にしては不敬。
舞夜はジュリウスと呼び捨てにすることになるのだった。
「……東堂さんは何がいい?」
「え……」
舞夜に声をかけられ、意外そうな顔をする凛。
たしかに舞夜にとって苦手な相手ではあるが、仲間はずれというのもかわいそうだ——。
なんだかんだで優しい舞夜は、そう思い、凛へリクエストを聞いたのだ。
ちょっと悔しそうな、それであって嬉しそうな。
そんな複雑な表情を浮かべながら、凛は塩ラーメンをチョイス。
その姿は年相応に、なんとも愛らしい。
きっと変な誤解がなければ、2人は地球でうまくいっていたのだろう。
皆が満足そうな顔でラーメンをすする。
この日の迷宮は、その名にふさわしくないズルズルという間抜けな音が一晩中響き渡るのだった。
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