52話 格の違い
「《聖光連斬》ッ!」
「オラァッ! 《聖轟掌底撃》ィィ!!」
勇大がブロードソードを。
剛也がガントレットを駆使して光り輝く技を放つ。
『ブヒィィッ!?』
『モ゛ォォォ!?』
迫り来ていたオークが袈裟斬りによって斜め真っ二つ。
ミノタウロスは、その腹を拳で貫かれ、断末魔の声をあげる。
「後ろからも来てるわ! 《ホーリー・アロー》!」
凛が魔道書に手を当て叫ぶと、光の矢が、後方から駆けてきていた、ミノタウロスへと降り注ぐ。
「はわわ! 上からもだよ! 《ホーリー・プロテクション》!!」
さらに頭上から急降下するコウモリ型の魔物“ドート・バット”から勇大たちを守るため、桃花が錫杖から光の結界を展開し、行く手を阻む。
そして勇大が剣による攻撃でフィニッシュ。
迷宮に入ってから、見習いたち4人は、昨日の醜態を見返してやろうとばかりに、舞夜たちに活躍を見せつけてきた。
舞夜たちは手を出していないというのに、数時間のうちに13層目まで到達することに成功。前回の大攻略で迷宮がある程度沈静化しているとはいえ、かなりいいペースだ。
「どうだ舞夜! これが“勇者の力”だ!」
「ふふん、これが格の違いよ!」
勇大に続いて凛が得意げな口調で言う。
皆……特に凛は舞夜を見返すのに必死な様子が窺える。
昨日、舞夜にフラれ、屈辱を味わったのが原因だろう。
舞夜としては、勘違いの不可抗力な上、いい迷惑なのだが……。
それはさておき。
見習いたちの、この高い戦闘力だが、その秘密は彼らの手にする武器にある。
それらは“アーティファクト”と呼ばれる、女神が彼らをこの世界に召喚する際に与えた特別な代物で、所有者に“神聖属性”の力を与え、呼びかけに応じ、様々なスキルを自動で発動することができるという性能を持つ。
勇大と剛也が近接戦にもかかわらず、スキル名を叫んでいたのは、アーティファクトに呼びかけを行なっていたからだ。
そして、神聖属性の特性だが、いくつかある。
全弱点属性へ対応になるのと、通常の属性では弱点となりえない、“アンデッド”、そして魔王へ対抗できる数少ない属性ということだ。
これらの説明を聞いた舞夜は、「なんだかなぁ……」と思わずにはいられなかった。
舞夜は、今の自分の力を手に入れるのに、地獄のような日々を地球で過ごしてきた。
さらにその後も、トロールに腕をもがれたり、賢者・コンや先代勇者・アカツキの襲撃……いくつもの死線を潜り抜け、今日を迎えている。
対し4人は、ほらどうぞと与えられたアーティファクトの恩恵で、楽々と金等級冒険者や勇者見習いに成り上がり、地球帰還へ向けて快進中……面白いわけがない。
「ご主人様、お加減が悪いのですか?」
「……ん。元気ない」
「無理してはいけませんの!」
舞夜の様子を見て、何かを察したエルフ娘3人が舞夜へと近づく。
アリーシャは彼の頭を豊満な胸へ強制ダイブ。
リリアとシエラも左右からピッタリくっつき、トリプルサンド。
舞夜の身体中を柔らかな感触が包み込み、幸福へと誘う。
——ああ、ぼくは、なんて下らないことを……。
そんな辛い経験があったからこそ、この3人と一緒になれたのだ。
他人を見て羨ましがることなんて何もない。
3人の抱擁に、そう感じるのだった。
「あぁ……! 甘える舞夜ちゃんの姿……たまらん! では私も後ろから!」
「おい、やめろ」
パチンッ——。
勢いで自分も混ざろうとするサクラに、舞夜が冷ややかな視線でビンタを見舞う。
「はぁはぁッ……。舞夜ちゃんからの頬叩き! ひゃうっ」
どうやら、そっちもイケるらしい。
「くすん……。相手にすらしてもらえないのね……」
そんなセリフとともに凛が崩れ落ち、地に手をつく。
挑発したのに無視された挙句、イチャイチャを見せつけられたのが効いてしまっているようだ。
ちなみに勇大と剛也も同じ体勢。
羨ましいのもあるが、目の前で繰り広げられる光景がちょっとばかり刺激が強すぎたため、その体勢でないと問題が発生してしまう様子。
桃花は「はわ〜」と苦笑するのだった。
そんな中——
「舞夜。あいつらの戦い方を見て、何か気づいたことはあるか?」
と、ジュリウスが問いかけてくる。
「そうですね……。戦闘力はすごいと思います。連携もそれなりに……。ただ、少しばかりアーティファクトの力に頼り過ぎではないでしょうか?」
「やっぱりそう思うか。お前の言うとおり、あいつらはアーティファクトに頼って……いや、むしろ振り回されていると言っていいだろう。そしてそのせいで天狗になっている。今回の目的は魔王の討伐だが、実は同時にヤツらの根性を叩き直すのも俺は狙っているんだ。そこでなんだが……」
ジュリウス皇子曰く、それを行うには他者が圧倒的な力を見せつけるのが一番だと言う。しかし、勇者である自分がそれをしたところで効果はない。
そこで、その役目を舞夜に頼みたいということだった。
そのために、舞夜の実力はほとんど伝えていないと言う。
「わかりました。それならいい手があります」
アーティファクトの見せびらかしに、若干、舞夜もイラついていたところだ。
ちょうどいいと、ジュリウス皇子の願いを快諾し、小さく笑う。
◆
攻略を進めること少し——。
『ゲバァァッァァ!!』
トロールが南野に向けて棍棒を降り下ろす。
『ホーリー・プロテクション!』
桃花が結界魔法でそれを阻み——
『光流聖連撃——ッ!!』
勇大が背後に回り、回転連撃を叩き込ことでトドメを刺した。
トロール……。
前回の攻略で、全て倒したと思っていた舞夜たちだったが、生き残りがいたらしい。
さらに奥にも1体の姿が確認出来る。
「リリア」
「……まかせて、ご主人様。ちゅっ——」
舞夜はあらかじめ頼んでいたことを名前を呼ぶことで合図。
リリアはそれに啄ばむようなキスで応える。
「……行ってくる」
「ああ、十分に注意すんだぞ」
リリアは背中越しに頷き、舞夜に与えられた新たな装備、“長槍”を片手にトロールへと歩を進める。
「おい、何考えてるんだ!? あんな小さい子に!」
「黙って見ていろ、童貞が!!」
「かはッ——!?」
リリアをトロールに差しむけようとする舞夜に、危険だと勇大が掴みかかろうとするが、サクラが口撃によってそれを阻止する。
どうやら本当に童貞だったようだ。
深刻なダメージを受けてしまっている。
だが、これだけでは終わらなかった。
シエラが「さっきから、ウザいですの」と言って、これみよがしに舞夜の腕に抱きつくと、うずくまる勇大を鼻で笑ったのだ。
とうとう泣き出す勇大。
剛也も鼻をすすり、こころなしか涙目に見える。
「……喰らえ……ッ!」
ここでリリアが動き出した。
言葉とともに、舞夜が与えたもう1つの武器。
昨夜シエラの前で量産していた《黒雷弾石》をトロールへと放り投げる。
『ゲバァァァァッ!!??』
体に当たると同時に効果発動。
《黒ノ魔弾》の衝撃と雷の魔力が全身に走り、悶え苦しむ。
その隙にリリアが、とてててと駆け出し——
ドスッ!!
動けないでいるトロールの胸を槍で突き刺した。
そして、トリガーとなる言葉を紡ぐ。
「……発動、《黒ノ魔槍》……!!」
突き刺さった槍が、漆黒の魔槍と化し紫電を放つ。
トロールは断末魔の叫びを許されず、葬り去られるのだった。
僅か数秒の出来事だ。
「よくやったね、リリア」
「……ん。でも全部、ご主人様のおかげ」
リリアは後衛と聞かされていた見習いたちが、あまりの出来事に驚愕し目を剥く。
それに見向きもせずに、リリアは舞夜の懐に飛び込むと、頭をぐりぐり押しつけ甘えまくる。
上級魔物トロール。
そんな強敵に対し、絶対的余裕。
天狗になっている見習いたちの鼻っ柱を折るには、十分だったはずだ。
舞夜がちらりと見れば、ジュリウス皇子も満足げに頷いている。
「はぁぁぁっ!? 何よそれ! 神聖属性を使える私だって1人で倒すのは苦労するのに、それをそんな小さな女の子が一撃!? 説明しなさいよ舞くん!!」
と、そこで凛が騒ぎ出す。
力を見せつけたのはいいが、その事実に納得できず、怒りに火がついてしまったらしい。
「うるさいですの」
「教えてあげましょう。今使ったのは、ご主人様が私たちに与えてくださった、魔武器です。あなたたちも似たようなものを使っているではありませんか」
ヒステリーを起こした凛を見かねて、シエラとアリーシャが説明を始める。
舞夜は、《黒雷弾石》など石を媒介にした魔武器の他に、彼女たち用の魔武器を開発していたのだ。
今リリアが使用したのは、前回の大攻略の際に舞夜が開発した《融合魔槍》を魔法付与した代物。トロールを相手にするにはもってこいの装備だ。
さらに接近前に《黒雷弾石》をお見舞いして、戦闘リスクの回避……結果はこうなって当然というわけである。
もっとも付与した魔法は1度使うと、再びチャージが必要なため、凛たちの使うアーティファクトと違いデメリットもあるが、威力はそれを補って余りあると言えるだろう。
「ところでアリーシャお姉さま。先ほど格の違いがどうのと、のたまっている方がいらっしゃったようですが……」
「ほら、シエラちゃん未来の勇者(笑)様たちですよ。でもおかしいですね。接近戦がまったくといってできない、リリアよりも弱く見えますね」
「「……ぷっ」」
わざとらしく煽るシエラとアリーシャ。
それに思わず吹き出すサクラとジュリウス皇子。
これにより、勇者見習いたちの自信を完全に打ち砕くとに成功。
それと同時に今日の攻略は終了とし、彼らは夕食の時を迎える。
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