4話 ア◯ル・ビー・バック
「ふあぁ……すごくおっきいです。ご主人様……っ!」
——ええ、すごく大きいです。アリーシャさん!
アリーシャは都市の規模に興奮。
舞夜は彼女の胸の規模に大興奮。
迷宮都市リューイン。
高い外壁を越えたその先には、綺麗な街並みが広がっていた。
レンガや石造りの家や整理された道。
更に都市のいたるところに水路が張り巡らされ、ゴンドラがゆうゆうと行き来している。
村長の話では、漕ぎ手によるガイドが観光の名物になっているとの事だ。
だが、この都市の一番の特徴は、観光名所などではない。
では何か?
それは、都市の名にもある“迷宮”の存在だ。
迷宮とは魔物の巣窟のこと。
この都市の高い外壁は、外敵からの守りはもちろんだが、万一、迷宮の魔物が氾濫した時の為に、閉じ込めることも目的として造られているのだ。
いざという時には、危険な場所だが、それでもこの都市は栄えている。
迷宮に現れる魔物や、そこで取れる鉱石や薬草の数々が日用品の素材となる。
それらを手に入れ売りさばこうと、冒険者や商人が至る所から集まるからだ。
「あ、ご主人様、あれですよね? 冒険者ギルド!」
街並みを楽しみながら歩くこと少し。
門番の言っていたとおり、白塗りの大きな建物が見えてきた。
冒険者ギルド。
物語やゲームに度々登場するアレの事だ。
魔物討伐から素材採集に始まり、害獣駆除や秘境探索などの依頼の斡旋。
果ては、魔王討伐の為の勇者パーティ募集の案内まで取り扱う組織だ。
「これは……」
「すごい活気ですね」
緊張しつつも中へ入る2人。
扉を開けた瞬間、賑わう冒険者たちの姿が目に飛び込んできた。
見渡せば、いくつものカウンターや掲示板。
奥は酒場になっているらしく、昼だというのに「エールのお代わりくれぇ!」と樽ジョッキを掲げる者や、「ウェヒヒヒ! いいケツだな、揉ませろよ!」などと言い、注文取りの女性にひっ叩かれる者の姿が確認できる。
昼から呑んだくれとは羨ましい……などと、舞夜が思っていると——
「ご主人様、わたしのおしりでよければ、お触りしますか?」
「っ——!? あ、アリーシャさん。悪ふざけはやめて下さい! それよりリーサルバイトの件、報告に行きましょう」
「くすっ、ふざけてなんてないのに。でもそうですね。続きはまた後で……ふふっ」
慌てた様子を見て小さく笑うアリーシャ。
対し舞夜は、(後でナニされるんですかね? おらワクワクすっぞ)などと馬鹿な事を考えながら、空いてるカウンターへと向かう。
「すみません、盗賊の討伐に成功したの……です、が……」
カウンターに向かい、報告をする途中で声が尻すぼみになり……絶句してしまう。
それも仕方ないだろう。
なぜならカウンターの向こうには——
「あんらぁ~! 可愛い男の娘にエルフちゃんじゃない~~っ!! どうしたのかしらん? ワタシの名前は“アーナルド・ホズィルズネッガー”よん。アナちゃんって呼んでねん♪」
「ひっ——」
「ば、化け物……っ」
舞夜が小さく悲鳴をあげ、アリーシャが声を漏らす。
目の前にはアリーシャの言うとおり化け物が立っていたのだ。
2メートルはあろう筋骨隆隆の肉体。
それをギルドの制服ではなく、ボンデージファッションで包み込んだ、盛りメイクでスキンヘッドなおっさんが……。
——なんだこれは!? まさかこいつも魔物なのか! っていうかなんつー名前してやがる!? 色々アウトだろ!
「ご主人様ぁ……。わたしたち、きっと殺されちゃいますよぉ。ご主人様に救って頂いたというのにこんなところで……やっぱりわたしには、檻の中がお似合いなんですね……」
色々規格外な人物に驚愕する舞夜。
その横でアリーシャは顔を絶望で染めていた。
それに対し……
——あ゛ぁ!? 誰が化け物ですって?? 全部聞こえてんのよ!! あんまり調子に乗ってると掘り倒すわよ!? あたしはどっちもイケるし、ノンケだって構わないんだからねっっ!!!
「「ひぃぃぃぃぃぃっっ!?」」
突如として脳内に響く声にパニックに陥る2人。
完全に「こいつ脳内に直接……!?」状態である。
「ず、ずびぜん。ぼぐだぢ、びどびじりで動揺じじゃっで……っ」
恐怖のあまり、涙や鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら、舞夜はなんとか声を絞り出す。
「んもう、緊張しちゃってるのねん、カワイイんだから~ん。とりあえず落ち着いてちょうだいな、それから話を聞くわん」
必死の謝罪に、アーナルド・ホズィルズネッガーさんは、機嫌よく応えるのだった。
【読者の皆様へ】
下にスクロールすると、作品に評価をつける【☆☆☆☆☆】という項目があります。
お楽しみいただけましたら、どうか応援していただけると嬉しいです!