48話 望まぬ来訪者
インペリアルとの出会いから、数日が経ったある日の昼——。
「ん、これは美味しいな」
テーブルの上に広がる料理の1つを口にした舞夜が思わずそう漏らす。
「……よかった。ご主人様、それは私がつくったの」
「すごいな、リリア。自分で作り方を思いついたのかい?」
「……ん」
舞夜が口にした料理は唐揚げだった。
それをリリアはレシピなしに自分で作り上げてしまったのだ。
舞夜が作った醤油を肉に揉み込んで揚げれば美味しくなるのでは? と思ったのが作ろうとしたきっかけだ。
おまけに、使われている肉はこの都市名産の地鶏のものだ。
その歯ごたえは通常の鶏よりもぷりぷりとした弾力があり、味も非常に芳醇。サクサクとした衣の食感が合わさればまさに絶品だ。
そして、今日の冒険者活動は休み。
なので昼間から、魔力で抽出した氷でキンキンに冷えたエールもついてくる。たまらないというものだ。
「む〜。シエラは、まだ料理がへたっぴですの……」
そんな舞夜とリリアのやりとりを見て、シエラが不安げな声を漏らす。
戦闘だけでなく、料理まで完璧にこなすアリーシャとリリアに触発され、最近になって2人に料理を習い始めたのだが、どうにも上手くいかなくて焦っているのだ。
貴族の令嬢という立場。
それにおてんば期間が長かったので仕方あるまい。
「慌てなくて大丈夫ですよ、シエラちゃん。お料理作りは、すぐに上手くなるものではありません」
「……ん。ゆっくり覚えて、一緒にご主人様を喜ばせる」
「……ッ! はいですの!」
そんなシエラを元気付けるアリーシャとリリア。
その甲斐もあって、シエラはすぐにやる気を見せる。
この3人は本当に仲がいい。
種族が一緒であるのと、それぞれ王族に狙われ、危機的な状況に追いやられたという似たような境遇を持っているので、気が合うのは当然というもの。
一緒に料理をする姿や、こうして仲良く接する姿は3人姉妹のようだ。
自分の恋人である美少女たちが仲睦まじく戯れる。
そんな姿を見てるだけで、舞夜は眼福だ。
だからこそ——
「未だに信じられないな……」
と言葉を漏らす。
「どうかなさいましたか、ご主人様?」
「……なにか料理に問題でもあった?」
「お兄さま、なにか考えごとをしている様子ですの」
舞夜の呟きに、3人が心配そうな顔を浮かべる。
「いや、大したことじゃないんだ。ただ、アーシャにリリアにシエラ……3人ともすごく可愛いじゃない?」
「や、やんっ。ご主人様ぁ……いきなりは反則です」
「……ん。キュンってくる」
「心臓とピ――に悪いですの」
——とりあえず、最後のにツッコむのはよそう。
「じゃあ、物理的に突っ込んで欲しいですの!」
——怖っ! 心を読みやがった!?
読心したシエラの発言に、戦慄する舞夜。
それはさておき。
そんな美少女3人が自分なんかに想いを寄せてくれている……舞夜はその事実が信じられないのだ。
それを聞きアリーシャたちは……
「なにを言うかと思えば、あたりまえではありませんか!」
声を大きくして、ちょっとむくれるアリーシャ。
そのまま舞夜を優しく抱きしめ、「自分なんかなんて言ったら、めっ! ですよ?」と微笑む。
「……ご主人様は私たちを救ってくれた」
「そうですの! とっても優しくて、その上、お顔まで綺麗……」
アリーシャに続く2人。
シエラが途中まで言うと揃って、舞夜の顔に見惚れてしまう。
容姿も含めて惚れられている。
それこそが、舞夜が未だに信じがたい事実なのだ。
なぜならば……
「ぼくの顔のことなんだけどさ……本気で言ってる? だって地球にいる頃は、女みたいな顔だって、女子たちからいじめられてたよ?」
「「「ッ——!!??」」」
舞夜の言葉にアリーシャたちが、目を見開き驚く。
地球という単語が出たからというわけではない。
反応したのは、「いじめられていた」という言葉の方だ。
舞夜の正体は、アカツキたちの鑑定スキル《ステータス》によって看破されていた。
黙っていてもそのうち分かることだし、隠す意味もない。
そんなわけでアリーシャたちには戦いのあと、自分の出自を舞夜は話していたのだ。
アリーシャたちも、舞夜の特徴的な容姿に、この世界に存在しない闇魔法を駆使する姿を見て、おそらくそうであろうと見当をつけていた。
そんなわけで、案外すんなりと受け入れられたのだった。
「こんな……こんなに愛らしいご主人様をイジメた……っ!? 地球の住人はクズばかりの様ですね……っ!? ですが安心して下さい。ご主人様」
「……んっ、私達が癒してあげる」
「今日はシエラに甘えてほしいですの」
「「「ふふふ……っ」」」
「ちょっ、待って……まだ食事中——」
舞夜の悲しい過去を聞き、アリーシャたちの、甘やかしモードとエロフモードのスイッチが同時に入ってしまったようだ。
揃って瞳にピンクのハートを浮かべ、両指をわきわきさせながら舞夜へと迫る。
だが、舞夜は目の前の唐揚げを食べたい。
唐揚げはサクサクのうちに食べるべきだと抵抗するが、3対1。
——唐揚げは諦めるしかないか……。
と思ったその時。
コンコンコンッ——
玄関の扉から、ノック音が鳴り響いた。
「おっと、お客さんだ。ぼくが出るよ!」
普段であれば、どうせ言い寄る貴族や商人だろうと、居留守を使うのがほとんどだが、今回ばかりはこれ幸いと、舞夜は玄関へと駆けて行く。
少しだけ相手をしたら追い返し、唐揚げを堪能するつもりだ。
「あぁ……! ご主人様ぁ、この疼きはどうすればぁ……」
「……んっんっ……! 生殺しぃ……」
「シエラは、シエラはぁ……お預けもたまりませんのぉ……。ひゃうっ、ちょっと漏れましたの……」
後ろで悩ましげな声が連鎖するが、舞夜は振り向かない。
だが、彼は後悔した。
いつものように居留守でも使って、アリーシャたちとの幸せな時間を過ごしていればよかったのにと。
なぜなら、ドアを開けたその先には——。
「あ〜! やっぱり舞くんだぁ〜〜!」
「はわわっ! 名前と容姿の噂を聞いて、もしかしてと思ってたけど、本当だったんだね〜!」
先ほど、舞夜がいじめられていたと言っていた女子グループ。
その中心人物である、“東堂凛”。
そして、その親友、“西蓮桃花”。
2人の少女が立っていたのだ。
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