44話 魔導士
タンッ——!!
舞夜の懐に飛び込もうと、アカツキが《瞬歩》を使い、加速する。
だが——
「なにッ!?」
驚愕の声をあげるアカツキ。
それも当然、そこに舞夜の姿がなかったのだから。
「どうだ? 逆に意識の外から踏み込まれた気分は?」
「ッ——!?」
アカツキの背後からの声。
そこには紅い瞳で静かに見つめる舞夜。
「貴様、妾の《瞬歩》を見抜いておったのか?」
「ああ。と言っても、それに気づいたのは今さっきだ。それより喰らえ!!」
ボグゥ——ッ!!
「ぐぇぇぇぇッ!?」
言うやいなや、舞夜の拳が繰り出される。
そしてアカツキの腹にめり込んだ。
アカツキは胃の中のものを、なんとか抑えつけ、舞夜から飛び退く。
——これは……本当に目覚めているようじゃな、“魔導士”に……!
舞夜の動きに、アカツキは確信する。
魔導士——。
それはこの世界に伝わる伝説の存在。
紅き瞳を持ち、その瞳で全てを見通す者。
その力は、魔王を束ねし存在“魔神”すらも屠る。
かつて、初代勇者が持っていたとされる力だ。
その伝説のとおり、舞夜の紅い瞳には全てが見えていた。
コンが最期に発動しようとしていた魔法。
そして、アカツキが駆使する《瞬歩》、そのからくりが、意識の逸れた一瞬を突いて放たれる、超高速の踏み込みであることも。
今の舞夜の瞳には映っているのは、“魔素”の世界だ。
舞夜がこの世界にやってきた日、ギルドで説明したとおり、魔素はあらゆる生物、物質、そして元素を構成する存在だ。
移動や呼吸、何かしらの行動をする時、体を構成する魔素に揺らぎが生じる。
魔導士の力は魔力の無限生成。
そして魔素の可視化。
つまり、舞夜は魔素の揺らぎを見ることで、コンやアカツキの行動を看破したのだ。
以前、迷宮でトロール・ジェネラルの熱線攻撃を回避できたのも、目覚めかけたこの力が無意識に発動したからだ。
魔導士覚醒の条件は3つ。
魔法使いとしての位階の高さ。
高い魔力の生成力。
そして純粋な感情の高まり。
もともと魔法使いとして優秀だった舞夜だが、この世界に来て、魔力付与や融合魔法など、地球では学びもしない魔法構築技術を会得することによって、魔法使いとしての位階が高まった。
さらには、ポーションでの魔力回復を繰り返すことにより、魔力の生成量が上がっていた。
そして、ここに来て怒りの爆発。
意図せず、全ての条件を満たし、舞夜は覚醒したのだ。
「行くぞオラァァァァ——!!」
「ぐぁぁぁぁッッ!!??」
またも舞夜が魔素の揺らぎを見て、アカツキの意識が逸れた瞬間を狙い、拳を叩き込んだ。
——このッ……!!
2度もの攻撃、それも魔法使いである舞夜に、剣の勇者であった自分が接近戦で遅れをとった事実に、アカツキも怒る。
だがこれだけでは終わらない。
アカツキが悪態を吐こうとした、次の瞬間——
ブォン——……!
その口先に、《慟黒剣》が突きつけられる。
無論、これも魔導士の力を使った意識外からの攻撃だ。
——ああ、何があっても勝てん。じゃが、これで妾も安心じゃ。
「それで、本当の目的はなんだ、アカツキ?」
アカツキが諦め、目を閉じた時、舞夜がそんな疑問の声を口にする。
「……驚いたわい。そこまで気づいておったとは」
「まぁ、今にして思えばってやつだけど……」
魔導士に目覚め、アカツキを圧倒する中、舞夜は思い出していた。
アカツキの攻撃が全て、致命傷をさけていたこと。
シエラが舞夜を庇い、攻撃を受けた際に追撃をしなかったこと。
そして、舞夜がコンの攻撃により致命傷を負った時、明らかな動揺を見せていたこと。
そして気づいた。
アカツキの目的が本当は自分を殺すことではなかったことを。
「どういうことですか、お師匠さま!」
「……本当の目的?」
「説明を要求しますの!」
アリーシャたちの言葉に「もちろんじゃ」と、頷き、アカツキは話し始める。
彼女の本当の目的を……。
「妾の目的、それは舞夜……貴様の力を試すことじゃ」
「ぼくの力を? どうして?」
「命令されたのは暗殺じゃ、そんなもの冗談ではないと、断ろうとしたんじゃが、貴様とアリーシャがなかなかいい関係と耳にしてのう。であれば愛弟子の婿殿になるかもしれん相手……。相応の実力があるか試したくなったのじゃ」
それが終わったら、隙を見てコンを殺害。
暗殺なんて命令してくるアルフスなどには居たくない。
自分は雲隠れするつもりだった。
そのようなことが、アカツキの口から説明をされた。
「「「「…………」」」」
アカツキの言葉を聞き、絶句する舞夜たち。
——そんなことの為に、ここまで大掛かりな計画に加担してやがったのか!?
頭の中で、誰もがそんな悪態を吐いていた。
「ご主人様、こいつ殺しましょう」
「……ん。成敗」
「覚悟するんですの!!」
「そうだな。アカツキ、楽に逝けると思うなよ?」
当然、舞夜たちの怒りが収まるはずもない。
これから始まるのは魔導士に目覚めた絶対強者と、彼を愛する者たちによる、生き地獄だ。
「ちょっ、待つのじゃ……終わりよければ全て良しじゃろう……。あぁっごめんなさい! やめてもげちゃう! もげちゃうのじゃ! 待て! その関節の曲がり方は……アァァァァァァァァァ——————ッ!!??」
本当は殺したいところだが、今回の件を抗議する為の証人は必要だ。
だからこそ、舞夜たちはアカツキを蹂躙することにした。
この後、半日近くアカツキの叫び声が森に響き渡り、それを聞いた冒険者が霊の声だと噂し、後にこの森が“叫びの森”と恐れらるようになったとかならなかったとか……。
とにもかくにも、これにて2人の王族の思惑は失敗。
舞夜たちに、つかの間の平穏が訪れるのであった。
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