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地球で虐げられた《最強》闇魔術士は、異世界でエルフ嫁たちに愛される  作者: 銀翼のぞみ
一章

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43話 紅き瞳の目覚め

 幾重にもぶつかり合う双刀。

 剣撃と剣撃が織り成す剣戟。

 一度の交差で、五連撃、六連撃は当たり前。


 方や、《剣聖ノ加護》を纏い、美しく舞うアリーシャ。


 方や、先代勇者としての圧倒的な経験と技量。

 そして、彼女の師として絶対の実力を持つアカツキ。


 互いに使うのは、月天輝夜流双刀術。

 熾烈なぶつかり合いは必至だった。


「そこじゃ!」


「ぐッ!?」


 撃ち合いの中。

 アカツキが姿を消す。

 かと思えば、次の瞬間、アリーシャの背後に現れ袈裟斬りを繰り出す。


 アリーシャは間一髪で、背にまわした脇差しでそれを捌く。


「……咬みつけ《キマイラ》!!」


『グルァッ!!』


 次なる攻撃を許さまいと、リリアが《キマイラ》をさし向ける。


「くっ、獣風情が……!」


 《キマイラ》の尻尾の毒牙を見て、攻撃の手を止め、アカツキが距離を取る。


 ——ご主人様とお師匠さまを戦わせるわけにはいきません。


 仕切り直しとばかりに双刀を構えなおす、アカツキを睨み、アリーシャが内心呟く。


 理由は2つ。


 1つは、アカツキの持つ片方の刀が、妖刀“闇時雨”であるから。

 その能力は、舞夜が目の当たりにしたとおり、魔力攻撃の無効化。

 その刀身に触れた魔法は、魔力構築を崩され、吸収されてしまうのだ。


 もう1つは、今アリーシャがギリギリで対処した不可視の踏み込み、“瞬歩”。

 月天輝夜流の奥義であり、アリーシャが唯一会得していない技だ。


 《剣聖ノ加護》を全力で発揮して尚、エルフの感で受け止めるしかなく、リリアのサポートも合わせて、なんとか対応しているのが現状だ。


 遠距離特化の舞夜にとって、最悪の相手。

 何があっても行かせてはならない。


「いきます!」


「……んっ! 全力全開ッ!!」


 アリーシャが飛び出し、リリアも《召聖ノ加護》で四肢を輝かせる。





「《七星ノ闇魔剣(セブンス・ブラック)》!!」


「くひゃひゃひゃっ! 無駄無駄ぁ! 《プリズム・フィールド》! 《フレイム・ランス》!!」


 舞夜の魔剣に対し、コンは光の壁で対応。

 同時に、シエラに向けて炎槍を放つ。


 魔法無効化の固有スキルに加え、舞夜の《黒ノ魔槍(ブラック・ジャベリン)》に匹敵するほどの上級スキルを同時発動。

 つまりコンは、以前、舞夜が耳にした“二重詠唱スキル”を持っているということだ。


 さすが、賢者と呼ばれるだけのことはある。


「させるかッ!」


 シエラの前に舞夜が駆け出す。

 そのまま、タワーシールドで《フレイム・ランス》を防御。


「今ですの!」


 その影から、シエラが矢を放つ。


「だから無駄なんだよぉ!《フレイム・ピラー》ァァァッ!!」


 コンの前に炎の柱が昇り立つ。

 高速で放たれたシエラの矢も、巨大な炎の前では焼き尽くされるのみ。


「くひゃひゃひゃっ! 今度は2発だ!!」


 再び放たれる《フレイム・ランス》。

 シエラの援護もあり、なんとか対応する舞夜だが、状況は悪い。


 長時間に渡る戦闘で、シエラの矢の本数も残り僅か。


 舞夜の魔力も底が見えてきた。

 ポーションで回復しようにも、敵はその暇を与えない。


 だというのに、コンの魔力が衰えた様子はない。

 次々と魔法を繰り出してくる。


「どうした、アリーシャよ! 動きが鈍くなっているぞ!!」


「くっ……! 黙りなさい!!」


 舞夜の耳に、挑発するアカツキと、苦しげなアリーシャの声が聞こえてくる。


 チラッとその様子を見れば、アリーシャの顔には大粒の汗が浮かび、振るわれる双刀も開戦直後のキレがない。


「はぁっ、はぁっ……《キマイラ》後ろから回りこめ! 《雷蟲(らいちゅう)》噛みちぎれ!!」


 新たな使い魔を召喚し、指示を飛ばすリリア。

 だが、彼女もまた息が荒く、四肢の輝きもチカチカと点滅し始めている。

 加護を使いすぎて、体力の限界がきているのだ。


 ——このままじゃ……。


「よそ見してる余裕があるのかなぁ!?」


 アリーシャたちを心配する舞夜に向け、コンがまたもや《フレイム・ランス》を発動。


 舞夜は咄嗟にタワーシールドを構えるが——


「しまった!」


 その直後に舞夜は気づく。

 《フレイム・ランス》の軌道が自分に向いていないことに。


 コンの狙いは、舞夜のいる斜め後方。

 アリーシャだったのだ。


「やらせるか!」


 《フレイム・ランス》が自分の横を通過するその一瞬で、舞夜は《黒ノ魔槍》を放ち、相殺する。


「ようやっと隙を見せたのう?」


「なっ——!?」


 アリーシャへの直撃を防いだその直後。

 アカツキが舞夜の目の前に現れた。

 どうやら、瞬歩を使ったらしい。


 舞夜は理解する。

 絶対に自分が回避できないタイミング。

 敵はこの時を待っていたのだと。


「だめぇぇぇ——!!」


「がぁっ!?」


 だが、死を覚悟した次の瞬間。

 舞夜は突き飛ばされた。


 声をあげるシエラによって——。


 ザンッ!!


「あっ……」


 鋭い斬撃音。


 そして弱々しい声。


 シエラの腹をアカツキの妖刀が切り払っていた。


「シエラ……シエラぁぁぁぁッ!!」


 自分を守るためにシエラが……。

 その事実に動揺し、舞夜は杖も盾も投げ出しシエラへと駆け寄る。


「ま、舞夜お兄さま……。これで迷宮で救っていただいた恩は返せましたの……けほっ……!」


「何を……! 何を言ってるんだ!!」


 血を吐きながら、小さく笑って言うシエラ。


 だが、まだ間に合う。

 舞夜は彼女にハイポーションを……そう思った時。


「あ〜あ、何やってるのさ。アカツキさん……。まぁいいや《フレイム・ランス》」


「あがぁぁぁぁぁ!?」


 舞夜の背中にコンが魔法を放った。

 勢いで舞夜は数メートル先まで飛ばされる。


 体を炎に包み込まれ、のたうちまわる。


「くひゃっ。丸焦げで気持ち悪いなぁ、舞夜君。でも安心して良いよ? シエラ様は僕が治してあげるからさぁ。君はそこでもがき苦しみながら、3人が連れて行かれるのを見てると良いよ……くひゃッひゃッひゃッひゃッ!!」


 高笑いしながら、シエラにハイポーションをふりかける、コン。


 そしてその後ろから、舞夜に駆け寄ろうとするアリーシャとリリア。

 なぜは分からないが、焦った顔のアカツキまで一緒だ。


 その光景を見て舞夜は……


 ——ああ、僕のせいだ。


 薄れゆく意識の中、後悔する。


 自分を守ろうとし、シエラは傷つき。

 自分がこの世界にきたばかりに、アリーシャとリリアさえもこんなことに巻き込まれ……。


 だが、それと同時。

 舞夜の中には後悔の他に、もう1つの感情が芽生えた。


 ふざけるな!

 このまま、大切な者を奪われてなるものか!!

 お前はそれでいいのか!?


 アリーシャたちを奪おうとする、コンとアカツキ。

 それを指示した黒幕。


 そして何より、アリーシャたちを守ることが出来ない、非力な自分に対する怒りが全身を支配した。


 焼け爛れた体が、さらに熱くなるような感覚を舞夜は覚える。

 まるで、怒りに呼応するかのように、体の奥から沸沸と……


 そして——


「シエラから離れろ。クソ野郎……」


「くひッ!? なんで……どうしてお前が立ち上がるんだ! それに傷まで……!? それにその()はなんだぁぁぁぁ!?」


 舞夜は立ち上がった。

 全身に負ったはずの火傷は消え失せている。


 そして、怒りに燃えるその瞳は、真紅に染まっていた。

 迷宮で、トロール・ジェネラルの攻撃を回避した時と同じ色に——


「《慟黒剣(ドウコクケン)》……!」


 舞夜が呟く。


 すると彼の手の中に、一振りの魔剣が現れた。

 色は闇色、その刀身を鼓動のように闇紫の波紋が広がっていく。


「……ッ、《プリズム・フィールド》! くひゃひゃひゃッ! どんな手を使って立ち上がったか知らないが、魔法は効かないって言ってるだろ、この馬鹿——」


「死ね」


 突如として復活した舞夜。

 そしてその瞳の色の変貌に、コンは、ある存在(・・・・)を思い出し、焦る。


 だが、すぐに冷静さを取り戻した。

 自分には、固有魔法プリズム・フィールドがある。

 ゆえに、舞夜がその存在に成りえたとしても自分の敵ではないと判断した。


 しかし、それが命取りになる。


 ブォン——……!


 言葉とともに、舞夜の振るった魔剣がコンの罵倒を遮った。


「え——?」


 コンは気づいた。

 自分の視界が、下へ、下へと落下していくことに。


 だが、そこで意識は途絶えた。

 自分が、舞夜に首を斬り飛ばされたと理解する間もなく、そして舞夜が本当にその存在に成り得たのか知ることもなく、死んでいくのだった。


 それと同時、舞夜の手にした魔剣が効力を失い、霧散する。


 《慟黒剣》——闇魔法、唯一の近接攻撃魔法だ。


 その特性は“奪う”。

 だが、《慟黒剣》が奪うのは、他の闇魔法のように生命力ではない。


 《慟黒剣》が奪うのは、その刀身が触れた“存在”だ。

 ゆえに、コンの《プリズム・フィールド》は《慟黒剣》を無効にするどころか、逆に消しとばされたのだ。


 魔力を無効化する魔法であっても、存在そのものを消すという事象を操る《慟黒剣》の前には、その効果を成さない。


 では、なぜ、そのような魔法を持ちながら今まで舞夜は使わなかったのか。

 それは、《慟黒剣》の発動には、厳しい制約があるからだ。


 《慟黒剣》は発動の際に、術者の魔力を根こそぎ奪う。

 一度発動してしまえばそれまでだ。


 仮に発動したとしても、一瞬で効力を失い霧散する。

 存在を奪えるほどの強力な魔法、長時間の維持などできるわけがない。


 にも関わらず、今回舞夜が《慟黒剣》を発動したわけだが……


 舞夜には分かっていたのだ。


 コンが、しようとしていたことが——。


 そして、自分がこの危機の中で、再び目覚めた力のことが——。


「舞夜お兄さま!」


 ハイポーションにより、一命を取り留たシエラが舞夜へと駆け寄ってくる。


「大丈夫かいシエラ?」


「はいですの!」


 シエラの様子を見て、舞夜は安堵する。

 これで、舞夜の気がかりはなくなった。


「ご、ご主人様……」


「……その瞳の色」


「アリーシャ、リリア、話は後だ。そこで見ていてくれ」


「「はい……ッ!」」


 淡々と、しかし、絶対の自信を感じさせる舞夜の言葉に、アリーシャとリリアは頬を染め、従順に返事をするのみだ。


「さあ、来い。アカツキ」


「くくく……。まさか目覚める(・・・・)者がいようとは……。面白くなってきおった! 予定(・・)とは、ちと違うが、相手をしてやろう!!」


 赤く染まった舞夜の瞳を見て、アカツキは楽しげに叫ぶと、一気に飛び出した。


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